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瓦礫の海  作者: 泉柴 圭哉
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「捨てましょう」

 意外とお喋りだった少女「未羽」の希望は

「身体をいじくりまわされるのは困るので、どうにか匿って欲しい」

 というまっとうなものだった。


「ふむん……しかしな……」

 と、親方は渋った。当たり前だ。もしラボにばれたら、きっと仕事が出来なくなる。だけど未羽が

「もし私を取引先に引き渡すつもりなら、わたしをこの場で殺してください。取引先には、わたしが暴れたから殺した、と伝えてください」

 冗談なのか本気なのかわからない口調でそうなんども繰り返していたのには、ほとほと滅入ってしまったようだ。


 親方は結局、この少女の要求を受け入れることにした。


 でも、問題は山積みだった。

 

 誰かの家で匿うにしても、親方は妻子持ちで空き部屋もない。

 マナさんは「ガキの世話なんてまっぴらゴメンだ!」と断固拒否の姿勢を崩さない。


 ましてや僕は港の独り身が沢山住まう下宿に住んでいるから、見なりは幼いとはいえ女の子を自室に匿うなんてことは絶対に無理だ。下宿のみんなは女の子に飢えているから、もし女の子を匿っていると周りに知れたら、連日僕の部屋にやって来かねない。


 なにより親方とマナさんが許してくれないよなぁ。


 だけどその前に、直近の問題である、「取引先にこの事をどう誤魔化すか」を考えないといけない。


 僕らは船内で仮眠をとってから、この棺をどうにか元の状態に戻そうと奮闘していた。

 この時点で朝の10時。取引先が、商品を取りにやってくるのは午後1時。

 

 仮に、それまでにぐちゃぐちゃになった棺の中身を元通りにするのはかなり難しそうだ。配置も思い出せない。


 上手く誤魔化すのは無理だろうと親方は判断した。古代機械の中身はすべてとりだして、格納庫に隠したのだ。


 あとは、棺を元の状態のように、レリーフが内側になるようにすればいいだけ……なのだけれど。


「全然元の状態に戻らないじゃないか……」

 マナさんが浮き出てしまったレリーフを力尽くで押し戻そうとしている。


「おい陸!お前これをどうやって開けたんだよ」


「いや、僕は何もしてないですけど……少し触れたら発光して、開いてました」


「んなわけあるか!この粗チンが!あと半日もしたら、取引先がやってくるんだぜ?」


「本当に何もしてないんですってば! というか、そういう言葉遣い、やめませんか? 一応女の子もいますし」


 少女は何も気にしていないようで、長い黒髪を指でクルクルと弄くりながら、せんべいを貪るように食べている。僕の目線に気づいても、首を傾げるだけなので、あまり気にはしていないように見える。


 僕はもう一度、古代機械に目を向ける。

「ちょっと触ってみていいですか?」


 確かに、何がトリガーになってこの古代機械は開いたのだろう。


 僕が触れたところで、古代機械は何の反応もしめさなかった。


「んふぅー……どうやら一度開けるともう閉まらない仕組みのようだな」


「親方ぁ、そういう冷静な分析はいいから、なんかいい方法考えてくれよ……これ、多分二度と元の状態に戻んないぜ」


 マナさんは完全に諦めムードだ。親方は「んふぅー……」と鼻息が荒くなるばかりだし、僕はいったいどうすればいいんだろうか。

 

 なにかいい方法は。


「取引先に、正直に説明するとか……」


 と思ったものの、それは流石にまずい。いくら華鳥の調整などをお願いしているとはいえ、相手はまったく実態のわからない研究施設だ。上手くいく可能性はゼロではないけど、あまりにもリスクが高すぎる。


 一応、もう一人の、未羽と名乗った少女にも意見を聞いてみるか。


 少女はまだせんべいに夢中だった。

 でも、さっきまでの様子だと話はちゃんと聞いてるし、頭も良さそうだから、意外と名案が思い浮かんでいる……かも。


「なぁ、きみも良さそうな案があれば……」


 未羽の小さな口の中には、まだせんべいがあるようで、頬が丸く膨らんでいる。


「……んぐ……そうですね」


「うん、どうかな」


 

「捨てましょう」


「………は?」

 

 今この子、笑顔でとんでもない提案をしたような。


「嬢ちゃん……もう一度いいかい?」


 親方が優しく諭すように尋ねる。


「これ、捨てましょう!」


「……って、そんなことできるわけないだろ……!」

 さっきちょっと感心した僕の気持ちを返してほしい。

 捨てるのは流石にまずいんじゃないか。


「だけど、それ以外の方法は無いと思いますよ。もしくは私の事は見捨てて取引先に引き渡すかですね。まぁその場合は海に飛び降りて自殺するので」

 

 少女の綺麗な瞳から光沢が消える。案外本気なのかもしれない。

 本当に掴みどころのない子だ。


「……なるほど」

 親方が険しいけどどこか胡散臭い顔つき、少女の提案に納得……って、なるほどって……


「意外と合理的で良い手かもしれん」


「ちょっと! 親方何言ってるんですか!」


 この船にはまともな人間はいないのか。


「現状、この古代機械では、この中に何か入っていたことは素人目でも感づく。いっその事奴らの目が届かない海の底にでも沈めてしまった方がよほど安全だ」


「でも! 仮にその方法で棺は隠せたとして、取引先には何と説明する気なんですか? もうサイズや形などの詳細は連絡済なんですよね? 仕事、無くなりますよ……」


「盗まれたって言えば良いじゃないですか」


 少女が口を挟んでくる。


「大丈夫ですよ。きっとなんとかなります」


「ちょっと待ってよ……二人とも楽観的過ぎますって」


「実際相当苦しいだろうが、それ以外に方法はなさそうだからな」と頷く親方。


 僕はマナさんに救いを求めようとしたけどーー


「うーーん。私はもうなんでもいいやー」

 と、もはや完全に無関心だった。


 やるしか、無いのかな……。


「もうどうなっても知りませんからね。古代機械を盗むやつなんてこの街にはいないんですから、絶対ばれますよ……」


 こんなことをしている間にも、古代機械の引き渡しをする時間は、刻一刻とせまっていたのだった。


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