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次の日。僕は、プールをとり囲むように設置された金網に一人ぼんやりともたれかかっていた。半そでの白シャツからはみ出た腕に、顔に、日の光が突き刺さる。蝉の声が、僕の耳を責める。
昼間は、嫌いだ。
目の前では、楽しそうに泳ぐクラスメイト達が黄色い声を上げ続けている。その瞳はどれも輝いてはいたけれども、サクラのような妖艶さ、美しさは誰一人として持ち合わせていなかった。
「あれ、また黒田くん見学? ……て、ごめん、そうだよね」
昨日話しかけてきた女の子が、プールから上がって僕の方に近寄ってきた。濡れた髪の毛が、ぽたり、ぽたりとしずくを落として地面に模様を作る。
「去年あんなことがあったのに、私達はもうプールで泳いでる。良いのかな?」
さあ、と言葉少なに返した僕に、女の子は苦笑した。
あのさ、この間の話なんだけれど。
さらにこちらに歩み寄ってくる。塩素のにおいが、正直――きつい。
黒いショートヘアが女の子の顔に貼りつく。まるで、あの時みたいだ。
ふっと、蝉の鳴き声が消えた。
一歩後ろに下がろうとするが、当然、金網に阻まれる。
みし、と金属が悲鳴を上げる。
近づかないでくれ。
何で、僕に構うんだ。
僕が、何をしたっていうんだ。
僕は、望んでここにいるんだ。
会いたい。
サクラに、今すぐ。
早く夜になってほしい。
「今、音楽室に幽霊が出るって噂だよ、って、昨日言ったよね。毎晩、ピアノの音が聞こえて来るんだって。……彼女、なのかな?」
おしゃべり好きの言葉が、僕をおぼれさせていく。
やめてくれ。
やめてくれ。
もう、良いじゃないか。
「彼女、ピアノが好きだったものね。……ソラくんと一緒に、よく音楽室で弾いてたんだっけ」
いつもは男子を呼ぶ時には名字なのに、わざと下の名前が呟かれる。
やめてくれ。
水にぬれた唇が、ゆっくりと動く。
「プールにも、幽霊、いるのかな?」
不思議、また増やそうかな?




