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パートナー

 俺が唯に連れられてやってきたのは学園を出てすぐの第一学園生御用達のオーソドックスなカフェだった。学園から最も近く、素朴な雰囲気と安さが人気の秘訣らしい。かく言う俺もたまに来たりする。生徒の生活費は学園からの支給なので、生活に困るということはないが、安さに惹かれてしまうのは庶民の性なのだろう。

 気功育成機関が存在するこの半人工島には六つの気功学園が存在しており、それぞれ厳密ではないものの管轄域を定めている。このカフェも第一気功学園の管轄域に存在しているというわけだ。学園の中だけでも十分に生活できるだけの施設はあるのだが、学園の中だけが生活の全てでは良くない、ということで他にもいくつかの施設がある。

 中に入るといつものようにマスターがいらっしゃいと素っ気なく迎えてくれる。店の中はコーヒーの香りに包まれていた。入学式だったためか今日は人も少ない。これならばゆっくりと談話もできるだろう。

 そう思っていた矢先だった、

「げっ」

 思わず俺は声を抑えられなかった。店に入ってすぐのカウンター席に見知った顔がある。学園指定の制服をドレスでも来ているかのように艶やかに着こなし、きれいに手入れされた少し暗めの亜麻色の長髪の女子生徒は、頬杖を突きながらぼんやりとコーヒーを飲んでいた。見間違うことはない、この人はこの学園の生徒会長だ。

 はっきり言って俺はこの人が大の苦手である。蠱惑的とでも言うべきこの人の雰囲気はどうも俺のペースに持ち込めない。むしろ油断していると飲み込まれそうな感じだった。

「あの人って……」

 新入生である唯も生徒会長は覚えていたようだが、入学式の凛とした印象とは異なる姿を見て曖昧な表情を浮かべている。俺はそれをなんとか雰囲気で制し、何事もないように奥の方の席へと向かった。幸い向こうはまだこちらに気づいていない様子だ。しかし、そんなに甘い相手ではなかった、

「あら、天津君。どうして息を潜めて通り過ぎようとしているのかな、先輩に挨拶もなし?」

 あっさりとばれてしまった。ありえん、なぜ後ろ向きで俺だと分かる。何も判断要素はなかったはずだろ……!

 心の中で毒づく。この人は本当に後ろにも目があるのではないだろうか。

 クルリと後ろを向いた生徒会長に俺は嫌な顔を隠さなかった。

「いや別にお独りでぼーっとされてたんで、何となく話しかけない方がいいかと思いまして」

 心にもない言い訳を心にもなく言う。だが、それが気に入らなかったのか俺にしかわからないように邪悪な笑みを浮かべた。

「そんなの気にしなくてもいいのに、私と蓮也君の仲じゃない。それとも、そっちの可愛い一年生との時間を邪魔されたくなかったのかな?」

 呼び方が天津君から蓮也君になっているあたりが非常にわざとらしい。会長はチラリと唯の方を見て俺に邪な目線を送ってきた。俺はこの人への抵抗手段を考えているうちにだらだらと冷や汗を流す羽目になる。

「あのう、お二人は知り合いなんですか?」

 と、そこで複雑な表情をしていた唯が質問を投げかける。おそらく俺に向けられたものだったのだが。

「ええ、私は学園の生徒会長の九十九夜と言います。よろしくね」

「あ、ご丁寧にありがとうございます。私は松風唯です。こちらこそよろしくお願いします」

 解答権を奪って答えた会長に、唯は律儀に頭を下げていた。

 この九十九夜という先輩、見た目の麗しさと打ち解けた話し方で学園内での人気が高い、おまけに序列は第8位。クラス1stとして実力も兼ねそろえているこれまたエリートだった。生徒会長という立場からもわかるだろうが、この人は仕事もできる。しかし、一つ欠点がある。この人は性格がどうもサディスティックというか、人をおちょくるのが大好きな人だった。普段は猫をかぶっていて全校生徒の模範となっているような人だが、本性を知る一部の人からは悪魔か小悪魔か猫をかぶった性質の悪い人とされている。俺も被害者のうちの一人だ。

「それで、私と蓮也君は昔からの付き合いで――」

 会長は面白そうに俺との関係を唯に話し始めた。って、おいこら、息をするように嘘をつくんじゃない。あんたと俺が会ったのは2年前だろうが。

「蓮也君、生徒会じゃないのに私の仕事すごい手伝ってくれて――」

 それは俺がほしい情報との交換条件でこき使っただけじゃねえか。

「前に、会長はとても魅力的ですよなんて言ってくれたりして――」

 なんで俺があんたを丸め込むために言ったお世辞をまだ覚えてんだよぉ!

 俺は心の中で叫ぶ、そんな俺の気持ちなどどこ吹く風、会長は非常に楽しそうだった。

「まあ、こんな感じで蓮也君とは割と仲がいいのよ」

「は、はあ」

 曖昧にうなずいてこちらを見る唯の視線が異常に痛かった。そんな目で見ないでくれ。というかこの先輩は後輩相手に何てこと言ってんだ。さすがに聞いていられなくなって精一杯の抵抗を試みる、

「あのですね会長、後輩に変なこと吹き込まないでくれませんか、誤解されるんで」

「あら、全部ほんとのことでしょ?」

 が、こともなげに嘯く先輩に受け流される。やはり小悪魔という言葉がぴったりだった。

「……もういいです。それで会長はここで何をやっているんですか、入学式なんて忙しいでしょうに」

 教師役が生徒になるほど生徒任せのこの学園では生徒会の権限は大きい。それと同時に大量の職務と責務が課せられているのだ。

「うん、だからちょっと息抜きに逃げてきたの。生徒の手続きとか、名簿の作成とか殺人級に忙しいのよ。人手足りなくて困ってて。どうせだったら蓮也君手伝ってくれないかな、得意でしょこういう仕事」

 殺人級に忙しいなら会長の息抜きの分まで働いている生徒会のメンツは殺意でも沸いているのでは? という疑問が浮かんだが、黙っていた。どうせこの後ひどい目に遭うのは火を見るよりも明らかだ。生徒会のメンツには同情する。

「生憎、暇ではないので遠慮しておきます」

 手伝いに行ったらひどい目に遭うのはおそらく俺になるだろう、俺は丁重に断る。

「あらひどい、女の子とお茶をするのに忙しいっていうのね、お姉さん泣いちゃうぞ?」

 早く戻らないかなこの人、と心底思った、そして書類の山に埋もれて2,3日頭を冷やしてその魔性を少しでもそぎ落とされてくるといい。そうしたらこの人の性格も多少ましになるだろう。

「まあ、いいわ。また今度にしましょう。それじゃあまたね、蓮也君、唯さん」

 意外にもあっさりと手を引いた会長はそう言い残すと会計を済ませて帰って行ってしまった。こんなにも簡単に解放されてしまうと逆に何かあるのではと無駄に勘ぐってしまう。

「あの、さっきの会長さんの話って……?」

「全部気にしなくていいからっ」

 あの人の相手を毎日している生徒会の方々は一体どんな気持ちなのだろうかと重ね重ね同情してしまう。

 ようやく気を取り直した俺はマスターにコーヒーを二つ注文して、奥の二人席へと腰を掛けた。すると自然に力が抜ける。思えば、朝から入学式に出席し、午後には教師役、ついでにランキング戦までして、とどめの生徒会長、自分が思っている以上に疲れているのかもしれない。

 対面に座った唯は、そんな俺の様子をわずかに首をかしげて見つめていた。きょとんとした顔で首をかしげる様子は不覚にもかわいらしかった。さすがにこの態度では申し訳ない、そう思い俺は姿勢を正す。

「では、改めて。先日は本当にありがとうございました。私、こっちに来たばっかりだったのでわけのわからないまま連れ去られて、本当に怖かったんです」

 深々と頭を下げてお礼を言ってくる。しかし逆だと思う、あの時の誘拐事件は俺たちにとっても予想外のことで不覚にもこの子が被害者になってしまった。

「礼だなんて気にしないでくれ、むしろ悪いのは俺たちの方だ。あいつらが仕掛けてくるって可能性はあったのに未然に防ぐことが出来なかった。すまなかったと思ってる」

 俺も頭を下げて謝辞を述べる。すると慌てて唯が制してくる。

「あ、あの、頭を上げて下さい! 先輩は私を助けてくれたんです、可能性がどうとかそんなの関係ないです!」

 あわあわと困っている様子がうかがえる。しかし、落ち度は俺たちの方にも確かにあった。これくらいのけじめはつけておかねばならないだろう。2か月前までは彼女は一般人で、この島に来たばかりだったのだ、秩序を守る側だった俺たちは謝罪しなければいけない立場だろう。

「そ、それよりも、あの時私を連れ去ろうとしてたのは誰だったんですかね、蓮也さんは知ってますか?」

 耐えられなくなったのか、唯は質問をしてきた。呼び方が天津先輩から蓮也さんに変わっていたが気にしない、おそらく会長にでも引っ張られたのだろう。俺としても名前で呼ばれる方が好きだ。

 俺はゆっくりと顔を上げて少し考える、あの時学園に喧嘩を売ってきていたのは確か、

「あの時学園を襲撃してきたのはさっきの授業でも説明した反気功団体だ。あの時期は新入生が来る頃だってわかってたんだろうな、比較的警備が薄くて、危機意識が低いときを狙ってきたらしい」

 捕らえられたから大事には至らなかったものの、反気功団体は日に日に厄介になってきている。入学する直前の生徒を狙ったのも狡猾さの表れだろう。

「反気功団体……、今も襲撃を受けているって話でしたよね。気功士を認めないってことなんですかね」

 彼らは人間主義という体で反気功を掲げている、人には気功などと言う非人間的な力は必要ないと、そういうことらしい。

「そうだろうな、何を思ってそんなことやってんのかは理解できんが、迷惑な話だ。あー、松風もわかると思うが、俺たちは望んでこうなったわけじゃない、理不尽もいいところだ」

「何か新しいことが起きればそれに反発する勢力も出てくるとそういうことなんでしょうか、正直私にはわかりません。あ、唯でいいですよ」

 そんな話をしているうちにブレンドコーヒーがやってきた、冷めないうちにいただくとする。

「そうか、それじゃあ唯、一つ聞きたいことがあるんだが」

 なんですか、とコーヒーに口をつけながら唯は聞き返してきた。正直軽々しく聞いてもいいのかと迷っていたが好奇心に負けてしまった。

「その、言いたくなかったらいいんだが、もしかしてほとんど気功が使えないんじゃないのか?」

 こんなタイミングでの言いたくなかったらいいんだが、なんて言葉卑怯だと分かっているが何も言わないよりかはやわらかい聞き方となっただろうか。

 俺の言葉にコーヒーカップを持つ唯の手が一瞬硬直する、そして苦笑いを浮かべた。

「あはは、蓮也さんはなんでもわかるんですね。そうです、私は気功の適性があると判断されただけで実際はほとんど何もできません」

 そう、自嘲気味に笑って言った。その悲哀に満ちた顔を俺はまっすぐ見ることが出来なかった。

 学園は生徒を三つのクラスで分けており、クラス1stは例外としても実用的な気功を磨きたいのならクラス2nd、主に研究をしたいのならばクラス3rdと選択の自由が許されている。しかし、これもまた例外としてクラス3rdにならざるを得ないというケースが存在する。その一つがこれ、気功士としての実力不足だ。自身を強化することが気功の性質、普通であればまず実力不足には陥らないはずだがごくまれにそのような気功士がいると聞く。

「序列も354位、最下位ですね。私自身も気功で何かできたっていう実感が全くないんです、この島に来る前も今も私は何も変わってない」

 新入生が入ってくるたびに学園の全生徒の序列は一新される。新入生の適性検査で良い結果を示した生徒は入学からすでに高い序列が与えられることもある。しかし、それではランキング戦などの実力で序列を上げた在校生にとって気の毒だということで、適性を示していても序列は下の方を割り振られることが多い。そう考えると、入学と同時に12位を与えられた武馬の実力は相当なものだ。

 しかし、その不文律を差し置いても序列最下位というのはそうそうなるものでもない。おそらく唯は本当に気功が使えないのだろう。無意識に気功士が発生させているはずの気功すらほとんど感じられない、このことが気功を使えないということを物語っている。

 俺はじっと考え込む、適性はあっても気功が使えない、そこには何か理由があるのではないかと。

「あの蓮也さん、そんなに見つめられると困ります……」

「ああ、すまん」

 どうやら俺は考えながら唯のことをじっと見つめていたようだ。恥ずかしそうに目をそらされてしまう。こういう時に咄嗟にいい言葉が出てこない自分が恨めしい、相手はまだあって間もない後輩だ。

「そうだな、なんで気功を使えないのかは俺にもわからないが、序列なんかはあまり気にしない方がいい。所詮あれは学園側の定めた基準にどれだけ自分の気功が当てはまってるかってだけだ」

 気休めにもならない慰めの言葉だったかもしれないが、唯は笑顔を返してくれた。しかし、実際序列システムなど些事に過ぎない。真に重要なのはそのシステムが異常であるということだ。

 相対的に実力を知る指標?

 生徒の士気を上げるための施策?

 そんなものは建前に過ぎない。大した意味など持っていない。学園側の本当の狙いは生徒を少しでも慣らせることだけだ。

 異常異常異常。そしてこれから訪れるであろうさらなる異常。すぐには順応することなどできない。だから用意されたのがそれらを受け入れるための麻酔代わりのシステム。それがこの数々のシステムの正体だ。

 こんなことを俺は冷静に分析した気でいるが、それこそがすでに異常。おかしいものに塗れていくうちに何が異常なのかわからなくなっていく。

 感覚の麻痺、思考の誘導。わかっていても抗えない、学園長の罠。

「お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫です。実は気功が使えないことそんなに悲観してないんですよ、私」

 俺の微妙な慰めに対しても丁寧に謝辞を述べる唯はそう言った。気功が主な自己顕示のための手段であるこの島で、気功を使えないことを悲観していないと。

「だって、人と違うことは悪いことじゃないですよね。もちろんこの島で気功を使えないことがどれだけ致命的なことかわかってるつもりです。でもきっと気功を使えないから見えることだってあると思うんです」

 自分の立場をきちんと理解したうえでそれを受け入れている。その姿に俺は一瞬言葉を失っていた。こんなにもしっかりと自身を見つめられている人間などそうそういない。

「まいったな、そんなにしっかりとした意識を持ってるなんて、俺からかける言葉がなくなってしまった」

 少しでも慰められたら、なんて思っていた自分が恥ずかしくなってくる。この子は気功が使えない程度で悲観的になるような心を持っていなかったようだ。ばつが悪くなり俺はコーヒーを口に運ぶ。

「そんなことないです、思ってるだけで何をすればいいのか正直わかりません。それに、その……嬉しかったです、序列なんて気にしなくていいって言ってくれて」

 唯も少しきまりが悪そうにコーヒーカップで顔を隠した。

「私、こっちに来てから友達を作ろうと思っていろんな人に声をかけてたんです。みんないい人だったんですけど、しばらく話してると必ず序列の話になるんです」

 コーヒーカップで隠れていない顔の部分だけ見てもはっきりわかる悲しげな顔、そんな表情もかわいいと思ってしまう思考を頭の中で殴り飛ばした。

「みんな大体同じような反応でした。私の序列を聞いて、あっ、って感じの表情をして、苦笑いを浮かべながら話題を変えるんです。もうそんな反応見たくなくって、そのあとはずっと一人でいました。だから嬉しかったんです」

 気功士は良くも悪くも実力主義、それは残念ながら相手がクラス3rdでも変わらない。極端に優越に浸る者は少数派でも、そもそも同じ土俵ではないと理解せずにクラス3rdを下に見る2ndは少なくない。その意識の差は大きくは取りあげられないものの、問題になっている。しかし、取り締まる側のトップがあの先輩(第6位)ではどうにもならない。

「そうか……」

 言葉が浮かんでこない。こんな話を聞いてしまっては迂闊なことを言えなくなってしまう。律儀な性格の唯は気遣って決して悟らせないようにするだろうが、俺の立場からでは嫌味に聞こえてしまうことも多いだろう。そう思うと、少しの間黙ってしまう。

 おそらくこのままでは唯にとって世知辛い学園生活が始まってしまうだろう。クラス3rdであろうと、序列低位であろうと、どうあっても気功は付きまとう。そんな中で彼女を理解してあげられる人間がそばにいないのではあまりに不憫だ。自分では悲観していないとは言っていても楽観しているとは言っていない。それすらもきっと理解している上でなのだろうがお節介にも何とかしてやりたいと思ってしまう。しかし難しい。唯と俺では学年も違えばクラスも2ndと3rdで何もかも異なっている、授業で教師役として顔を合わせる程度が関の山だろう。

 いや待てクラス3rd……?

 ふと俺は気付く、クラス3rdであれば、あのシステムが使えるということに。

「なあ、もしよかったらなんだが、唯、俺と組まないか?」

「はい?」

 突然の俺の提案に聞き返す唯、意味が分からないといった顔をしている。このシステムは一年どころか二、三年の生徒でも知らない人が多い。

「クラス3rdは気功の研究を主として活動している、けど、自分の気功だけじゃ満足に研究できないことも多いんだ。3rdは全体的に序列が低めだからな。そこで学園はクラス3rdにパートナー制ってのを認めてる」

 パートナー制、クラス3rdが効率よく研究を行うための学園側の配慮だ。クラス2ndは実験台となり、クラス3rdは自身の研究で培ったデータを2ndの生徒に提供するという、相互システムとなっている。

 案の定唯は首をかしげていたが、しばらくすると考えだす。どうするべきか迷っているのだろう。

「悪くない話だと思うが、無理にとは言わない。パートナー制って言っても制度としての恩恵は演習室の利用優遇ぐらいだからな。――――どうだ、俺を実験台にしないか?」

「そんな……願ってもない提案です! 私はもちろん嬉しいですけど……でも蓮也さん、きっと私と組んでも得られることはないと思うんです、それでもいいんですか?」

 少し俯いて上目遣いに問う、唯。彼女は俺に利益がないと心配しているんだろう。

 このパートナー制の認知度が低いのには二つ理由がある。一つはクラス3rdの人数がそもそも少ないため、知る人が少ないということ。そして、もう一つはクラス2ndに恩恵が少ないため、パートナー制が成立しないことが多いということだ。パートナー制を持ち掛けたとしても残念ながら断られてしまうという場合が多く、次第に申請者自体が減ってしまった。

 無論今の俺のようにクラス2ndの側から話を持ち掛けることなど、異例もいいところだった。

 けれど、

「何も得られないなんてことはないぞ。演習室の優遇は俺にとってもありがたいし、なによりクラス3rdとの人脈が確保できる。これだけでも十分すぎる恩恵だ。それに――」

 気功の使えない気功士の少女、こんなイレギュラーに出会うのは初めてだ。だから、

「唯がこれからどうしていくのか純粋に知りたいと思う。こんな理由じゃダメか?」

 俺の言葉を聞いた唯は僅かな間をおいてから改まった様子で、こんなことを言った。

「ふふっ、じゃあ、そういうことにしておきます。蓮也さん、ふつつかものですがこれからよろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ」

 いたずらっぽく微笑んだ唯とあっさり嘘を見抜かれた俺は気功研究のパートナーになった。入学初日の出会ったばかりの一年生と何をしているんだなんて、そんな言葉には耳を貸さない。

 もともと異常だらけなのだから、今更一つ増えたところで大差はないだろう。そんなことを思っていた。

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