地下1階 2部屋(その3)
余裕を持つと人間、趣味や嗜好に走るものである。
今朝はいつもの『食パン』一斤(3ポイント)に『バター』(5ポイント)、『バターナイフ』(2ポイント)、『紅茶ティーパック・12個入り』(2ポイント)、『湯沸かしケトル』(20ポイント)、『マグカップ(安物)』(2×2=4ポイント)の合計36ポイントを消費して朝食となった。
「つーか、キッチンがあるわけだし、おいおい調理器具も取り揃えたいものだね」
「……とはいえ、いつもこのペースではポイントなんて貯まりませんよ?」
ポイントの使い過ぎと、暗に視線で俺を掣肘するヤミ。
うっ……確かに。
割と自制なくポイントを使っているけれど、だけどもともと何もないのだから初期費用でポイントを使用するのは、これはもうやむを得ないだろう。
「まあ、最低限の衣食住……とりあえず住は保証されているんだから、衣で着替えを二着くらい購入して、食の方も低品質でいいから調理器具を揃えりゃなんとかなるだろう」
「まあそうですね。ちなみに必要な調理器具というのは何を想定しいらっしゃるのでしょうか?」
「そりゃ……鍋とフライパンと包丁とまな板」
思いついた限り、俺は指折り数えて列挙する。
「電子レンジ」「却下。その都度調理すればいいので必要ありません」
「ヤカン」「いま湯沸かしケトル購入したではありませんか」
「冷蔵庫」「魔法の『インベントリ』を覚えれば、アカシャ様のMPに応じて亜空間に収納できます。収納中は時間の経過も劣化もありません」
「――炊飯器! これだけは譲れない。そろそろ白米が食べたい!」「鍋で炊けます。料理くらいでしたらマニュアルにありますし、レパートリーも3,000種類ほどは網羅しておりますので、道具と材料さえあれば今後はわたくしがご用意いたします」
ということで、有耶無耶のうちに財布を握られた形になった俺は、本当に必要最小限の物資をその場で購入することになったのだった。
結果――。
・布の服(低品質・上下)(10×2=20ポイント)
・コットンのシャツ(5×2=10ポイント)
・トランクス(安物)(5×4=20ポイント)
・深底鍋(安物)(15ポイント)
・テフロン加工フライパン(15ポイント)
・万能包丁(安物)(7ポイント)
・まな板(フッ素加工)(5ポイント)
・食器各種(計13ポイント)
合計105ポイントを使用したことになり、ものの見事に赤字になった。
「……まあ、これでお昼からは食事の材料費のみになりますので、今後に期待ですね」
ポイントを使ったことに忸怩たる表情で、俺に対してというよりも自分に向かって言い聞かせるようにそう弁明をするヤミ。
「じゃあ昼飯に乞うご期待……ってことで、今朝確認したかった『Privilege』の項目にあるガチャについて聞いてもいいかな?」
「あ、はい。『特典』ですね」
気分転換のために話を変えると、ヤミも心得たもので、本来の自分の業務……表情で、テーブル越しに姿勢を正した。
「おそらくは見当がついているかと思われますが、一般的なゲームのガチャと同じです。これを使用することで、『レアリティ☆☆☆以上魔物ガチャ(1/1)』であれば、ランダムで☆3以上の魔物を一度だけ召喚可能となります。『装備ガチャ』の方はその名の通り、装備品をランダムで当てることができるものです」
「ふーん? ちなみにレアリティって☆幾つまであるんだ?」
「最高が☆☆☆☆☆☆☆☆の☆8ですね。☆4からは召喚に必要なポイントが256、☆5で65,536、☆6で4,294,967,296、☆7と☆8ともなれば天文学的ポイントが必要になりますので、ポイントで召喚させることはほぼ不可能です。何らかのガチャで万が一当たるのを期待するしかありません」
「ほーっ……ってことは、このガチャで☆6――40億ポイント以上の魔物を引き当てることも」
「可能性としてはありますが、なにしろガチャですので確率はレアリティが上がるごとに少なくなりますよ。『レアリティ☆☆☆☆☆以上魔物ガチャ』で☆5の魔物が当たる確率が82.0%。☆6が17.2%。☆7が0.795%。☆8で0.005%ですね」
☆5以上確定ガチャでもそんなものか。なら☆3以上のガチャでは言わずもがなだろう。
「それと言うまでもありませんが、上位の魔族・魔物は知能とプライドが高いですので、召喚したところでアカシャ様の命令に従うかどうか不明です。まかり間違って火の上位精霊や始祖魔竜などが召喚された場合は、おそらく制御不能でしょう。あと真祖級吸血鬼や熾天使などの場合は、アカシャ様が逆に屈服させられる危険性があります」
「怖いこと言うなよ!」
「そのくらい気をつけてくださいと言う話です。まあ、そんな神話の世界の住人が召喚されるなど、まず滅多にありませんから大丈夫だとは思いますが」
全然気休めにならない慰めを受けた。
「そうですね。とりあえず装備ガチャで装備を整えて、多少は扱いやすそうな『レアリティ☆☆☆以上魔物ガチャ』を引いてみてはいかがでしょうか?」
「それが無難かな……」
ヤミの言葉に従ってまずは『レアリティ☆☆☆以上装備ガチャ』を引いてみた。
ダンジョンマスターの椅子に座ったまま、頭の中で『レアリティ☆☆☆以上装備ガチャ』をタップする。
するとテーブルの上に魔法陣が浮かんで――。
「……人形?」
ポンと消えたかと思うと、素朴な土人形が一個転がっていた。
ついでにステータスの『Privilege』の項目から、『レアリティ☆☆☆以上装備ガチャ(1/1)[初日プレオープン特典]』の表示も消えている。
してみると、これが装備品で間違いないのだろうけれど……。
「レアリティ☆☆☆☆『身代わりの人形』。持っていると一度だけ死んでも生き返ることができる人形です。そこそこ良いものですね」
「あー……なるほど」
ありっちゃありかな? 命のスペアみたいなものだし、いま現在ろくな戦闘訓練もしていないし、使える魔法も穴掘りくらいなので、現在の俺にはピッタリと言えばピッタリだろう。
ヤミに促されて、片手で握れるくらいの大きさのそれを掴んで、ズボンの左のポケットに入れておいた。
なんでも常に肌身離さず持っていないと効果がないらしい。
「……さて、ではいよいよ『レアリティ☆☆☆以上魔物ガチャ』を使うか。この調子だとせいぜい☆3か4だろうけど、そのあたりでお薦めの魔物っているかな?」
「そうですね……☆4の『スケルトン・コマンダー』あたりであれば、召喚者の命に確実に従いますし、低位のスケルトンと違ってある程度の自意識と戦闘能力を持ち、また低位のスケルトンを統率できますのでお勧めです。あと単体の戦闘力であれば同じ☆4のゴーレム系でしょうね」
「なるほど。無機物系がアタリってわけか」
下手に自己主張が激しい奴を当てたら目も当てられないってわけだ。
「じゃあ、まあその系統がでることを祈って――『レアリティ☆☆☆以上魔物ガチャ』Go!」
頭の中でガチャをタップする。
するとテーブルの上ではなく、床の上に魔法陣が展開され――装備ガチャの魔法陣より二回りはでかい――そこから虹色の影がせりあがってきたかと思うと、
「おーっほほほほほほっ! この高貴にして美しい妾を召喚したのは、どこのタワケであるか!?」
魔法陣が消えたそこには、長い水色の髪にイグサの冠をかぶり、やたらでかい水瓶に寄り掛かる姿勢をした、豊満な肉体に薄いケープのような衣装を羽織っただけの、やたら高慢そうな16~17歳ほどの美少女が高笑いしていた。
「なんとも辛気臭い部屋にみすぼらしい男。乳臭い小娘であるか」
小ばかにしたように鼻を鳴らす美少女。
「――レアリティ☆☆☆☆☆《水の神霊》ですね」
ポツリと呟いたヤミの説明を聞いて、
「……ハズレか……」
俺はがっくりと肩を落とした。
「な、なんじゃ、その態度は!? というか、誰がハズレであるか!!」
途端、目くじらを立てる《水の神霊》。




