魔の王に迫られまして
魔の王に迫られまして
人ってそれぞれ役割っていうものがあると思うんですよ。
王様だったら国を治めることだったり
騎士様だったら民を国を守ることだったり
王子様だって将来王になり、国を治めるという役割があります。
民だって役割があると思うんです。
だからって、魔王に迫られるのは私の役目ではないと思うんですよ。絶対に
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私、しがない魔導師のリリア・リーベル。王都の城下町で薬品関係を売って暮らしていのですが・・・
そんな私のところに「召集令【王命】」何て書いた書状が届くは何かの間違いだと思うんですよね、まぁ私の名前が書いてある以上間違い何てないんですけど
朝から胃が痛いです。
「お兄様も呼ばれたのでしょうか?」
とにかく王命と書いてあるからには行かなければ不敬罪で投獄される可能性があるので仕方なく紺色のローブを羽織、お店の入口に「close」の札を下げる。
「では、行きますか」
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城の前に転移をするとそこに見知った白のローブを着た白髪碧眼のイケメン
「アルフお兄様!」
そう、私の兄のアルフ・リーベル。
「リリアか、やはりお前も呼ばれたか」
「お兄様もやはりですね。こんなしがない魔導師を呼んでもどうしようもないのに」
「お前・・・それでも国内二位の魔導師か」
呆れたような視線を向けるので無視です。無視!
だって、第二位って言っても第一位のお兄様との差はものすごくあるのですから。
「しがない魔導師なんですッ!」
むーっとしているとお兄様に頭を撫でられる。
子供扱いですか!
「わかったから行くぞ」
すたすたと先に歩いて行ってしまうお兄様の後ろを慌てて追いかける。
そういえば・・・
「お兄様。私たちはどうして召集令を出されたんですか?」
「お前、礼状の中身見てないのか?」
「はい」
またもや呆れたような視線と今回は溜息もセットで、すいませんね興味ないんですよ。
しかもここに呼ばれるってことは碌なことじゃないじゃないですかー
「魔王だ」
「え?」
「魔王が王女を攫いにくると」
「えー」
魔王と聞いて恐怖何ておきませんが
この国の王女様に会うことは怖くてたまりません。
美少女に睨まれるって怖いんですから
「お兄様、帰りたいッ」
睨まれる理由については追々話すとして
とりあえず今は逃げようと来た道を戻ろうとくるりと方向転換したがあえなくお兄様に手をがっちりつかまれ引きずられる。
「嫌ですよー!あの方に関わると碌なことない!!」
「俺だって嫌なんだからな!」
城の中でとんでもないやりとりですけどね
そしてとうとう王の間まで来てしまった。
もう嫌だ、胃がきりきりする。
ストレスで死ぬッ
「アルフ・リーベル並びにリリア・リーベル参上しました」
「入れ」
無駄に大きい扉が開き、一歩の中に入り頭を下げる。
「顔を上げよ」
「「はい」」
「よくぞ来てくれた。リーベル兄妹。今日は頼むぞ」
「「ハッ!」」
もう一度礼をしてから私たちはすでに来ていた人たちの横に並んだ。
ざっと周りを見てみると騎士の恰好をした者からギルドの強者。有名な人たちがこぞって集まっている。
「時間を指定してくるあたり魔王は俺たちのことなめてるんだろうな」
「ぶっ殺してやるさ」
「王女の前で良いところみせないとな」
他の人たちが会話をしている中、扉が開きカツッとヒールの音を立てて入ってきたのは第一王女のアリア様。
とんでもない美少女で私と兄様以外の人たちが見惚れる。
「今日は私のために集まっていただきありがとうございます。私、今日まで怖くて怖くてッ」
広間の中央で顔を両手で覆い泣き始める王女様。
「大丈夫です俺たちが魔王を追い払いますから」
「そうですよ王女様」
「皆様ありがとうッ」
何この茶番。王女様のそれはセリフか何かですか?
だって遠目からみると王女様の口元があがってるんですよ。
チラッと王女様はこちらを見てお兄様が私の隣にいることを確認すると睨みつけてからこちらに駆けてくる。
お兄様イケメンだから私たちが2人で城に来るときは必ず睨まれるのだ。
一応、血は繋がっていないが私はお兄様に対して恋愛感情など持ち合わせていいない
だけど王女様はイケメンの近くに自分以外がいることを嫌うらしい。
意味不明。
「アルフ様!!アルフ様もいらしてくれたんですね、私ッ・・・嬉しく思いますッ!!」
私を突き飛ばしてからお兄様の腕にしがみつく。その豊満な胸に他の方々は見惚れておりますが。
っていうか今更だけど女って私だけなんですね。
くそぅ、この気持ち共有してくれる人がいない!
「リリア。大丈夫か?ドジだな」
え、お兄様。このタイミングで声かけてくるって苛めですか?
顔を上げると本当に心配した顔をお兄様とこちらを全力で睨みつてくる王女様の顔が見えた。
「大丈夫です」
「こんな愚鈍な方が魔王に対抗できるのですか?私心配ですわっ!」
うるせーこのビッチが。
・・・失礼、口が悪くなりました。
お兄様が差し出した手を借りて起き上がる。
「そろそろ時間だ」
全員配置に、そう言われて動き出す。
王様今まで空気だったけどね。
王女様の周りには騎士の中では右に出るものはいないと言われている剣の使い手と現在ギルド最強と言われているギルドマスター(イケメン)と国内魔導師第1位のお兄様、他もろもろがいます。
もちろん王様のところに騎士がたくさんいます。
ちなみに私が一番危険であろう窓側ですが、何か?
お兄様がこちらを心配気に見ていますが、王様の命令なので配置換えはできません。
王女様の希望なんだろうな、この配置は
「東の方角に魔族の反応あり!!」
探知の魔法を使っている魔導師が叫び空気がピリピリしだす。
というか、丁度私のいる窓側って東なんですよね、何だこれ
「来るぞっ!!」
視界に青い閃光がうつったと同時に窓側が爆発した。
相当な威力だったらしく壁も窓も吹っ飛ぶ。
「リリアッ!!」
お兄様の声がしますが
「想定内です」
防御結界魔法を展開して窓の内側に障壁を張ったので全員無事です。
国内第二位なめんな!
「ほぉ、今の爆発を防ぐ魔導師がいるのか。しかも結構な広範囲・・・中々だな」
砂煙があがる中音もなく侵入してきた人物の声に全員が固まる。
低く威圧のある声に恐ろしく整った顔、冷や汗が流れた。
でも・・・
「油断してると痛い目みますよ」
美形何ていつも目にしてるから慣れてるんですよッ!!
つーか、この美形集団の中にいる平凡だからって姿隠しも気配も消していないのに気づかないって何なんですかーーッ!!
「行け!!超絶圧縮のファイアーボール!!」
チャンスは一度!今日のストレス全部込めさせていただきます!
何でって?八つ当たりです!!
「・・・いいな、お前」
「え・・・?」
パァアンと言う音とともに巨大なファイアーボールが消えた。
相殺された?
マジですか、私の魔力を全力で込めたんですけど
やっぱり魔王って格が違いますねー
何て呑気なこと言ってるけど私殺されるかもしれないです
ぼんやりとする思考の中で魔王が整った顔に笑みを浮かべて何か喋っていますが・・・
「もう・・・限界です」
魔力切れに気絶寸前。
お疲れまでした・・・
魔王side
「あの国の王女は相当な美少女だと聞くか、お前。いるか?そろそろ嫁さんほしいだろ?」
そんなことを部下謙幼馴染に言われて、正直余計なお世話だと思った。
でも、まぁ嫁にするなら美人がいいだろう。
「まぁ顔だけでも見に行ってみるか」
「おぉ!そりゃよかった。さっき無断で予告状送ってしまったからな!」
「予告状?」
「あぁ!王女を攫いに行くってな!!」
・・・とりあえず、一発殴っていおいた。
特に戦争起こすわけでもないので部下を連れずに一人で向かう。
だが、予告状だしたってことは人間もそれなりに武力を持って待っていることだろう・・・
まぁ、もし気に入らない娘なら興が覚めたとか言って撤退すればいいしな。
そのためにも、面倒だが派手にいっておくか・・・
青い閃光が走り、城の壁が壊れる。
しかし中のほうは無事だった。
「ほぉ、今の爆発を防ぐ魔導師がいるのか。しかも結構な広範囲・・・中々だな」
人間にも俺の一撃を防御できる奴がいるのか・・・
感心しながら城の中に入ると
中にいる全員が固まっている。俺の魔力にあてられたか?
「油断していると痛い目みますよ?」
そんな言葉と同時に右側にいる女に気づく。
俺が気づかなかった?
まさか・・・
しかもこの魔法、下級に見せて威力は上級以上か!
「いいな・・・お前」
王女は確かに美しかったが、今の俺には王女以上にこの女が魅力的に見える。
魔族のほうが魔力量は格段に上だ。
彼女の魔力量と同じ量を手に混め相殺する。
衝撃の反動で突風が起きるがそんなことどうでもいい
「お前、気に入った」
最上級の笑顔で微笑んでみるが彼女の瞼はいまにも閉じてしまいそうだ。
「もう・・・限界です」
意識がなくなりその場に倒れようとする彼女を抱きかかえる。
「おい、この国の王よ。王女はいらぬ。代わりにこの娘を貰っていくことにする」
「・・・その娘をどうするつもりだ?」
王の問いに、少し考える。
気に入ったのは確かだが、持って帰ってどうしようか・・・
そこでふと、ここに来る前の部下の言葉を思い出す。
『そろそろ嫁さんほしいだろ?』
嫁・・・花嫁か・・・
抱き上げている彼女を見て、それもいいなと思ってしまうくらいにはこいつのことを気に入ってしまった。
・・・一目惚れというやつか
「そうだな・・・花嫁にする」
そう口にすると自然と口角が上がってしまう。
「お、お待ちください」
「ん?」
幸福感というものを感じている最中にさきほど男に囲まれていた王女が話かけてくる。
恐怖で震えているようにも見えるが、俺には少し怒っているように見えた。
「その女の子は国の民です・・・そう易々とは渡せません。代わりに私がッ!!」
その言葉に周囲は、「女神だ」とか「何と綺麗な心」とか言っているが、残念なことに俺にはこの女の本音が見える。
『そんな地味な女が、こんなイケメンに似合うわけないわ。アルフ様の時といい。ホントに邪魔してくれるわね。いっそ殺されてくれればよかったのに・・・ここは私の世界なの、私のために創られた世界!だから、カッコいい男は全部私のものよ。やっと隠しルートの魔王が出てきてこれからすっごく盛り上がるのに、あの女のせいで台無しよ!!シナリオ通りに進まない何てありえないわ!!魔王の花嫁になるのは私なのに!!!』
所どころ意味のわからない単語が入っていてはいるが・・・
「何故、俺はお前を花嫁にしなければいけないんだ?」
「えっ!?だって・・・そういう話だったじゃ・・・」
「俺はお前と話をしたことなんてないが」
「やっ、そういう意味じゃなくてッ!!あぁー!!もう!!何なのよこの世界は!!リセットよ!!もう一度やり直して!!」
いきなり発狂し始めた王女に周りがおろおろとし始める。
茶番か?
ほっといたほうがよさそうだな。
「まぁいい。王よ、この娘はもらっていく邪魔をしたら・・・この国はなくなると思え」
「ヒッ」
情けない声を上げて王は何度も頷いた。
満足した俺は彼女を抱えなおしてから壊した壁から外に出る。
後ろのほうで王女がまだ何かわめいていたが、知ったことか
「待て」
城を出たところで正面から声が聞こえて顔を上げると、そこには白いローブを着た白髪の男が立っていた。
「そいつを花嫁にするんだったな?」
「あぁ」
「もし、その子が嫌がって泣くことがあれば、俺はその子を迎えに行ってお前を殺すからな」
それだけ言って転移でいなくなった。
人類の中でも最強と言われる部類の人間だったことは間違いない。この子の事を好きだったのだろうか?
彼は何者だったんだろうか・・・
「それよりも、今はお前の名前を知るほうが先だな」
眠っている彼女の額に口づけを落として俺は自分の城に向かった。
・・・・・・・・・
リリアside
目が覚めると知らない天井でした。
城のどっかの部屋かな?
ふかふかのベッドと見慣れない天井を見てそんなことを思いながらぼーっとしていると部屋の扉が開き誰かが入ってきた。
「目が覚めたか?」
「えぇ、おかげさまで・・・・って・・・!!?」
「さぁ、お前の名前を教えてくれ」
え、ちょっと待って、本当にここどこですか。
城は城でも魔王のですかッ!!!!
「俺は今、お前の名前が知りたいんだ。早く教えてくれ」
魔王がベッドに座った反動でギシッと軋む。
「り・・・リリアですッ」
「リリアか、可愛らし名前だな」
にっこりという効果音が付きそうなほど素敵な笑顔で微笑まれましたが、現状がどうなっているかわからない。
本気で
「えっと、ここは魔王様の城ですか?」
「ルカーディル。ルカって呼んでくれ」
「る、ルカ様の城ですか?」
「様もいらん」
話が進まない!!
「ルカの城ですか!!」
「あぁ、ここは俺の城だ。お前は俺の花嫁になるためにここにつれてきた」
心底嬉しそうに話をしてくれる、魔王ことルカですが・・・ちょっと待ってください。
花嫁?私が?
花嫁!?誰のッ!?
「俺の」
「心の中を読まないでください!!人違いじゃないんですかッ!?」
「リリアであってる。俺の花嫁」
美形に耐性はありますが、美形に口説かれることなんてないんでそこには耐性ないんですけど!!
「真っ赤だな。可愛い」
「ッッ!!・・・!何で私何ですかッ!?」
「何でだろうな。・・・何かこう、笑った顔は可愛いんだろうか、とかそうやって真っ赤になってもきっと可愛いんだろうとか・・・色んな表情見てみたいって・・・そしたら、これ一目惚れってやつだってなって・・・それでー」
「待って!!ちょっと待ってください!!」
何この人恥ずかしい!!本当に魔王ですか!!
「まぁ、そういうことで、今の反応見る限り嫌がっている風でもないから見込みはあるな。」
キラキラした笑顔でそういうこと言わないでください心臓に悪いです。
「この先、愛想付きますよきっと」
「きっとないな。この俺が一目惚れでこんなに溺れてるんだから」
「そんなことわかんないじゃないですかッ!私は、魔王だからって機嫌とったりしませんよ!!」
「それでこそリリアって感じがしていいな」
「私のこと知らないじゃないですか」
「あぁ、だからこれから惚れさせながら知っていく」
「ッ!!」
また真っ赤になって思わず顔を両手で覆う。耳まで熱いですどうしよう・・・。
「まぁ、まだ恋愛感情とかきっとリリアはないだろうけど、安心しな」
―これからゆっくり落としてやるから―
あぁ、人生って何があるかわからないですね。
案外、これは私の役目なのかもしれません。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私が魔王に落ちるまで後1年。
あの日魔王が出会った白いローブの男が私の兄だと知ることになるのは後数ヶ月。
最後まで読んでいただきありがとうございました( 'ω')