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地点F内伝 ~ニトロハート③~

投稿が遅くなりました。

 ニトロハートとは、魔物の出現と時を同じくして現れた爆発感染と言う特異な性質を持つ殺人ウイルスである。

 ニトロハートは感染者との接触以外では感染する事がほぼ無い、だからこそニトロハートと言う名のこのウイルスは胞子を飛ばすキノコの様に破裂する。

 いや、破裂させるのだ。

 人を。

 破裂し広範囲に飛んだ感染者の飛沫がほんの少しでも付いたり吸引してしまったなら感染確率は99.99%である。

 新たな宿主を得たニトロハートは人の骨髄に潜伏し、血を通してウイルスが全身に回るまでの一定期間を待ち続ける。

 そしてウイルスが全身に行き渡ると筋肉に定着し変質させる。

 見た目には何の変化も無い、だが、恐ろしい変化を及ぼす。

 ニトロハートにより変質した筋肉は、動く度に爆発物質を生成し蓄積していくようになる。

 毎分85の心拍数の心臓が24時間で生成蓄積する爆発物質のその質量はTNTトリニトロトルエン当量で1TNT換算トン、重さにして0.5g、身長175㎝ 体重68kgの人が蓄積可能な質量は1.8kgであることからこのウイルスの恐ろしさが分かるだろう。

 爆発する条件は血液の流れと筋肉への命令信号がどちらとも30秒以上止まること、肉片であろうともこの条件を満たせばニトロハートは爆発する。

 以前、都市部で連鎖爆発を起こした事があった。

 言うまでもなくその都市が消し飛び、風に乗り拡散したウイルスが国中に蔓延し国が滅んだ。

 ニトロハートにより滅んだ国の数は50を超え、死者数は魔物全体による死者数と肩を並べている。

 歴史上最悪の殺人ウイルス、それがニトロハートだ。



 恐ろしい事に人はこのウイルスをエネルギー資源として活用できないかをいまだに研究し続けている。

 らしい、噂だがな。




   *




「どうすればいいんだろう」カレンさんと連絡がつかなくなってから一ヶ月が経った。レンは二週間ほど前に『カレンさんを探しに行ってくる』とログを残して以来音沙汰がない。

「本当にー、どうしよー」マリーは最近うつむいている事が多い。

「ニーナ顔色が悪いぞちゃんと休んでるのか?」ジャックは相変わらず優しいが、私は顔色が悪いらしい。


「飲み会… 三人になっちゃったな」私の呟きに二人は小さく頷くことで答えた。


 私達は立ち止まっているわけではない、カレンさんと連絡が取れなくなってから今まで動き続けていた。

 何をしていたのかというと、唯一の手がかりともいえるあの男、一ヶ月前この店 塩漬け肉と発泡酒の店【 ゲンゲン 】に逃げ込んできたあの男について調べていた。

 最初はあの男がクラッカージョンだと思っていたのだが、ニトロハートに関する噂について何らかの情報を持っていたことからあの男がクラッカージョンであるという線は消え、代わりに出てきた線があの男は私達と同じように噂について調べていた者という線だ。


( 008に殺されたのは、情報をもみ消すためだろう。詰んだな… )


 これが私達の出した答えになっていた。

 オリジナル、シングルナンバー直々にもみ消しに掛かっているという事は何か大きな裏があるという事は確定なのだが、シングルナンバーである008が動いている以上手掛かりはもう出てこないという事でもある。


( 後は想像で動くしかないけど私はカレンさんじゃないからできないな… )


 いつも、こういう時はカレンさんが私達を引っ張ってくれた。

 本業が推理小説作家であるカレンさんの読みは鋭く、いつも噂の真相まで私達を導いてくれた。


( 私は、物語の主人公じゃない )


 でも、やらなければならない。

 シングルナンバー達に対して私に出来る事は何も無いだろう。

 でも仲間が居る。

 噂頭巾のリスナーも居る。

 私が居なくなっても、噂は無くならない。

 真実として語られない物語を語れるのも噂の醍醐味だ。

 アンドロイド達に管理され、ただただ生きるのなんてまっぴらごめんだ。

 私は足掻く。


「クラッカージョンとニトロハートの繋がりってなんだろう」

「急にー、どうしたのー?」

「あの男が何でクラッカージョンの目玉のクラッカーとニトロハートの噂に関する情報を一緒に持っていたのかなって」

「ああ、俺もそれは気になったんだが、共通点が無いから関係ないと思うぞ」

「んー」

「だよな、共通点無いよな。だとしたら何で持っていたんだ」

「分からない」

「だよな」


「えー、待ってー、共通点あるよー」


「「 え??? 」」思わぬ答えがかえってきた。


「クラッカージョンもー、ニトロハートもー、死体が残らないー」それが何だというのだろう。

「確かに共通点ではあるが、何の手掛かりにもならないだろう」ジャックが、ん~と考え込むようなため息をついた。

「ん~」私もつられてため息をつきながら考え込む。効果があるのかは分からないけど。


( 小説に出て来る名探偵やカレンさんなら、これだけの情報で真実に辿り着けるのだろうか?   いや、辿り着けるのだろう。だからカレンさんは… )


「実験してたんじゃないのかなー」

「たしかに」その可能性があるなと思ったが、それは即座に否定される。

「いや、それは無いだろう」どうしてだろうと思った「たとえ、爆発を起こったとしても怪しまれない戦場で実験を行ったとしてもこの国で感染者が出て大変な事になるはずだ」


「たしかに…   あ!」その瞬間、電流が全身を駆け抜けた様な衝撃が走り、私は小説に出て来る名探偵の気持ちが分かった気がした。


「防護服… 」私達は外に出るときに必ず防護服を着るという事が義務付けられている。つまりそれは…   !!!!!!!!




「いや、外部の空気を取り込むフィルター式の防護マスクではニトロハートは防げない」




( 恥ずかしい!!! やっぱり私には無理だ! )全力で両手で顔を隠した。


「もしかしてー、感染力を落とす実験をー、してるんじゃないのかなー」機械音声だからわかりづらいが私を慰めようとしているのが、顔を隠していても雰囲気で伝わってくる。

「なるほど、資源として活用するためには制御できるのが第一条件だからな。     それなら、防護服でも防げるな!」逆に辛くなってきた。

「も、もういいよ。大丈夫だから」熱くなった顔を冷やす意味も込めて、右手を膝に戻し左手でジョッキを持ち上げ発泡酒を飲み干した。

 私が発泡酒を飲み干し、落ち着いたのを見計らってジャックが話を切り出した。

「でもよ、たしかにこの線だと納得がいく点が多いな」

「たしかに」

「でもー、どうやって調べようかー」


 それが一番の難題だ。

 だが、方向性さえ分かれば私達にとれない裏は無い。

 たとえ相手がシングルナンバーであったとしてもだ。

 私達は噂頭巾の運営陣、ある種のプロフェッショナルなのだ。

 誇りだってある。

 だから、マリーもジャックもそして私もその顔に曇は無い。


「やってやろうぜ」

「ああ」

「うんー」


 決意を新たにした、そんな時だった。




<メッセージを受信しました。送信元は【 レン 】さんです>





「お!」タイミングがタイミングなだけあって私は声を出して驚いてしまった。


 マリーとジャックを見ると二人にもレンからメッセージが届いているようで驚きつつも安心した表情を浮かべている。ジャックにいたっては目の端に輝くものがあった。

 かく言う私も嬉しさで胸がいっぱいいっぱいだ。

 口には出していなかったが最悪の場合を考えていたから、こうしてレンからメッセージが来たことで何とも言いようのない安堵感が湧いて来たのだ。

 だから、私はメッセージの再生を無意識に行っていた。






『よう』






 たった一言、たった一言でこうも気持ちが揺さぶられるとは思いもしなかった。

 本当に、思いもしなかった。

 聞き覚えのあるこの声で、こうも心が揺さぶられるとは、思いもしなかった。

 だからか、その声の主の名を呼ぶことを止められなかった。






「008」






 理解できなかった。





「何で」




「何で」



「何で」


「何で!!!」

『簡単な理由だ』

「これはレンのIDの!!!」

『ああ、そうだ。だからわかるだろ? 簡単な答えだ』

「この野郎!!!」

「そう喚くなよ、五月蠅いだろう」

「え…   」

「だらしなく口なんか開けちゃって品がないな。だいたい、私は女形だ野郎ではない」

「何で此処に…   」

「簡単な話だ、君たちは私に釣られたってだけの話だ。君達の頭が悪いから餌に気づくのにだいぶん時間かかったよな、休暇を貰った気分だったよ」

「ありえない!!!」

「ハハハハハ、文脈がめちゃくちゃだな。でも何が言いたいかは分かるぜ、私はシングルナンバーあり得ないを可能にするために産まれて来たんだ。だからその言葉、誉め言葉として受け取っておこう」

「こんな終わり方…  」

「君達は強くなる努力を怠った。だから神に選ばれなかった、主人公や勇者じゃないんだよ。これもお情けで話してあげているだけだからな」

「え、何を言って」

「戦闘の意志無き最後の一人には温情をってやつだよ、まあ君の戦闘の意志何て調べる気は無いけどな」

「ヴオッェェェッ」

「吐くなよ汚い、品も無い」

「ああああああああ!暗いよ!怖いよ!!!あああああああああああああああ」

「子供みたいに泣きやがるな」

「ああああああああああああお母さん!お父さん!何処に行ったの!?何で私は一人なの⁉?」

「五月蠅いな、バイバイ」


「   」


「顔も知らないはずなのに、最後に助けを求めたのは親か。人って面白いな。まあ、何もしてないのにピンチの時だけ神様に救いを求める奴の方が面白いけどな」「んー」「取敢えず終わったし、何もする事ないから戻るか。戻ってもする事ないけどなー、ハートちゃんから太陽さんができて以来する事なくなったよなー。暇なときって何をすればいいのか皆で話し合うか」







お読みいただきありがとうございます。

地点F内伝ニトロハートはここで終わりです。

本編に戻ります。

次話もよろしくお願いします。

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