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先輩として

 俺が第一気功学園の高等部に入って二回目、新入生にとっては初の4月。正式に第一気功学園に迎えられてから最初の授業が始まる。第一というだけあってこの人工島に存在する6つの気功学園の中で最大規模になっている。学園内の設備も充実しており、現在もちょっとした体育館ほどの広さの演習室にいる。

 演習、というのは気功使用の演習のこと。気功力の強さを計測したり、模擬戦が行われたりしている。これから始まる授業は実際に気功を使用して気功について詳しく説明する、というものだった。

 無論これは新入生、先日入学したばかりの一年生への授業だ。

 では、二年になった俺がここにいる理由は

「天津、一年は全員揃ったぞ」

 話しかけてきたのは、三年生の土谷先輩。といってもただの先輩ではない。この人は学園の序列第6位。学園の警備隊の隊長も務めているというクラス1stのエリートだった。

「ありがとうございます。わざわざ2ndと3rdの授業に来ていただいて」

 俺は今回、一年生の教師役として抜擢されたのだった。

 実のところ学園の気功実習は一般的な学校で想像するような教師がいない。気功士は現在およそ7割強が10代の学生であり、教師として使うことのできる人員が非常に少ないのだ。だから基本的に気功実習は序列が高位の者が教師代わりとなって行われる。今日の俺がそれだ。

 序列高位、といっても基本的にはそのクラスの序列上位者が教える側に回ることがほとんどだから、今回のようにクラス1stが来ることなどめったにない。

 俺たちは皆、学園で定められている基準によって3つのクラスに分けられている。

 まず、気功士としての力が最も強い者たちがこの学園のトップ、クラス1st。彼らは気功士としての力が著しく、学園のみならず、すべての気功士の中でもトップクラスの実力者たち。学内の序列も全員上から順に振られている。

 次に、俺も所属しているクラス2nd。学園の多くの生徒がここに所属している。クラス1stほどの実力はないが、一定以上の力を有しており、要は磨けば光るという位置だ。

 最後にクラス3rd。ここに所属している者は気功を発現していながらもその力は弱く、研究面に重きを置いているクラス。研究以外にも後方要員という立ち位置で気功を学んでいる。

 それぞれのクラスで教えられることも、学んでいくことも違うため、そもそも同じクラスの者でないと教師役が務まらないのだ。2、3度クラス1stがクラス2ndの教師役として来たこともあったがその時は役不足な感じが否めなかった。

 そういうわけで、感謝のついでにクラス1stであるこの人がなぜここにいるのか聞いてみたのだが。

「お前が一年の最初の指導役になると聞いたからだ。何をしでかすかわからんお前だけに任せておくことはできない」

 なんとも辛辣な言葉が飛んできた。が、俺は苦笑いでスルーした。なぜかは知らないがこの人はよく俺に突っかかってくる、もう慣れたものだ。

 そんな第6位を横目に演習室内を見渡す。どうやら一年生の全員が集まったようだ。初の演習だからか緊張している様子が見て取れる。きちんと整列して並んでいるのが本当に初々しい。そんな彼らにこれから学園の現実を叩き込んでいかねばならないことを考えると少しばかり罪悪感がある。

 と、そんなことばかりを考えていても始まらないので、待ちわびているであろう授業を開始しようと思う。

「待たせて悪かった、これから授業を始めようと思う。一年生はみんな揃ってるな」

 俺の言葉に一年生たちは注目を集める。気功演習がどんなものか期待していたのかもしれないが、申し訳ない。少し退屈な説明に付き合ってもらわなければいけない。

「まずは自己紹介しとかなきゃな。今回、みんなの教師役になった天津蓮也だ。入学式でも紹介があったと思うけど、序列は10位、一応クラス2ndの首席を務めてる。よろしくな」

 よろしくお願いします、という声がちらほらと聴こえた。どうやら言うか言わないか微妙な振りをしてしまったらしい。そんな気分を俺も味わったことがあるので申し訳なさがある。

「……えっと、悪い、教師役って初めてなもんで、つたないかもしれないけど勘弁してくれ」

 思わず、謝罪してしまった。それでも暖かい目を感じる。ほんとに良い後輩だ。

「気を取り直して、授業を進めさせてもらう。今日は最初の授業ってことだから、まずは初歩の初歩から教えようと思う。そこでだが、まず初めにそもそも『気功』が何なのかから説明する」

 少し真剣な面持ちで話してみると、つられて真剣な顔を向けてくれる。

 そもそも『気功』というものが何なのか厳密には知らされていない彼らにとっては興味があるはずだ。

「『気功』っていうのは今から三年前に人に発現し始めた、いわば超能力の総称のことだ。誰にどうして『気功』が発現したかは今でも全く分かってない。ただ一つわかっていたのは、『気功』を発現した人は人を超えてしまったってことだけだった」

 三年ほど前に最初の人間が『気功』を手にした。当時は原因不明の超能力の出現にお偉いさんたちはたいそう戦慄したそうだ。一部の人はその日のことを『目覚めの日』だなんて呼んでいるが、カッコつけすぎていて俺は絶対に使わない。なのでこの一年生たちも知ることはないだろう。

「『気功』は常軌を逸した力を見せ、たちまち混乱が起こった。その当時、『気功』を発現した人がおよそ一万人弱。そうそう穏便に済ませることなんてできない。そこでお偉いさん方は『気功』発現者の隔離を目論んだ。それがこの人工島ってわけだ」

 放っておけば秩序が乱れる、と判断は早かった。当時、鉱工業や港湾への用途として作られていた離島を増設する形の人工島を急遽予定を変更し、『気功』発現者たちを隔離、研究する場所へと変更した。日本としては最大規模の人工島は総力を挙げて完成へと向かい、相模湾よりはるか南に位置する隔離施設となったのだ。

「まあ、大まかなところはこんなもんか。それで、『気功』がどんなものかって言うとだな。ところで俺、今マイク使ってないんだが気付いてたか?」

 実は、『気功』の説明のために俺は少しばかりギミックを仕掛けておいた。すると、前の方にいた何人かの生徒が俺が何も持っていないことを確認する。

「いまここには127名の一年全員が集まってる、さすがにこの人数相手にマイクなしってのはけっこう声張らないと厳しいだろ?」

 何人かの生徒は感づいたようだ、俺が今、『気功』を使ってこの授業をしていたということを。

「わからないことだらけだった『気功』を研究してわかったのは、この力の使い方だ。『気功』を使う中で最も基本的だが『気功』の枢軸たるもの。それがこの『気功』による延展」

 ざわざわと一年生が顔を見合わせる。普段は延展なんて言葉絶対使わないが、少しカッコつけてみたかったから使ってみた。……悪いかよ。

「まあ、簡単に言えば、物でも事象でも『気功』を使うことで、その効果を増大させることが出来る、これが『気功』の主な力だ。例えば、俺は今、話している声を『気功』で増幅、拡張させてみんなに届けているって感じだ」

 『気功』の使い方は非常に様々だが、基本はこの応用。物や事象を増幅させるという根幹は変わらない。本当はもう少し複雑な仕組みなのだが、おいおい学んでいくことになるだろう、今は割愛。

「『気功』ってのはものすごく使い勝手がいい。アイデア次第でいくらでもどんな風にも使えるようになる可能性を秘めてる。だから、『気功』を使って何ができるかを研究することが俺たち気功士の役目だ」

 『気功』の可能性は無限大。いつだったか学園長も言っていたような気がする。それを解き明かし、少しでもこの異能を理解することが俺たちに課せられた責務であり、人類の異端者となった俺たちが生活の安寧を保つための契約だ。まあ、脅かしても何にもならないので後者は黙っていたが。それに別段、成果を出せないからと言ってどうなるわけでもない。気功育成機関という大きな組織での話だ。

「基本的な説明はこんなところか、何か聞きたいことはあるか?」

 何やら少し浮ついた雰囲気を感じる。無限の可能性を秘めた未知の能力、それを持つ一握りの選ばれし者たち。彼らにはそんな風に聞こえただろうか。実際はそんなに便利なだけじゃないんだけどな。

「あ、あの!質問いいですか?」

 そんな雰囲気の中、おどおどした声が俺に届いた。声は高めだが少年の声だ。見ると、生徒たちの真ん中のあたりに小柄な、ともすれば華奢とも言えそうな少年がこちらを見つめていた。

「いいぞ、何だ?」

 他の生徒たちからの視線が集まる。緊張しているのかその生徒はたどたどしく言葉を紡いだ。

「入学式で学園長先生がおっしゃっていた、いつでも死ぬっていう言葉が気になってしまって……。僕らが浮足立たないように脅かしてた、とかですか」

 その質問に演習室内の空気が変わるのが分かった。思い出したのだろう、学園長が入学式で一片のよどみもない真剣な表情で言っていたことを。これから話そうと思っていたから手間が省けた。

「残念だが、学園長の言っていたことは正しい」

 冗談だとでも言ってほしかっただろうか。だが本当に残念なことだが事実も事実、過去に何人もの生徒がこの学園で亡くなっている。理由は大きく分けて二つあるのだが、片方は『気功』の特性、そしてもう片方は現在気功学園がぶつかっている問題そのものだった。

「『気功』ってのは便利な力だ。でもその力は無限に使えるわけじゃない。気功士には『気功』を扱える限界がある」

 そう、『気功』には一つ致命的な欠陥が存在する。

「限界を超えて無理矢理『気功』を使えば、そいつは自分自身の『気功』に飲み込まれて死ぬ」

 一年生たちの表情が強ばっているのが見て取れる。けれど仕方ない。いつかは知ることになるし、これからずっと付き合わなければならないことだ。

 物でも事象でもすべてのものは『気功』を持っているとされ、その『気功』を自由に操れる者のことを気功士と呼んでいる。

 『気功』のイメージとしては、自身が持っているとされる『気功』を増幅して対象に使うことで対象の気功を書き換えることが出来るというものだ。そして書き換えた気功士自身の『気功』が元の対象の持つ『気功』よりも大きければその対象はより大きな力を発揮する。これが『気功』による展延の仕組み。

 そして『気功』を使うときに少なからず気功士自身にも『気功』のフィードバックが起きている。これが気功士を死に至らせる原因だ。普通に使う分には、このフィードバックなどは微々たるものなのだが、大きな『気功』を用いるとその跳ね返ってくる『気功』も膨大なものとなり、『気功』は暴走する。増幅しすぎた気功力が気功士の体では抑えられなくなり、飲み込まれる。これが『気功』の持つ致命的な欠陥であり、気功士の限界だ。容量超過、オーバーロードなどと呼ばれている。

「ただ、安心してくれ。普通に『気功』を使ってる分には飲み込まれることはまずない。よっぽどひどい使い方をした時だけだ。だからあまり気にしなくていい」

 今のは半分本当で半分嘘。よほどのことがなければ容量超過に陥らないものの、気にしなくていいはずがない。一度容量超過に陥ってしまったら戻す方法がないのだ。今は、もう。だけどそれを一年生に伝えるのはためらわれたから言わなかった。現実を突きつけられておびえる後輩をこれ以上いじめるのはいたたまれなくなってしまったから。俺も甘いものだ。このことは後で誰かがやんわりと伝えてくれるだろう。そう信じていよう。

「じゃ、じゃあどうして学園長先生はあんなことを……?」

 この生徒はなかなか鋭いと思った。容量超過だけが死の理由であればめったに起こらないそれはわざわざ言及するほどのことではない。そんなことを言うほど学園長は浅はかな人ではないと悟っている。まったくもってその通りだ。

「そうだな。君は今『気功』が何に一番利用されていると思う?」

 質問に質問を返す形になったがいいだろう。この事実を婉曲なしで伝えるのはあまりにも酷だ。

 突然の質問に驚いたのか質問してきた少年はおどおどと考え込んでいる。やはり少し面倒な質問だったかもしれない。そろそろ答えを言うとしよう。

「実は『気功』は今軍事力として研究されてる、『気功』を使った兵器としてな」

 何度目かもわからない緊張が一年生の間に走るのが見て取れる。さすがに俺も疲れてきた気がする、事実をオブラートに包んで話すこととはこうも難しいことだっただろうか。

「『気功』は強力な武器にもなる。軍事力への応用自体は仕方のないことだったんだよ」

 そう、兵器への応用は必然。『気功』が発見された当初から研究も進められていた。『気功』の応用力をもってすれば見た目は完全に生身の人間が、比較的簡単に凶器と化せる。無手のままでも戦えるこの力の需要は高いのだろう。

 しかし、問題はそこではない。

「問題は今、学園が面倒なやつらに目をつけられていて何回か襲撃も受けているってことだ」

 今、学園が直面している問題がまさにこれだった。学園は反気功を掲げる団体と絶賛対立中なのだ。突然人が手にした強大な力を前に当然それを快く思わない輩もいたわけで、本土から遠く離れたこの島にはるばる喧嘩を売りに来ているのだった。この集団が何を目的に学園を襲撃しているのかはまだ不明だが、こちら側としてはたまったもんじゃない。望んでもないのに『気功』という力を与えられ、挙句それを理由に襲撃を受ける。そんな横暴許せたものじゃない。

「そいつらは自分たちの目的のために武力行使までしてきている。それでこの事態を重く見た学園が対抗策として『気功』による実戦を指示したんだ」

 実戦。つまり『気功』を用いて戦闘をするということ。自分たちの身を守るために、理不尽な理由で命を奪われないために。この学園の警備隊、実力のある気功士クラス1stたちが矢面に立たされている。そしてクラス2ndももしもの時に備えて『気功』による戦闘訓練を受けることになっている。

 もう理解できただろう。気功士がいつ死ぬかもわからないという理由。

「戦闘においても『気功』は強い、けれど万能じゃない。だから何度も命を危険にさらしていれば、ほんの少し気を緩めただけで死ぬ可能性だってあるってことだ」

 俺の声が消えると演習室内は静寂に包まれていた。誰も声を出さないでいた。みな同じような表情で俺の方を見つめている。ああ、わかってる。お前たちの言いたいことはわかる。そうだ、こんなものは異常だ。『気功』という異常、隔離という異常、命のやり取りが行われているという異常。どれもこれもほんの少し前まではありえない話だっただろう。

「けどまあ、安心してくれ。お前らが矢面に立たされることはまずない。早々にこの問題も解決に向かうように努めるさ」

 大嘘だった。交渉で解決出来なかったから今こうして武力行使が行われているのだ。この問題が終息に向かう兆しなんてどこにも見えていなかった。だけど今はこんな言葉で後輩を慰めるのもありだと思う。ここまで言っておいてなんだが。

「っと、そうだ。最後に序列のシステムについて説明しておかないとな。学園は自身の気功士としての実力を相対的に理解するための指標として、この学園内での序列を割り振ってるのは知ってるな?お前たちにももう自分の順位が伝えられたはずだ」

 序列システムは相対的に実力を測る指標、一言でいえば学内順位だ。例えば俺の序列は10位、隣で目くじらを立てるようにして俺を見張っているクラス1stの土谷先輩は第6位といったような感じだ。一年生には最初に行われた適性検査で初期序列が割り振られている。

「この序列の変動は実に単純でな、生徒同士でランキング戦を行うんだ。『気功』を使った模擬戦で」

 前述の通りこの学園は生徒に『気功』を用いた戦闘訓練を行っている。ただ、それだけでは本番に備えるだけの殺伐としたものになってしまうということで、学園側は生徒同士のランキング戦のシステムを取り入れた。どうもこのシステム、一部の血気盛んな輩の士気しか上がらないと俺は思っていたのだが、効果は想像以上だったらしい。

「ルールは簡単で、一人以上の警備隊のメンバーを審判役としてどちらかが戦闘続行不能となるか、審判の判定で決まる。『気功』を使ったって言っても基本は身体強化だから、一般的な組手みたいなことになる。ただ、もう一つ重要なルールがあってだな」

 この模擬戦はいつか起こるであろう実戦を想定しての模擬戦という体で作られている。つまり、戦い方も実践準拠でなければあまり意味はないのだ。だから、

「両者の承諾と審判の容認により、銃火器を除く近接武器の使用が認められている」

 演習室内にどよめきが起こる。まあ驚くのも無理はない、凶器を用いて行う模擬戦など危険極まりないなどと思っただろうか。殺傷力のある武器を想像して戦慄しただろうか。だがしかし、その考えは間違っている。そもそも『気功』という力は無手でも殺傷力は十分にあり、それ自体が凶器になりうる。だからわざわざ『気功』の戦闘における使い方を学ぶのだ。

「ランキング戦の勝者は敗者とのランキングが入れ替わる。だから自分の序列を上げたかったら序列の高いやつに挑みな。もちろん俺でもいいぞ」

 最後のは冗談交じりに言ってみた。俺だって少しは序列10位であることを誇っていたりもする。挑んでくる者がいればそれはそれで一興だろう。

「ただ一つ、これだけは忘れないでくれ」

 俺は一つこの後輩たちに伝えなければならないことがある、気功士の先輩として。

「戦闘訓練や模擬戦、この学園では『気功』を使った戦い方を多く学んでいくことになるだろう。けどそれは『気功』を使って戦わざるをえないときに使い方を間違えないためだ。自分が死ぬんじゃなく、殺すこともできるって絶対に忘れるなよ」

 後輩たちは真剣なまなざしでうなずいた。力を持ったことの代償、それだけは決して忘れてはいけない、もちろん俺自身も。

 そろそろいい時間になってきたので授業を終わらせて、解散にしようと思う。思うのだが、見つけてしまった。俺の視線の先にはがたいの良い男子生徒がいた。そして何より、不服そうな顔でこちらを見ていたのだ。これは見過ごせない。

「そこのがたいの良いヤツ、何か言いたいなら聞くぞ?」

 その男子生徒は待ってましたと言わんばかりに俺の方を見つめなおし、人の間をかき分けて俺の前までやってきた。おそらく俺の予想が正しければ、

「じゃあ、言わせてもらうぜ。あんたよぉ、こんな広い演習室なんて部屋でそんな退屈な話立って聞かせるためだけにこの部屋につれてきたわけじゃねぇんだろ」

 ああもう、どこから突っ込んでいいのかわからない。がたいがよくて、口が悪くて、おまけに突っかかってくるなんて、テンプレとでもいえばよいのか。こうなることをわかっていたとはいえ筋書き通り過ぎて笑いそうになる。そんな風に笑いを必死にこらえていたら、顔が引きつっていたのか、何故かそいつは満足げな顔を浮かべた。

「先輩よぉ、俺とランキング戦しようや。その第6位、警備隊なんだろ。まさか断ったりしねぇよな、こちとら退屈な話でうんざりしてんだ」

 どうやら不敵な笑みと捉えられてしまったようだった。好戦的に犬歯をむき出しにして挑発してくる。確かに何も考えていなかったといえば嘘になる。ここで挑戦を受ければ、ランキング戦がどんなものか実際に説明できる上に、『気功』をどんなふうに使うのかだって実践できる。ついでにこの男子生徒の角も丸くして一石三鳥だ。

 ただ一つ問題が。

「貴様、先輩に対する礼儀がなっていなようだな」

 隣に鬼の形相で一年生を睨みつける第6位の姿があった。この人は本当にプライドが高い、といえばよいのだろうか、ともかく無礼に対しては容赦しない。後輩に『貴様』っていうのもどうかと思うけど。

「あン?別にあんたにゃ話しかけてねぇだろうが」

 火に油を注ぐ後輩、もはや一触即発なのではと思わせるような気を両者は放っていた。仕方ないから仲裁に入ることにする。

「ま、まあ先輩落ち着いてくださいよ。別にいいでしょうランキング戦くらい。入学初日に禁止されているわけでもないですし」

 ねっ、と先輩を諭す俺。後輩たちの前でなんて情けない姿をさらさせるんだ。このまま穏便に済んでくれ。そう思いつつ、後輩がこれ以上余計なことを言わないように必死で祈りながら、先輩の方を見ると、

「ふん、いいだろう。警備隊隊長としてそのランキング戦を承認する。準備が出来次第、所定の位置につけ。他の者は観戦席へと移動しろ」

 こうして、俺と後輩のランキング戦が決まった。


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