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瓦礫の海  作者: 泉柴 圭哉
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真実は、いつだって唐突で

 

 僕は各地区で補給、休憩を繰り返しながら、都市へと向かった。


 幾度となくトラブルはあった。

 一人で旅に出るのは初めてで、それは全てが新しい体験だった。何度も道に迷った。木炭バイクが人のいない地区で止まってしまい、原因もわからずにひとり途方にくれた。その度に通りかかった運搬車の人に水を貰ったり、燃料を分けて貰ったりした。


 どこにでも人はいるわけでは無くて、みなどこかの土地に寄り集まり、密集して暮らしていた。

 それはどこの地区でも言えることで、僕の生まれ育った『CS』とあまり変わらないようだ。いくら科学が発展して人口が増えたと言っても、ごく一部の富裕層以外はそんな暮らしを余儀なくされているのが現状なのだろう。


 それでも、僕の心は折れなかった。

 もう決めたんだ。僕は知りたい。

 古代機械の事を、そしてなにより未羽のことを。

 もう彼女が僕のもとに現れなかったとしても、それだけは貫き通す。


 そして、北西側に走り続ける事3日間、ようやく僕は父さんとの思い出の地である、都市「FJGK」にたどり着いた。


 久しぶりの都市は、様変わりしていた。そこは、以前のような観光地のような雰囲気はなく、無味乾燥な研究所が沢山立ち並ぶだけの場所になっていた。僕の記憶だと、もっと緑が豊かだったけど、それも無くなっていた。


 道の窪みに木炭バイクを停めて、僕は子どもの頃の記憶を頼りに、湖沿いを歩いた。


 このあたりは、父さんと歩いた事のある場所だった。

 昔アイスが売っていた屋台は、もうない。採取した花虫が乗っているのだろうか、まだ塗装の綺麗なトラックが立ち並んでいる。

 もうここは、誰かが訪れる場所ではなくて、ここで研究している人々が、生活の拠点とするための場所。幼少期以降、ここに足を踏み入れた事の無かった僕は、少しだけ寂しさを感じた。


 変わらないのは、波風が無く、底が見えてしまうんじゃないかというくらい透明な湖と、ゆっくりと回り続ける風力発電の風車だけだ。

 その景色は酷く淡泊で、十年の歳月がこの都市をどう様変わりさせたのかが、そして科学者たちだけがこの国でいかに権力を持っているかを、顕著に表していた。

 

 湖沿いの綺麗に舗装された道路を走っていると、見覚えのある建物が目に飛び込んできた。

「ここだ……」

 その場所は当時の古ぼけた外観のまま、まだ真新しい研究所のとなり整然と建ちならんでいた。

 

 子どもの頃は名前なんて気にしなかったけど、小さな看板に「FJGK教会」と書かれていた。


 

 ここが、「棺の少女」が飾られていた教会ーー


 あの絵をこの教会で見なければ、夜に船内に忍び込むなんてことはしなかった。いつも淡々と暮らしていた僕が、あんな小さな子どものような無茶をすることはなかったんだ。

 ここから、全てが始まったんだ。 


 建物の中へ足を踏み入れようとした。建物の周りは雑草が生えきっていて、手入れがずっとされていない事がわかる。手で腰ほどの植物をかき分けて、蔦が絡みついた教会の扉を開けた。

 

 ステンドグラスから入った光が、舞っている埃を照らしている。

 以前のように絵画は置かれていなくて、そこには椅子さえなく、酷く淡白な内装だった。ずっとこのままの状態で、使われていなかったのだろう。

 その奥、祭壇だったのだろう階段の奥に、まるで教会の一部であるかのように初老の男が佇んでる。


「やぁ。待っていたよ陸君」


 どうやら、僕の感は当たっていたようだ。


「体調の方は、どうだい? この間は、優れているようには見えなかったからね」

 そう言うと、鷹野さんは老成した笑みを浮かべる。その腰あたりに、なにかの置物だろうか……それが布を被ったまま置かれていた。

 相変わらず、何を考えているのかいまいちつかみづらい人だ。

 僕は言葉を返すことなくうなずくと、早く確信にふれたくてとっさに聞いた。


「あなたは、父さんの知り合いなんですか」

 

「ああ。君のお父さんは、素敵な人物だった」

 そういうと、鷹野さんは懐古を尊んでいるんでいるのか、少し苦い表情をして沈黙した。僕は聞いた。

「僕が聞きたいのはそんな事なんかじゃないんです」

 そうだ、ここまで来たのだって、言ってしまえばただの感だった。あてが外れる可能性もあったけど、僕はーー


「真実が知りに、僕はここまで来たんです」


「そうだね。どこから説明しようか……」

 そう言うと、布の被ったオブジェらしきものの埃を払った。

 

「そうだ。陸君は、紙の耐久年数がどれくらいか知っているかい」

 僕は、この人のペースに乗せられるのが嫌で、少し声を荒げた。

「それが、父さんと何が関係しているんですか?」


「まあ、そんなに焦らないでくれよ。まだ時間は沢山あるんだ」

 そう言うと、鷹野さんは僕をいさめた。

 この時既に、この男のペースに乗せられていたのかもしれない。

「たとえば紙の本なんかの耐久年数は、恐ろしく短いんだ。人間がしっかり管理していたとしても、百年持つかどうか、といったところだな。つまり、紙媒体の記録というのは、誰が数十年ごとに書き写しでもしない限り、簡単に失われてしまう。結局、古代人達が残した石碑や、石造りの建造物なんかの方が、かえって、歴史に残るわけだ」

「……それが、何だっていうんですか」

「これを見て貰おう」

 そう言うと、さっきから気になっていた布を取った。


 そこには、絵画『棺の少女』がイーゼルに立てかけられていた。


「なんで、ここにまだそれが……あなたはいったい……」

「君は勘違いしているんだよ。これが、遙か昔に描かれていたものだと、未羽くんが古代機械の中から現れた事によって、そんな風に考えていたんじゃないかい?」

 僕は、絵画『棺の少女』をよく見た。

 棺の中のユリの花が所狭しと置かれ、その中央には少女が描かれていたそれは、僕が幼年期にみた絵画のそれと、間違いなく同じ物だった。

 でもーー

「なんで……」

 作者名に、僕の見知った名前が、もういくら祈っても戻ってこない人の名前が記載されていた。


『棺の少女』

 作者、高崎和秀


 なんで、父さんの名前がこんな所に載っているんだーー

 

「そうだ、これは君のお父さんが18歳の時の作品。彼は僕の患者だった。そして、この絵画はーー」

 

 ーー君のお父さんが、脳に疾患を煩った原因のひとつでもある。


 静寂な教会の中で、鷹野さんの言った言葉。それは僕の頭の中で、螺旋のようにぐるぐると回り続ける。

 そして、僕が抱いていた疑問、それを更に思考の奥深くへと、導いていた。

 

「すこし、昔ばなしをしようか」


 そう鷹野さんは言うと、丁寧に、ゆっくりと話し始めたのだった。

 


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