影
お楽しみいただけたら幸いです。
かなりラフな挿絵を入れています、苦手な方はお気をつけを。
「わざわざこのような部屋へお越しいただかなくとも、お呼びくだされば直ちに向かいましたのに。ロズウェル卿、どうかなされましたか?」急な訪問者に焦りを見せる事もなく落ち着いた対応をするマカロフ兄の様子と弟アーロンの姿がまるで重ならない。彼らマカロフ兄弟曰く、兄は母親似で弟は父親似だそうで見た目同様中身もまるで違うそうだ。『でも、強さは一緒くらいだぜ!』と、弟アーロンは言っているらしい。
「ホッホッホッ、いえいえそれには及びませんよ。それに、モダンで素敵なお部屋、そう謙遜なされますな」ロズウェル卿のその言葉に対してマカロフ兄は部屋を褒められたのが恥ずかしかったのか「ありがとうございます」と短く返しロズウェル卿を来客用ソファーに案内した。
「紅茶とニンジンケーキを用意させていますので少々お待ちを」そう言いながらロズウェル卿の正面ソファーに腰掛け紅茶とニンジンケーキの到着を待ってから話し始めた。
「美味しいニンジンケーキでした」
「お口にあったようでよかったです。して、要件はいったい?回りくどい言い回しは苦手なもので、直接的で申し訳ございません」
「ホッホッホッ、かまいませんよ。先日の怪物の調査が終わりましたのでね、持ってきただけですよ」そう言いながら二枚の魔用紙を手渡してきた。
(ロズウェル卿自らが持ってくること自体が変だが、直接来るなら何故口頭説明じゃないんだ? それに何故に魔用紙で… )マカロフ兄は疑問を顔に出すことなく一枚目の魔用紙に目を通した。
・ウォルターボの怪物:【 屍霊形種 】
・種族強度:【 Lv.89 】
・肉体素材:キラーマリオネット、ゾンビ、他
・クラス:【 不明 】
・肉体強度:【 ゴールド 】
etc.
・備考/憶測:殺人鬼により人形にされた人々の怨念が核となり魔物達の戦争で死んでいった者達の死霊を引き寄せ吸収しあのような怪物になったと思われる。
他にも様々なデータが書かれているが想像の範疇の内容であり、ロズウェル卿がその足で持ってくるような内容ではない。
ならば、その理由は二枚目にある。
マカロフ兄の顔が固まる。
「これは… 」
・霧曇 蓮華:種族不明
・種族強度:【 Lv.●● 】
・クラス:【 冒険者 】
・肉体強度:【 プラチナ+ 】
・魔力:【 アダマンタイト+ 】
・生命力:【 レッド 】
・筋力/筋柔軟性【 レッド 】
etc.
・備考/憶測:出現させた金剛石は古代魔法の可能性有り。怪物の消失、その方法に関しては【 ネガティブチャージ 】又は【 全能吸収 】のようなもので存在事吸収し消失させたとしか考えられず、金剛石又は霧曇 蓮華様ご本人に何らかの力が宿っていると思われる。複数の住人が醜い馬の様な姿になっていた霧曇 蓮華様を見ており、後者の可能性が非常に高い。仮説だが、世界の負を吸収し浄化しているのではないのだろうか。醜い馬の姿も負を吸収した結果、呪いの様なものを受けたと思われる。
「いつの間にこのようなものを…」白彦様と行動を共にしている街を救った英雄の裏を探る様な行動を取っていては、この街では、自らの手で持ってこざるを得ない。世界の負を吸収し浄化している、もしそうだとしたら感謝の言葉もない。だからこそこうして持ってこられたのだろう。
「魔法省も色々でしてね」難しい顔をしているところを見るに、心労が絶えないようだ。
「心中お察しします。にしても、凄いアンバランスなステータスですね…」レッドは鉛を表しており、その意味は最低評価だ。プラチナは一般に公表している評価指数の最高値であり、+はその中でも上位を意味している。そしてアダマンタイトは一般には非公開の上位評価指数三つの中の最初の一つであり、【 特異点 】と呼ばれる者達や【 魔物 】達にしか到達できないとされている領域だ。
つまり…
「霧曇嬢は特異点である、ということですか… ?」わざわざこのような資料を持って来たのは、街の防衛を任せられている私と街の救い主である霧曇嬢、そして白彦様への思いやりの気持ちからだろう。
(白彦様だけではなく特異点までもが街に… しかし、生命力は低いようだな。有事の際の為に配置を改めなければならないな)この時、霧曇 蓮華と白彦の宿泊する宿の警備がより一層強固なものへとなる事が決まった。
「その可能性が高いでしょうな、白彦様は神位の聖獣、神獣で在らせられますからね」《神の手》は禁止されているので神獣白彦様と一緒に居るという事は、魔物の戦争とは無関係だという事だろう。
(ルールを信じるならだけどな)種の殲滅と言うあまりにも無茶苦茶なルールを設けているこの戦争に対する疑問は多い。
魔物は強い、強すぎる。一体一体がエンシェントドラゴン級の長者であり強者である、まさに魔物なのだ。それの殲滅など、狂っているとしか言いようがない。
しかし、しかしだ。
つい最近、その考えを改めさせられる出来事が起きた。
(あの暴嵐は魔物の戦いによるものだと分かったからな)
強すぎるどころではなかったのだ、このままでは先住民である我々は暴嵐に呑まれて死んで行く未来しかないように思える程に強かった。
狂った存在には狂ったルールが必要だったという事だ。いや、逆なのかもしれない。この狂ったルールに合わせて創られた狂った存在なのだ。
だからこそ、魔物なのだ。
「魔物以外に、こちら側の存在に、強者が一人でも多く居るという事は少し心強いですね」謎は多い人物だが、皆の言う通り、英雄足りうる存在なのかもしれない。
(話してみたが悪い人には思えなかった、それにあいつも『あの方は善民です』と言っていたしな)だから、信頼する部下の言葉と己の感を信じる事にしたのだ。
「ホッホッホッ、『少し』ではないですよ」そう言いながら魔用紙を魔力を込めた指で突いた。
・種族強度:【 Lv.12 】
「!?」
「このステータスでいまだLv.12だったのですよ、怪物を倒す前はLv.1でした」
「え!?」
「ホッホッホッ、私の持つスキルの中に相手の強さを見ることができるものがありましてね」サラリとスキルを複数持つことを知らされて動揺が隠し切れないところまで来てしまった。
「ちょ、ちょちょ、ちょっとお待ちください!」ロズウェル卿はそれを快諾してくれたので息を整え直し、改めて話を聞かせていただけた。
「つまり、霧曇嬢は産まれながらにしてLv.89の屍霊形種相当、戦闘系のクラスに就いた獣人だとLv.63前後に相当する卓越者だということですね」
「貴方兄弟のように星持ちのクラスだとLv.40代後半程ですかね」
「ロズウェル卿、貴方は霧曇嬢がこのまま成長すればどれほどの存在になるとお考えですか?」
「【 冒険者 】は秘められた世界の真理を開けし鍵を掴む事の出来るクラスの一つ」
「まさか… !」
「霧曇嬢ならその足でこの世界の秘められた真理を開いてくれるやもしれません」
「白彦様が霧曇嬢を主と呼んでいたのは… 」
「ホッホッホッ… 私達だけでこの秘密を抱えるのは、ちと胃が痛いものがありましてね」この『私達』という発言に己は含まれていないと悟っているマカロフ兄は苦虫を噛み締めたような顔をする。
「了解しました、有事の際には出来うる限りの事はさせていただきます。 しかし、霧曇嬢がこの街に残ってくれるとはかぎりませんが、そこはどうなさるおつもりで?」
「魔法省も色々でしてね…」悪い笑みだ。
「なるほど…」
しばし大人の談笑に花を咲かせ、話も終盤に差し掛かって来た頃、ロズウェル卿は一つのリングを手に取った。
「このアイテムをお渡ししておきましょう」
「おお、これはこれは、なんと高価なものを」
「ホッホッホッ、知っておいででしたか」
「転移魔法のかかったリングですね、この街にもあると聞き及んでおりますので」
「ホッホッホッ… さすがですなぁ… 実はソレとは別のものでしてね。実は、近々魔法省の運営で転移魔法の陣像を各地に設置する事が決まりそうなんですよ」
「なるほど、これを霧曇嬢に渡すことで居場所を把握しておきたいのですね?」『回りくどい言い回しは苦手なもので、直接的で申し訳ございません』と、自ら言うだけあって直球だ。
「直接では怪しまれてしまいますので、こういう方法はどうでしょうかね?」そう言ってロズウェル卿は話を進めた。
*
ドラゴン、一口にドラゴンと言っても様々な種類が存在する。
まず大きく二つに分けられる、翼竜と甲殻竜だ。
次に、哺乳類型、爬虫類型、鳥類型、魚類型、蟲類型とある。
このことから分かるように、ドラゴンとは生物が強さを求めて進化し続けた結果なのだ。
つまり!ドラゴンこそが最強の生物なのだ!
…それはさておき、今回私達が討伐を目指すのは鳥類型の翼竜だ。その特徴をまとめた図鑑から一部抜粋して説明するならこんな感じだ。
鳥類型特有のドラゴン的な特徴として、まず先に挙げられるのは鱗と化した羽だろう。部位により柔らかさと柔軟性、そして硬度を変えられるのは鳥類型特有のものだ。五つのドラゴンの型で最も空を統べているのは鳥類型と言えるだろう。この鱗と化した羽により、空を統べる程の俊敏な動きを行えるのだ。
次に、嗅覚を増す為と飛行中も安定した呼吸をする為に伸びた鼻、そして鼻元から前方に伸びた角だ。元々は上の嘴であったものが皮膚を突き破り伸びたとされるこの角は、変温動物である鳥類型にとって死活問題である気温の変化や空を飛ぶ上での最重要情報である風の流れを敏感に感じ取る為の器官として伸びたとされている。が、求愛行動の際や、獲物を叩き攻撃する為に使われているところも確認されている。長く伸びた鼻は軽く垂れ下がり、高速移動をする際に生じる肺への激流を和らげている。因みに、前に伸びた角と軽くではあるが垂れ下がった鼻のせいで啄む事が出来ないので下の嘴が伸びシャクレており、すくい上げる様にして獲物を丸呑みにしている。
次に、喉にある頬袋が挙げられる。ドラゴン最大の武器【 息吹 】その効率と威力を上げるにはどうしても空気圧力を高め魔力を混ぜる為の頬袋の様な部位が必要なのだが、それを持たなかった鳥類型は顎の下、喉元にその器官を創ったのだ。結果、鳥類型の喉元は柔軟性と伸びのある皮膚で出来た袋、更にそこに生える硬質化した柔軟な羽により守られる事となり、ここに、強靭で俊敏な空の支配者が誕生することとなった。
(こういう勉強は好きだ)ウォーカーは私にとって転職かもしれない。
「哺乳類型と爬虫類型の翼竜の翼膜には、勿論だが血管が走っているからな。あんまり叩くと鬱血して価値が下がるから気を付けろよ。あと、早めの血抜きも大切だからな。まあ、今回は鳥類型だから関係ないけどな」ずっと白彦に横座りで乗っている私と違いアーロンさんは歩き通しだ、だが疲れている様子がまるで無い。流石は臨時支局長だ。
「でも、翼への打撃は控えた方が良いですよね?」軽量化の為にか翼竜の翼の骨はスカスカで打撃に脆い、しかも、体を起こす際に腕立てをする様な形で体重を掛け酷使しており疲労骨折の痕も多々見られるそうだ。なので、素材を売るなら打撃は極力控えた方が良いと思われる。
私と白彦は旅の資金作りの為、アーロンさんは酒のつまみの為に今回のこのドラゴンを倒せたら素材を売るつもりなのだ。討伐クエストなので殺すだけで良いのだが、命は無駄にしたくないので出来る限り綺麗に倒そうと思っている。
因みに、翼竜の翼がそのまま使用可能な素材として出回る事は少なく高額で取引され、舵取りの役割を果たしている尻尾も見た目以上に軽く打撃に脆いので翼同様に高額で取引されている。なので、今回は翼と尻尾がメーンだ。だからその部位にはより一層の注意を払わなくてはならない。
しかしこれは翼竜の話であって、甲殻竜だとまた話が変わって来るらしい。
「んー、霧曇さんはそうした方が良いかもなー。戦う時は魔力でその身を護っているからそれなりには丈夫だけどねー」
「なんだか、私が馬鹿力みたいな言い方ですよねー」
<グッ!>
その立てられた親指をへし折りたくなった。
「ぬぬぬ!湖の香りに近づいてきたでござるよ!」それは水や水草の香りだろうか?
「白彦ってさ、湖が好きなの?」やけにテンションが高い。
「そうでござるよ!」素直で可愛い。
「鼻息が荒いよ~、ん~。先に行って水浴びしてくる~?」そう言いながら鬣をわしゃわしゃする。サラサラしている。
「良いのでござるか!?」急に振り返って来たので長い鬣にビンタされる。サラサラしている。
「おお~」なんだか幻想的だった。
「俺も見ていますし、大丈夫です。任せて下さい白彦様」今度は親指を立てずに胸を叩いて見せた。仕方ないけど、何だこの差は。
暫しアーロンさんを見つめた白彦は「なら、宜しくお願いするでござるよ」とはにかんで見せた。たぶん、この微妙な表情の変化は私にしか分からない。
「お願いだなんてとんでもございません。お任せ下さい白彦様」こういう機会が今まで無かったので違和感を感じてしまう。
「白彦って凄いんだね~」鬣をわしゃわしゃしてから地面に降りた。今更ながら、お供えされた多額の現金もそうだが、神殿を建てられているのは凄すぎる事だと思う。
「そんな事は無いでござるよ、上には上があるでござるからな」
「それは大いなる神の事ですよね…」アーロンさんでも苦笑いをするんだと軽く驚いた。
( Clown=Lord 様も居るけどね)
「では、行ってくるでござる!」
「行ってらっしゃーい」もの凄い勢いで駆けて行った。
「じゃあ行きますかねー」
「はーい!」いよいよ!ドラゴン退治だ!ワクワクしてきた!
「霧曇さんはその杖で戦うの?」
「はい!」
「魔法的な遠距離で?それとも先日みたいに金剛石で殴るの?」先日のは別に殴ったわけではないし、そもそもしたくてああなったわけではないのだ。この人は、この狸は、それを分かっていて聞いてきているに違いない。だって狸だから。
しかし、「フッフッフー」実は白彦との勉強を重ねたおかげである【 技 】を習得しており、今回はその初実戦を行うのだ!「秘密でーす♪」あとで驚かしてあげよう。
「ケチだなぁ、教えてくださいよー」
「フッフッフー、嫌ですよー」
「何だアイツら、旅人か?」談笑しながらドラゴンの住処へと向う二人の背中を見つめる影があった。「面白そうだしついていってみようかな」
お読みいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いいたします。




