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瓦礫の海  作者: 泉柴 圭哉
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この足で君が待つ場所へ

 僕はカスタムされた華鳥に乗って、地下水路の奥へと潜航していた。


 地下水路は僕が想像していたよりもずっと深度がある。10メートルくらいだろうか。確かにこれなら華鳥でも前へ進めそうだ。まさか都市の地下にこんなものがあるなんて思っていなかった。


 目と鼻の先に、朱い不定形な生き物が漂っている。僕がこの半年間、飽きるほど見てきた生物ーー


 まさか、こんな場所でこいつに会うなんて思っていなかった。でも、だからこそ、これは僕にしか出来ない事なんだーー不謹慎だけどそう感じて、少しだけ嬉しくなる。僕がこの半年間苦労して覚えた華鳥の操舵の技術が無駄じゃなかったんだって思える。


  ーーよし。未羽、今行くからなーー


 僕はそうつぶやくと、華鳥をコンソールを操作して、その生物たちの元へと向かっていった。



    *



 その数時間前ーー


 大きなテーブルに敷き詰められた地図を取り囲むように円になって、僕らはこれからの流れを確認していた。《MZK》のメンバーと、僕、マナさん、親方が勢揃いするのは、未だ慣れなくて変な感じだ。


「さぁーー作戦会議だ」と雀田が快活そうに言う。そして鷹野さんが説明を始めた。

「先ほど雀田くんが言ったように、君たち二人には潜水艇《華鳥》に乗って地下水路を移動。そして、キズキくんが潜伏する地下にある研究所に向かって貰う。今みて貰っている地図は、都市下にある地下水路のものだ」


 地図は、管のように書かれた細い線が複雑に入り組んでいた。僕はそれを道路だと思っていたけど、これが地下水路ということだろうか。


 おいおい、とマナさんが肩をすくめた。


「根っこの質問をさせてくれ……なんでそんなもんが都市の下にあんだよ? そこまでして都市のやつらは水を貯蓄したいのか?」 


 その資金をちっとはこっちに流してほしいもんだねえ……と、いやみたらしくマナさんは言った。流石にマナさんは口が悪すぎるが、言いたいことは僕もわかる。都市は湖を囲うように発展しているんだから、水源は元々沢山あるはずだ。それなのに、また地下水路を作るなんて何の目的があるんだろう。


 雀田がそれを、まあまあと諭す。

「まぁ、そう感情的にならずに聞いて下さいよお……用途としては、後々の保険ってとこかな。この水路、今後の花虫による土壌汚染対策でーー」

「ーーんなこたぁ知るか! 納得出来ん限りアタシは協力しないぞ! お前らのその無駄遣いした資金をアタシによこせ。アタシは酒を買う」と理不尽なマナさん。「仲いいなお前ら……」と親方。


 コホン、と鷹野さんがわざとらしく咳をして会話の流れを変える。


「これを見てくれ」


 鷹野さんが、地図の北東を指示棒で指した。なにか大きな空間があるのだろうか? 地図を見る限りだと、その部分だけが歪な楕円で開けているように見える。あれ? でもこれって地下水路の地図なんじゃ……? 


 僕は口には出していなかったはずだけど、その疑問に答えるように鷹野さんが話を続ける。


「これは、地底湖だ。昔、ここにはジオフロント……文明崩壊以前に地下施設があったようなんだ。キズキくんは、今、ここにいる」


「地底湖に地下施設……ですか」と僕。

「ほう……それは……なんと……」と興味深そうに親方

「へぇ……」どうでもいいのだろうマナさん。


 三者三様の反応をした。

 ジオフロント……地下施設というものがどんなものはなんとなくイメージできた。父さんが描いていた絵にはそんなものがあったからだ。それは絢爛な都市の地下の断面図で、背の高いビルの下にも都市が続いていた。所狭しと人がいて、せわしない感じの表情をしていたのをよく覚えている。


「ああ……そういえば陸君のお父さんも地下都市を描いていたね」

 鷹野さんは元々父さんの絵を買っていたらしいからその絵の事を覚えていたようだ。


「はい。ああいうものが遺産として残っている、ということですか?」


「……あのイメージとは少し違うかもしれないな。ここはいざとなった時の避難所ーーシェルターだったんだ。想像出来ないかもしれないが、文明崩壊以前は、都市、いや国を丸ごと破壊出来るような威力の爆弾が大量に作られていたんだ。しかも他国で競い合いかのようにね。それを凌ぐために、旧時代の人間はこんなものまで作ったのだろう」


 爆弾という言葉は聞いた事があるけど、実際にどんなものなのかは僕はしらない。ただ、旧時代にはそんなものがあったらしい。そこまでして他国を攻撃する必要があったということが、とても不思議だ。

 

 まあ何よりも、今はこの島国『JP』の外海の陸地には、国どころか人間自体がいないようだから、戦争する相手もいないのだけれど。


「このシェルターにキズキくんはいるんだ。ここに、陸君とマナさんの二人は向かって貰う事になる」


 それを聞いて、おいおい、とマナさんが野次を飛ばす。


「ちょっと待てよ。ここに直で行ける方法は無いのか? だってここ、避難所だったんだろ? どこかから簡単に行ける場所じゃねえと避難もクソも無いだろうが」


「いや、もっともな指摘だ。確かに、元々は地上からここに繋がる通路があったんだが、僕らが陸君たちの街《CS》に言っている間にキズキに賛同したグループにバリケードをされてしまった。で、ここに行くための現在唯一の方法が、この地下水路を抜けるルートだ」


 鷹野さんがすまなそうに言った。改めて自分を戒めるような悲痛な顔をしているように、僕には見えた。


 ひとつ、質問いいかな? と髭をさすりながら親方。

「……そんな場所と、地下水路が何故繋がっているのです」


 これには雀田が応えた。


「……たまたまですよ。順序が逆です。地下水道を掘っていたら、ジオフロントを都市の外れに見つけてしまった。ジオフロントの本来の入り口は、地下側からでないと見えないようにカモフラージュされていたんです。他国から潜入されたら元も子もない、そういうことなのでしょうね。困った政府は、ジオフロントを研究者に丸投げした。政府にとっては未来の水の問題の方が大事ですし……それと、これは余談ですが、環境隔離システムは、政治的立場の強い人間を選別します。そしてその類いの人間には一般人よりも強烈な無意識下のコントロールを行っているんですよ。過去の遺産や兵器に繋がるような書類など、怪しいものを発見しても、無視してしまう傾向にあるんです。彼らがいくら優秀でも、実際はシステムの奴隷なんです」


「んふぅーーつまり……この地下水路を通らないとキズキ氏の所へは行けない、そういうことか」恐らくシステムについてはあんまり理解できていない親方が、どや顔でまとめた。まぁ、僕もあんまり理解できてないんだけど。


「ええ、親方さん。そして、この地下水路は幸い幅は広く、水深もある、つまりーー」


「潜水艇《華鳥》が出番、という訳か……」


「まさかこんな内陸で潜水艇に乗ることになるとはなあ……」と頭を掻きながらマナさんが言った。僕もそれには同意したい気持ちだ。


 雀田がニカっと笑ってから、鷹野さんにアイコンタクトをした。鷹野さんが頷くと、他の研究員たちにいくつか指示を飛ばした。


「わかっていただけたなら幸いです。説明はこれくらいにして、早速僕らは地下水路の入り口へと向かいましょう! 研究所の裏手に車を用意しています。みなさん、トイレには行っておいて下さいね?」


 雀田が先導して歩き出す。僕は、未羽を助けるんだ、という想いを胸に抱いて、後に続いた。



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