その2
「高砂家の方がなにか?俺に電話してくるって事はどうせ禄なことじゃないんでしょうが。」
「ええ、恥ずかしながら。須磨家の方にお願いしなければならないことがありまして。」
「・・・」
どうも「須磨家の方」のあとに「ごとき」が入ってそうである。いつものことなので、慣れてはいるが慣れると気にならないは同義ではない。少なくとも、須磨高虎にとって。
「はぁ。それで俺に何を探せと仰るんでしょうか?探し屋の俺に。」
「はい。実は見つけてほしい人間がいるのです。高砂家はそいつを追っている。」
「人間とかそいつとかなかなか剣呑な表現ですね。どうしました?身内でも殺されました?」
高虎は素直に思ったことを聞いた。この遠慮のなさが彼が同世代に嫌われる由縁である。また、同世代だけでなく上の世代の気にも障ったそうで
「分家の分際で気安く踏み込むな、口を慎めよガキ。」ドスのきいた声が向こうから聞こえた。
「失礼しました。それで一体ご用件は何でしょう?」
「はい。実は高砂家から死人が出まして。私どもの調査ではどうやら殺しが原因だそうなのです。高虎様には犯人を見つけていただきたいのです。」
やっぱり思った通りじゃないかと、思ったが今度は黙っていた。しかし、冷静に考えればそれは極めて異常なことである。
「殺しですか?高砂家の方が殺されたって事ですか?」
「はい。わたくしとしても無念でなりません。」
高虎にとって、無念かどうかは知ったことではない。問題は相生家第2位の高砂家の人間が殺されたということだ。由緒だけでなく相生家の能力を総本家を除けば最も継承している一族である。その親族が殺されたとなると犯人は、協会府の専門家たちか、他の六大家族か、はぐれの異能者かの可能性が高い。ちなみに前者二つだった場合、戦争になりかねない。そして戦争になった場合、相生一家の末端たる須磨家にも火の粉が掛かりかねない。
「もしかしたら、高虎様は戦争にならないかと御懸念されていらっしゃるかもしれませんが、そうとは限らないのです。」
こちらの心を読んだかのように、老人は受話器の向こうから語ってきたので、高虎はどきりとした。同時にこれが年の功か、とのんきに思った。現実感のない話ではそれほど須磨高虎に響かない。