その3
「そうとも限らないってのは?」
「殺されたのは高砂丸虫様。御当主様の甥っ子に当たられます。丸虫様はあまり大きな声では申し上げられませんが、能力を持たない方だったのです。」
老人は申し訳なさそうに話す。相生系にとって、というよりも6大家族にとって能力を持たないのは玉無しとそれほど意味を違えない。さすがに口には出さないが。
「ということは、一般人にも殺される可能性はあったと?」
「はい。そうなのです。もちろん、他の家族が手を出した可能性もないではないのですが。万一、一般人に殺されていた場合、こちらにも守るべきものがございますゆえ。」
「面子とかですね。」
「・・・。」
向こうから舌打ちがしたのを、高虎は聞き逃さなかった。しかし、だいたいの流れが読めてきた。早い話が6大家族の一つの序列2位の人間が一般人の手に掛かるなど、盆と正月に行われる総会で笑いの種にされないために内々で解決してほしいとのことだ。末端にとっては拒否権のないまったく辛い依頼である。
「わかりました。犯人を見つければよいのですね。見つけた後は電話で伝えます。」
「いいえ、その必要はございません。」
「必要はない?」
今度は嫌な予感がした。現実感のある嫌な予感だ。
「はい。依頼者を見つけられたらそちらで殺してください。我々としても丸虫様はご病気で亡くなられたので、その手続きをしなければなりません。」
高虎は耳を疑った。冗談じゃない。
「ちょ、ちょっと待ってください。俺は捜索の依頼は受けますけど、殺しの依頼は受けてませんよ。それに相手が一般人と決まった訳じゃないんですから。俺の力じゃ協会府の候補生にも返り討ちに遭いますよ。」
「誠に心苦しいのですが、ご存じかと思いますが、ただいま相生総本家は次回総会で我が高砂家の格上げを提言してくださるとのことで、高砂家としてもいろいろと準備がありますので。仇を討ちたい思いはあれども、ここは須磨家に例会出席の機会を与えようということになりまして。これは須磨家にとっても本当にありがたいことなのですよ。」
つまり、かかされた恥には報いたいが、無能力の玉無しのために時間を割く暇はないということらしい。しかも、「須磨家」の名前が出たということは解決できなければ、お取り潰しも十分にあり得るということだ。もともと須磨家は成金一族として、相生家の中では鼻つまみものであった。事件を解決できれば御の字、高砂家も手を汚さずに済む、犯人に高虎が殺されることになれば後継者のいなくなった須磨家の財産は瞬く間に本家の蔵に収納されるだろう。当然、須磨家に拒否権などあるわけがない。
「わかりました。やりましょう。やらせていただきます。」
「賢明でなによりです。わたくし安心致しました。それでは事件のあらましなのですが。」
「いえ、その前に報酬と手付け金のお話をしましょう。」