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「ソラ、ちょっと焼けた?」
その夜、僕らはまた学校の音楽室に忍び込んでいた。
ピアノに手をかけてさあ今日こそは最後まで、と意気込んだ僕は、息をのむ。
「あ、うん、ちょっと……」
プールで、という言葉は直前で飲み込んだ。うん? と首をかしげるサクラに、僕は慌てて
「外でずっとリレーの練習をやってたんだ。暑いったらもう……」
と嘘をつく。最近、ごまかすことにためらいを感じなくなってきた。
しかし、サクラはふぅん? と呟いた後、猫のようににやりと笑った。
「ソラ、今嘘ついたでしょ。プール。今日、プール開きだったんでしょ?」
心臓が一瞬、動きを止めた。
しまった、見破られた。
「ソラは本当に嘘が下手だね。この時期にリレーなんてやるわけがないじゃない」
ころころと笑う彼女を横目に、一人まばたきが多くなっていくのを感じる。
背中の汗が噴き出す。
夏の肌をなめまわすような風が二人の間をすり抜けていく。
「でもね、ソラ」
サクラは一度、真っ赤な舌で唇をなめた。
黒い瞳が、僕を突き刺す。
「私、知ってるから――私も、ソラも」
死んじゃってるってこと。
ソラが、プールで溺れて。
私は、その話を聞いて、音楽室から飛び降りて。
「死んじゃったんだよね。去年」
歌うように、冗談を言うように。
サクラは微笑んで、そう言った。
「ソラのいなくちゃいけない所は、プールなんだよね。毎晩、こっちまできてくれてありがとうね」
あ、あ、と震える音が漏れる。
次の瞬間、
「――――――――――――――――――――――――――――っ!」
叫び。音にはならず、僕の体の中で跳ね返り続ける。
ばれた。ばれた? ばれた。ばれてしまった。まだ、大丈夫か? まだ、僕らは大丈夫か? まだ、彼女は大丈夫か? まだ、僕は大丈夫か?
まだ、僕らは一緒にいられるのか?
まだ、まだ―――
サクラは真っ白な肌をこちらに見せつけ、ふんわりと微笑んだ。
「ずっと一緒だよ、ソラ」
ずるり、とピアノの椅子から滑り落ちる。
お尻を派手に床にぶつける。不思議と、痛みは無かった。
はあ、はあ、と自分の呼吸が、やけに大きく感じられた。
僕は幽霊。
最近できた、「不思議」の、ひとつ。
「僕は――死んでる」
緊張の糸がほどける。大丈夫。大丈夫。自分に言い聞かせる。
「僕は――ソラだ」
何よ急に、とサクラはちょっと困った顔をして言う。
「そんなの、あたりまえじゃない。――ほら、いつもみたいに今日もピアノ、聞かせてよ?」




