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瓦礫の海  作者: 泉柴 圭哉
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親方の本名


 ラボ「MZK」が去った船内には、困惑と静寂が、場の空気を支配している。

 鷹野さんが語った過去の文献、そして古代機械の事。そして未羽。


 中途半端に情報を与えられた事で、却って謎が増えてしまったように思う。

 古代機械がエネルギー源になるってどういうことなんだ。


 重い空気を破ったのはマナさんだった。

「……まあ、よかったじゃねーか」

 そういって大きく伸びをする。

「これだけ無茶して全員無事なんだ。下手すりゃワタシりゃ全員、人体実験の餌食だったかも知れないんだからな」

 確かにその通りだ。僕らが計画は最初から破綻した、一か八かのものだったんだから。

「んふぅー、まぁそうだな……」

 親方のため息が深い、緊張の糸が途切れてホッとしたんだろう。ただ正座の状態は未だ続いている。

「で、だ。親方…」マナさんが親方に軽蔑の念を送るように睨みつけている。

「っど…どうした。マナ」

「どこまで知ってたんだ?」 

「……」

 返事は無かったが、親方の肩が微妙に持ち上がる。嘘の下手な人だ。

「いや……そん」「うるせえジジイ」

 マナさんは容赦なかった。いざとなった時の為に携帯しているらしい護身用のナイフを親方に突きつける。

「ひっひいい……わかった、わかったから……」

 もう、この船の実質の権力を握っていると言っても過言ではなかった。


 

「では……」と親方ようやく正座が崩した。やはり足が痺れているようで「いっいたたた……」と周りを飛び回る。見るも耐えない滑稽な姿にマナさんからため息がこぼれる。

「ちょっと待って……」

 

 数分後、ひと呼吸おいて、語り始めた。

「確かに、私は古代機械について多少の知識はある」

「なぜ、私たちには話さなかった。お得意の「守秘義務」ってやつか」

「いや、こんなことを言っても信じてくれないかもしれないが、君たちにはラボとは無縁でいてほしかったんだ。あの組織は一筋縄ではいかない所があるんでな」

 僕は、いままでずっと疑問だった事を思い切って聞いた。

「親方は、いったい何者なんですか?」

 

「私は、慈善団体OWLで、花虫かちゅうの駆除を指揮していた。まあ、今では、いくつかの民間事業が担っているがね」 

「OWL」には覚えがある。僕が小さい頃、花虫を乗せて街を走っていたトラックには確かそういった名前が書いてあった。

 でもいつのまにか「OWL」のトラックは街を走らなくなった。 

「そして「OWL」は「MZK」の前身団体でもある」

「つまり親方は……」

「ああ、私は表向き、花虫かちゅうの駆除をしながら、その裏では花虫の研究をしていた。古代機械を研究していた鷹野さんは別部署だが、以前からの顔なじみだ」


 親方にそんな過去があったなんて。

「なるほどな」マナさんが頷く。

「だけどよ、それだけじゃ今まで私たちに、古代機械の事を話さなかった理由にはならないな」

「私は古代機械の研究をしていた訳ではないからな。中途半端な情報を与えて二人を混乱したくなかった。それに…古代機械を研究は、同じ団体でも二つの研究所に分けられているんだ。その一つがやっかいでな」


 何故、同じ団体なのに二つも研究所が必要なのだろう。考えられるのは……

「その一つはやたらエキセントリックでな。文明発展の為なら、金、人、資源、あらゆる犠牲をいとわない、いわゆる過激派だ。私はやつらとは、やりとりをしない事にしている。やたらときな臭い連中でな、たまにこの港街にも現れるんだ。二人は関わるべきじゃない」

「じゃあ鷹野さんのグループは?」

「鷹野さんも、何を考えているかわからない所があるが、表向きは穏健派と呼ばれている」親方は、乾パンの缶が空になってしょんぼりとしている未羽に近づいて、頭を撫でる。

「この通り、この子も無事だしな」

 親方はそれを見越して未羽の無茶な計画を了承したのだろうか。


「……まあ、今回は流石に連れて行かれると思っていたがね。私も取り押さえられたし、船内も調べられたしな」「やっぱり一か八かだったんじゃねーか」

 マナさん鋭いツッコミが入る。


「あのー、ワタシも質問良いですか?」未羽の手が垂直に上がる。

「なんだい?嬢ちゃん」

「あのあの、かちゅうとか、はなどりとか、ワタシが知らない言葉がいっぱいなのですが」

 親方は困ったのか、頭をポリポリとかく。

「あー、その説明はまた今度では駄目かい」「駄目です今知りたいです」

 また始まった。未羽は基本無関心だけど、気になったものにはとことん食いついてくるというのが、なんとなくわかってきた。


 親方は花虫と華鳥についてざっくりとだが説明した。特に反応が大きかったのは華鳥の方だった。


「凄い凄い!海の中に入れるのですか」

 未羽は目をキラキラさせている。

「ああ、まあ海の中なんてそんな楽しいものじゃないけどね」

 実際、花虫だらけの赤黒い海の中なんて、楽しい要素は一切ない。

「ワタシでも乗れますか?」

「残念ながらそれは無理だな、嬢ちゃん」と親方。

「嫌です!ワタシも乗ります!」

「そうもいかねーんだよ、このクソガキが」

 マナさんが未羽に背後から近寄って、頭をグリグリする。

「いたっいたたっ……って何するんですか?」

「聞き分けのない子供にはお仕置きだ」

「ワタシ子供じゃありません……いた、いたた」

 未羽の瞳が潤んできた。僕も喰らったことがあるけど、マナさんのグリグリはかなり痛い。

「それに華鳥は一人乗りだ。二人も乗れるスペースはねえ。重量オーバーしたら、浮き上がってこれないぜ」グリグリは続いている。未羽は、浮き上がった足を前後に揺らす。

「いたたた……離してぇ」

「これに懲りたら、もう華鳥に乗りたいなんて言わない事だ」

「そんなぁ」

「まだグリグリされたいか?」

「わかりました……ぐすん」


「んふぅー……そうだ」親方が何かを思いついたのか、手をポンと叩く。


「私の経歴もばれたことだし、これを機会に私の本名をみんなに教えておこう」

「いや別にいいです」「興味ない」「うう…海の中」


 こうして、親方の本名を知る機会は永遠に失われたのだった。


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