150話
午後6時。
お屋敷に戻りました。
ダンジョンの最奥でなんやかんやあって、こんな時間になってしまった。
いつもなら、港町で買い物などを済ませてから戻るところだけど、今日はそうはいかなかった。
いろいろありすぎて、頭が痛いよ。
「ほう……。ダンジョンの奥に精霊様が……?
しかも、誓約まで済ませた……と」
クライネ師匠が呟く。
そうなんです。
お約束、というわけではないけど、精霊とキスしたら誓約してしまった。
今もちゃんと、オレの後ろに控えています。
背中まで伸ばされたストレートの髪は、桜の花を思い出させる薄桃色をしている。
エメラルドのような翠の瞳がその端整な顔を引き立たせ、どこか冷たい印象を与えそうだ。
頭が小さく、手足もすらりとしているのでわかりにくいが、実際は身長は低めだ。ヴィヴィより少し低いくらいかな?
そのわりに、女性らしいメリハリのあるスタイルをしているから、貸したヴィヴィの服がキツそうで、目の毒です──ヴィヴィが少し涙目で自分の薄い胸を撫でているのは、スルーだ。
はぁ……。
まぁ、でも、誓約をしたからといっても、何か悪いことがあるわけではないし、むしろ、お互いにwin-winの関係になるので、こんな異世界に生きていくことになったオレにとっては、ありがたいことなのだ。
「それで、その精霊様は、何を司っているんじゃ?」
「わかりません」
師匠の疑問は、そのままオレの疑問でもある。
まぁ、ヴィヴィもそうなんだけど、本当にわからないんだよね。
精霊っていうのはいろいろ存在していて、有名なのは、ディーネの『水』の精霊のような四大元素の精霊だ。あとは『光』とか『闇』などのようなものや、ジュリアの『死』の精霊といったような精霊もいる。
やはり、精霊が生まれる過程から、自然現象を司っているものが多くなるのだろう。
では、そうではないヴィヴィは、精霊ではないのか、というと、そんなことはなく、歴とした精霊なのだから、本当によくわからないよね。
一応、『ヴイーヴル』という種なので、『ヴイーヴル』の精霊となるのが、妥当だろうか?
別に、わからなくても支障はないので、そのまま放置しているけど。
「……まぁ、主であるお前がそう言うなら、それで良いんじゃが。
ところで、以前に話を聞いたときは、精霊の生まれ方なんてわからない、と言っていなかったか?」
「……あぁ、そうでしたね。
あれから、ジーク師匠と勉強しまして、ディーネとも話を突き詰めて、あんな感じで精霊は生まれるんじゃないか、と」
まぁ、絶対にそうだ、と結論付けたわけではないけど、大きく間違ってはいないと思う。
ジーク師匠には、改めて感謝を。
「後は、そうじゃな……では、精霊様に名は付けたのか?」
「それなんですよね……」
オレに名前を考えるセンスがないので、ディーネたちの名前は、何か連想ゲームみたいな感じで付けてしまった。
正直、スマンと思っている。
もうちょっと、ちゃんとした名前を付けてあげたかったけどね。
そういえば、過去にゲームとかでキャラクターに名前を付けるのも、とても苦労した記憶がある。
大体、歴史上の人物名とか、よくある名前とかを付けていた。
女性名だと、日本だったら花子、海外だとジェーンとかが多かった。
ゲームの場合はそれで良いけど、実際に名前を付けるとなると、簡単には出来ないよね?
本当にどうしようかな?
そうだ!
オレが思い付いたのを列挙していくから、そこから本人に気に入ったのを選んでもらう、というのはどうだろう?
え? ダメ? そうですか……。
んー?
貴女は何が出来ますか? というか、自分が何なのか、自分で理解していますか?
あぁ、自分が精霊である自覚はあるんだ……。
それ以前のことはどうです?
……覚えていない、と。
ふむ。
まぁそれは良い。
覚えていると、それはそれで面倒だし。
生まれ変わって、新たな人生──ではなく精霊生を楽しんでもらいたいものです。
となると、戦闘とかどうなのかな?
自分が何が出来るか、わかります?
へぇ、弓なら出来そう?
は? 空が飛べる? 何で? おわぁ!? 翼が生えた!?
何、その天使みたいな純白の翼は?
いや、よく見ると……白い鳥の翼だな。何だろう、鳩みたいな……?
それに服の上から生えているように見えるけど、これ、どうなっているんだ?
本物の翼、じゃない……?
んー。
ま、いっか。
空を飛べて、上空から弓矢で攻撃。
十分だね。
あ、名前、閃いた。
ユミルだ。
いや、『弓射る』からの発想ですけど、何か?
本人も気に入ってくれたようだし、良かった良かった。
「何で、こんなところに精霊様が四人もいらっしゃるのかねぇ。
普通は、有り得ないよ……」
クライネ師匠が何か言っているけど、聞こえない。
聞こえないったら、聞こえないんだ!




