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瓦礫の海  作者: 泉柴 圭哉
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古代機械

「申し訳ありませんでした!ほら、お前らも!」

 あっけなく見つかってしまった僕らは、船内の客室で土下座の親方を見下ろしていた。見ているこちらが情けなくなってくる。

「いえ、いいんですよ親方さん。頭を上げてください……にしても……」

 中年の男が未羽に視線を向ける。

「古代機械から少女が出てきたなんて、普通じゃ考えられないんですから、無理もないでしょう。それに、どちらにしてもこちらでこの少女を連れ帰るつもりは無かったんですが……っと、自己紹介が遅れてしまいましたね。私が「MZK」責任者の鷹野です」

 僕が想像していたよりも、取引先の人間はまともそうに見えた。

「今後様々な協力を仰がねばならないかもしれないので、あなた方のお名前も伺いたいのですが……」

「高崎陸といいます。ここの職員です」

「楠マナだ。こちらとしてはあまり今後よろしくはしたくないけどな」

「……ハグ……未羽でーす」

 未羽は食料庫で見つけた乾パンを食べていた。こんな時でもマイペースなのは正直羨ましい。

「ほう……彼女に名前が……君がつけたのかい?」

 鷹野が何故か僕に質問してきた。

「あ……いえ、彼女自身が名乗りました」

「それは興味深いね。彼女の記憶は?」

「それが……何も覚えてないみたいで……」

 マナさんが耳元に近づいきて「……おい……無駄な情報は提示するな沈黙を貫け。まだ相手が何を考えているかわからないんだから」と囁く。

「おや。あまり信用されていないようですね」

「そりゃあ、そうだろう。お前らにはこっちの情報がだだ漏れだろうが、私達は、お前らが一体何者なのか、何を研究しているのか、まったく謎だらけなんだよ。信用なんて出来るはずがない」

 マナさんの押しの強さががこんな時でも発揮されるのは、凄く心強い。


「なるほど。確かに協力を仰ぐのであれば、こちらの手の内を晒さないとフェアではありませんね。いいでしょう……っとその前に一服いいですか?」

 鷹野はスーツのポケットから葉巻を取り出し、マッチで火を着けると、幸せそうな表情をして、煙を浮かべた。

「意外です。吸いそうなイメージはなかったです……あっ」

 思ったことがつい口から出てしまった。

「あはは。そんな済まなそうな顔をしないでくれよ。私はこう見えても若い頃は上がり症だったんでね、人前に出る前は葉巻を吸って気分を高揚させるようにしていたんだ。その頃の癖でね」

 そういって葉巻を吸う鷹野さんの表情は、生まれつきの人の良さが染み付いていた。僕には、とてもじゃないけどこの人が悪い人には見えない。

 

「さて……私達の研究所の事ですが、君たちが思っているような大それた事をしているわけじゃないさ。今のところはね」

「実際には何を研究しているのかとか、私はそういった事が知りたいんだが」


 マナさんが鷹野さんを睨みつける。


「では、まず古代機械の説明が必要になってくるでしょう」

 鷹野さんは、ポケットからなにかの歯車のようなものを取り出した。多分、古代機械の部品だ。研磨されているように光沢がある。

「あれには、現代では考えられないようなテクノロジーが使われていていても、使用用途が全くわからない、オブジェのようなものという認識は、みなさんお持ちだと思います。実際、それは正しい。古代機械は『それ』だけでは何の役にも立たない、まさにオブジェのようなものです」

「ほう。じゃあさしずめお前らは、その『オブジェ』を集めるコレクターってところか」

「そうです。と言えればこちらも説明を省けて楽なんですが、みなさんそれでは納得しませんよね?」

「当たり前だ。それに、趣味でやれるような規模の団体ではなさそうだからな」

 マナさんはそう言うと、作業服の男達に目をやった。やたらと屈強そうな男が何人もいて、僕らを外に出すまいと、窓の前に立っている

「結局、古代機械って一体……」

 僕は率直な疑問をぶつけた。

「単刀直入に言いましょう。古代機械は、それ自体がエネルギー源として利用されていた事が、過去の文献でわかっています」

「……どういうことでしょうか」

 それに過去の文献は失われたはずじゃ…

「つまり、このオブジェのような古代機械達は、木炭自動車の『木炭』の部分を担うものなんですよ。私達が、今一番欲しているものはなんでしょうか? 陸くん」

「えっと……電力でしょうか」

「そうです。文明が崩壊し、過去の文献の殆どが失われてから千年。人は徐々に生活水準をあげ、この島国、「JP」の総人口は三千万人を越えました。過去の研究も進み、現在の科学力は前世紀である、西暦十九世紀前半と同等、という推測がされています」

「そんなこと都市からの回報には何の情報もないんだがな。本当なのかい?」


 マナさんが訝しむ。


「だから、あくまで推測なんだよ。回報に曖昧な情報を提供するわけにはいかないんだ。だが、信頼の値する人物の推論だからね。科学者でありながらこんな曖昧な答えになっているのは申し訳ないが、今はこうとしか言えないんだ」

 

 鷹野さんは、なぜか僕の方を見て微笑んだ。



「話を戻そう。これ以上の文明の発展には、現状の木炭を使用した熱運動のエネルギーではコストが掛かりすぎますから、電力発電が必要不可欠です。西暦十九世紀以降の文明の発展には、大量の電力なしでは語れない」


「電力発電自体は、十年前に過去の再現に成功し、今では風力発電が十数台稼働しています。しかし私たちの中で電力がある暮らしをしている人間はごくわずかの富裕層です。つまり電気はまだ高級品で、現在唯一の発電方法である風力発電だけでは、「JP」の総人口三千万人を到底賄えない。化石燃料」

「古代機械……これは1000年前、失われたエネルギー源の新たな活路として期待されていたものでした。まぁ、どうやらそのプロジェクトは全て凍結されたようですが」

「凍結……ですか……?」

「ええ。私達は推測するに、凍結された理由は恐らく、文明が崩壊した原因と繋がっているようなのですが……その話は後にして古代機械の説明を続けましょう」

 僕は、あまりにスケールの大きな話に相槌も忘れていた。それはさっきまでうるさかったマナさんも同じだろう。親方はずっと黙り込んでいるけど。

「古代機械の内部には、高度な並列処理が可能な演算機が組み込まれています。この演算機は、生命が活動する際に発生するあるエネルギーを、電気エネルギーに変換する事ができるんですよ。これさえあれば、資源をほとんど失ってしまった地球でも、文明崩壊以前と同じような社会を取り戻せるかもしれない」

「おいおい……そんなことが本当に可能なのか」

「そう、私達は考えていました、最初はね」

 鷹野さんは持っていた古代機械の部品を、僕に投げてよこした。

「鷹野さん……そろそろ……」

 若い男が鷹野さんに告げた。

「おや、こんな時間ですか。今回は帰らせて頂くとしましょう」

 そんな。まだ、肝心な事が聞けていない。

「おい、説明は途中だぞ。このガキがなんで古代機械に入っていた事がわかったのか、説明してもらおうか」

 マナさんがいつもより低い声が船内に響く。

「なあに、感、ですよ」

 鷹野さんは微笑んではいるけど、僕には心のうちは全く読めない。

「とりあえず、彼女の事はあなた達におまかせしますよ。それと、彼女が入っていた古代機械はどこでしょうか?親方さん」

「かっ……華鳥でいったん、海に沈めました」

 親方は相変わらず噛みっぱなしだった。そういえば、正座の状態から動いていない。足、痺れたのかな。

「おや、そうですか。では次回は来週くらいには来れると思うので、それまでに回収しておいて下さい。質問はその時に受けつけますよ」

 そう言うと、部下を引き連れて去っていった。

 

鷹野さんの説明は、確信にはまだ触れていない。彼女がどうして古代機械の中にいたのか、僕はそれが聞きたかった。

 木炭自動車の臭いは、船内まで入り込んでいた。

  

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