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瓦礫の海  作者: 泉柴 圭哉
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鷹野という男

 ラボ『MZK』のメンバーは、かなり大きい木炭トレーラーでやってきた。全長5mの華鳥が二台程は収納出来るくらいの大きさだ。かなりの量の木炭を消費するのか、辺りは水素ガスの臭いに包まれている。

トレーラーから、スーツ姿の男が3人、それと古代機械を回収するための作業班だろうか、地味なツナギを着た男達が降りてきた。


「お久しぶりですなぁ。『親方』さん」

働き盛りを少し過ぎたくらいの見た目だが、瞳はまだ若々しい最高責任者、鷹野が、何故か『親方』を強調するようなイントネーションで、親方に握手を求めてきた。

「ご無沙汰ぶりです」

 親方は、とっさにTシャツで手汗を拭いて鷹野の手を握り返す。額からは冷や汗が止めどなく流れている。

「……しっしかし珍しいですね。鷹野さんが直々にこんな辺境の地まで訪れるとは」

「50にもなると体力が衰えてきてねぇ。たまにはフィールドワークでもしておかないと、あと5年もすれば動けなくなりそうですよ。それに……」

 人の良さそうな顔で笑う。ただでさえ垂れている眉毛が、更に垂れ下がる。

「今回の古代機械は、少々特別のような気がしましてね。直ぐにでも自身の目で確かめたかったんですよ」

 恐らくこちらが本音なのだろう。この後の事を考えると、親方は胃痛と冷や汗がとまらなかった。

「……そういうものですか。そちらの方々は?」

「……っ!ご挨拶遅れました!雀田すずめだと申します。今日はよろしくお願いします」

「キズキです」

 雀田と名乗った男は20代前半くらい、精悍そうな顔つきだが、名前を聞いただけで動揺しているところを見ると、こういった場には慣れていない、温室育ちの青年のようだ。あまり、研究をしていそうな雰囲気もない。

 一方、キズキという男は、顔は青白く、服装こそスーツなものの、ネクタイが曲がっていたり、スラックスの裾が少々長すぎたり、いかにも研究だけしてきてそのまま歳をとってしまったような印象の男で、あまり人を寄せ付けつけない雰囲気を醸し出している。

「対照的な二人でしょう?ですが、どちらも優秀なスタッフですよ」

 鷹野に心の内を読まれたような気分になり、親方の額からはさらに大量の冷や汗が流れる。親方は鷹野が以前から苦手だった。終始笑顔のこの男は、喜怒哀楽の『喜』の表情しか表に出ないので、何を考えているかがいまいちわからない。


「っと……とにかく、船内にご案内します。こちらへどうぞ……」

 親方は、彼らを未羽たちが床下に隠れている客間へと案内した。

「おや、古代機械があるのはここではないのでは?」

「ええ、そのことなのですが……」

 親方は嘘のなりゆきを、いどろもどろになりながら話した。

「…申し訳ありませんでした!わたしの不注意が、全ての原因です……」

「きっ貴様……!なんと言うことを!」

 意外なことに、最初に怒りを露わにしたのは、一番おとなしかったキズキで、親方の上着に掴みかかってきた。親方は「ひぃ」と情けない声をあげてしまう。 

「っい……言い訳にはなりますがっ、この地区は殆ど人が近づきませんから治安が良い方です。まさかこんなことになるとは……」

「こっ……こいつ!」

 キズキが右腕を振りかざす。殴られると思った親方は、必死に顔を両手で隠し、目を閉じた。

 ……しかし殴打の痛みはなかった。

「まぁ待ちなさい。キズキくん」

 親方が恐る恐る目を開くと、そこにはキズキの拳を受け止めている鷹野が写っていた。

 そして、こんな時でも鷹野の表情は笑顔のままだ。

「しかし!あの古代機械は!」

「確かに、『あれ』は特別なものです。盗まれたのであれば、我々の作業班が今日にも全地区を探し回るでしょう。ですが……」

「なにか……?」この時、親方の緊張は頂点に達していた。

「私は、生まれつき鼻が犬並みに良くてね、先ほどからこの船内、薬品の匂いがかすかにするんですよ…知っていますか?古代機械には時々薬品の匂いがすることがあるんです。親方さんは、なにかご存知なのでは?」

「っ!!!いえ……」

 親方の表情が揺らぐ。もはや、完全に鷹野の手の内で踊らされていた。

 キズキと雀田も、上司の存在感に圧倒され、言葉少なになっている。「そうですか。私どもとしても、貴方を疑いたくはないのですが、念のため船内をくまなく調べさせて頂きますよ」

 鷹野は外で待機していた作業班にこの船内をチェックするよう、雀田に指示を出し、お茶を一口啜ると、優しげな笑みで微笑んだ。

 「ちょっと待ってください!っくそ……!」

 親方は、作業員に取り押さえられ、その場から動けなかった。

 

 こうして陸達が隠れていた床下倉庫は、作業員達の手によって、5分もしないうちに見つけだされてしまった。


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