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その1

路上に死体が転がっている。残念ながらMr.スミスの身元は分からない。存命時には二枚目であったであろうことが辛うじて残る鼻骨の高さと整った歯並びから判るのが救いといえば救いだろうか。そして、これもしばしばよくある事のなのだが、死体にとって死体の状態がどうかは大して問題ではない。些細なことを問題にするのは、残された親族であり、検死官であり、ネクロフォリアであり、殺人鬼であり、須磨高虎くらいであった。


その日、須磨高虎は大学の講義を自主的に欠席し、閑散としたゲームセンターで社会勉強に勤しんでいた。高虎はつい先日稼働したての新型格闘ゲームに本日17枚目となる100円玉を入れた。大学の友人の話によれば、自転車で20分行ったところに1プレイ50円のゲームセンターがあるそうなのだが、彼は財布の中身よりも労力を費やすことを嫌った。それだけでなく、彼は浪費を好む。最近だとパンも焼ける炊飯器を逡巡することもなく、店員に勧められるがままに買った。本来は炊飯器がほしいだけだったのだが、わざわざ一番良いものを値切ることもなく購入した。その炊飯だって、数回使ってそれ以前の外食中心の生活に戻ってしまった。友人にその浪費癖を窘められた際、「金を使うことが俺の存在証明なのだ」と彼は胸を張って適当に反論した。実際、彼は同世代の学生に比べて、高い経済力を持っている。実家が金持ちで十分な仕送りがあるだけでなく、彼は仕送りとは別に一般的大学生の仕送り並の額を得られる収入源を持っていた。そして、彼自身も恥ずかしげもなく、親のすねかじりと怪しげな稼ぎを言いふらしていた。彼の性格がいやみだったこと、すり寄ってくる有象無象の下心が読めないほど愚かではなかったことで、彼は大学での友達作り早々に失敗した。最終的に数人の友人は出来たものの、将来の人脈作りとして息子を送り出した実家の試みは見事に外れた。

金遣いに反してゲームが上手くはなく、ゲームセンターでようやくステージ7をクリアしたとき、ポケットに入れていた携帯電話が震えた。高虎はしばらく無視していたしていたが、ステージ8の敵が見たことのないコンボ攻撃を仕掛けてきたことで大きく興が削がれたこと、あまりにしつこいコールだったことでゲームを中断した。知らない番号だったが、市外局番がよく見たものだったので彼は仕事の依頼だと悟った。

「はい。須磨の高虎です。」

「こんにちは。高砂家の者です。今は大丈夫ですか?」

「問題ありません。」

妙に張りのある老人の声だった。そして、高虎はこういう声の持ち主は往々にして口調と裏腹に支配的であることを知っていた。

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