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【歪み】

作者: エビマヨ

 真っ暗な闇の中、赤い月明かりが二人の少年を照らしていた。

 「午前零時にここで・・ヒカル、うまくやれよ」頭一つ分大きな影がささやく。

 「わかってる」すぐ隣に立つヒカルと呼ばれた小柄な影が答える。その顔はまだ幼く、陰影のせいか苦渋に満ちた表情にも見える。

「オレ達に時間や空間の概念は意味がないけどな」そう言い残すと、背の高い方の少年は闇にとけ込むように消えていった・・・。


 どこにでもあるような町中の公園だった。 町は夕暮れを迎えようとしていた。

 「ざけんなよ」怒声が聞こえてくる。

 一人の少年が、もう一人の少年の襟首を掴んでいた。

 「ムカつくんだよ」そう言うと少年を殴り飛ばす。

近くでその様子をニヤニヤと笑いながら二人の少年が見ていた。

 「僕は君たちに何もしてないじゃないか」殴られた少年は怯えたように言う。

 「理由なんかねぇーよ」そう言いながら倒れている少年を無理矢理立たせると、さらに殴り飛ばした。

殴られた拍子に遊具で頭をぶつけたのだろう、額から血が滲んでいる。

 「何偉そうに赤い血してんだよ」倒れて身体を丸めている少年をさらに蹴り続けた。抵抗も出来ずにいる少年の手を掴む者がいた。

 急に手を掴まれ驚いて顔を上げると、背の高い少年が自分を引き起こそうとしていた。

 急に立ち上がった少年に今まで暴行をくわえていた少年が驚いた、少年が一人で立ち上がったように見えたから。

 ちょうどその時。

 「あなた達、何やってんの!」近くを通りかかったであろう中年の女性が叫んでいた。

 「やべ」そう言うと三人組の少年が逃げていった。

 「あなた大丈夫」近づいてきた女性が声をかける。

 「大丈夫です。慣れてますから」その時になって初めて自分を助け起こした人物がいなくなっていることに気がついた。

 「やだ、血がでてるじゃないの。お家はどこなの?」女性が心配そうに聞いてくる。

 「いいですから」そう言い残すと少年は逃げるように走り去った。

 家路を急ぐ少年に声をかける者がいた。

 「なんで、反撃せーへんねん」呆れているような声だった。

 驚いたように少年が振り返る。

 「あなたは・・」そこには公園で少年を助けた長身の男が立っていた。

 「あかんたれやなー、だからなめられるねんで」からかうように言った。

 少年は憮然として歩き出す。

 「なんや、怒ったんかいな。スマンスマン」少年の後を追いかけながらあやまる。

 「オレの名はタカ、あんさんの恩人や」恩着せがましく笑う。

 「ありがとうございました。これでいいですか」少年は苦々しく頭を下げた。

 「そうや、素直でよろしい。助けたったんや訳ぐらい聞かせろや」そう言うと近くの神社に歩いていった。少年は一瞬悩む素振りを見せるが後に続いていった。

 境内に着く頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。

 「で、なんでイジメられてるねん」タカが座りながら聞いた。

 「知りませんよ」下を向いたまま少年が答える。

 「なんや、ほなずっとこのままでおるつもりか?」タカが少年を見つめる。

 「・・・してやる」ポツリと少年が何かを呟いた。

 「なんやて?」タカが聞き返す。

 「コロシテヤル」少年はまるで別人のように憎悪のこもった声で言った。

 「アホやな」タカは呆れたように言う。

 「あなたには関係ない」少年の目は狂った光をしていた。

 「今しかないんだ、罪に問われない・・今しか・・」少年の顔は醜く歪んでいた。

 「邪魔しないでくださいよ」そう言い残すと少年は境内から去っていった。

 「やれやれ」そう言うとタカは、神社の社をいつまでも睨みつけていた。


    翌日・・逢魔が時


 例の公園近く、少年は一人公園に向かって歩いていた。頭には痛々しい包帯が巻かれ、手には不釣り合いな紙袋を携えていた。

 あと少しで公園の入り口とゆう場所まで来た時だった。

 「本気やったんやなぁ」入り口の柵に腰掛けたタカが、のんびりと少年に話しかけた。

 「どうしてここが」少年は周りを見回した。

 「誰にもゆーてへんわ」タカが少年に近づく。

「物騒なもんでも隠してそうやな」

 「邪魔しないで下さい」少年は紙袋からナイフを取り出していた。

 「どんな理由にしたって、人を殺すと一生・・いや、その後もずっと大きな重荷を背負う事になるんやで」タカの声は、どこか後悔を滲ませていた。タカが広げた両手は一瞬紅く鮮血に染まってみえた。

 「ずっと苦しむことになるで」タカは優しく声をかける。

 「このまま地獄の苦しみが続くよりましだよ」少年はタカにナイフの切っ先を向けてみせた。

 「オレは、止めるなんて一言も言ってへん」タカが悲しそうな目をする。

 「なら、どいて下さい」一歩詰め寄る。

 「他に解決の手段はないんか?」タカはあくまで冷静だった。

 「他に方法なんてない!僕が死ぬか・・・あいつらが死ぬかだ」そう言うと少年は袖をまくり上げた。その手首には幾つもの傷跡が残っていた。

 「大人は信用できない」興奮したのか、頭をおさえながら、さらに一歩詰め寄る。

 「死んでも殺しても、なーんも解決せーへんて」タカが道をあけた。

 「残念やけど、そろそろお別れや」軽く手を挙げる。

 少年がタカの隣を通り過ぎようとした・・・その時。

 「ウェッ」突然少年が胃の中の物を吐く。

 「イタイ・イタイ・イタイ」少年が頭をおさえて倒れ込む。

 「タイムリミットや」タカが少年の横にかがみ込む。

 「安心せぇー、どんな理由でも人を殺した奴には報いがあるさかい。あいつ達も地獄の苦しみを味わうことになるやろ」タカは少年が落としたナイフを拾い上げる。ナイフはタカの手の中で跡形もなく消えていった。

ナイフが消える頃、少年も動かなくなっていた・・・。

 「さて、ヒカルとの待ち合わせに遅れちまう」タカは振り返ることなく去っていった。

 どこかで風鈴の涼しげな音色が響いた。もうそこまで夏は来ていた。


 END 

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