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罠師の魔王と取説少女のダンジョン経営(旧題:六畳一間ダンジョン攻防記)  作者: 佐崎 一路
地下1階 ロクでもない魔物娘たちが増えました
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地下1階 2部屋(その1)

「本当によろしいのですか?」


 何度も確認するヤミに頷いて、俺はその意思が固いことを示した。


「……わかりました。では、5,000ポイントを消費してマスタールームと同規模の小部屋を増築します。照明と水回りはサービスとなっています。それと1,000ポイントで『地魔法・ピット』、5ポイントで『ダウジング』の計6,005ポイントの消費となります」

「あ、待った。水回りってことは上下水道?」

「はい。現在マスタールームにおいてキッチン、トイレ、シャワー、洗濯用の四栓が使用されていますので、残り四箇所に設置可能です。それよりも増やす場合にはポイントを消費して、基本料金プランからやり直しとなりますが」

「う~ん。新たに造る部屋の水道ってどう流すわけ? 何もない部屋の中に蛇口だけぽつんとあるのは、どう見ても不自然だと思うけど。つーか現地に蛇口ってあるわけ?」

「そこまで文明が進んでおりません。水道があるのは王都か領都くらいで、それも地上を通る流下式ですので、おおよそ文明的には地球の神聖ローマ時代程度とお考え下さい。一部は魔術によって地球の近代文明並みのものもございますが、産業革命は起きておりませんのであくまで極一部で、火薬すらありません」


 じゃあなおさら不自然やんけ。


「なので偽装します。壁から流れる地下水、もしくは地下から染み出した泉という体裁を取ります」

「待て。そうなると水道代が……」

「基本的に循環式ですので、誰かに飲まれない限り自然蒸発は加味しなくても大丈夫です。最初に流す量と、使われた場合の補充分のみの料金ポイントとなります」


 それはそれで勿体ないな。


「つーかさ、最初に『下水道料金はかからない』って言ったよね?」

「はい」

「なら例えば雨水を溜めて流した場合は上水道料金も」

「発生しませんね」


 そう答えながらも、『そんな都合よく雨を溜められるのかしら?』と、ヤミの表情は懐疑的であった。

 まあそうだろう。誰だってそう思う。俺だってそう思う――が、

「仮に上水道をここまで延ばさなかった場合、その余ったポイントで部屋を大きくしたりはできない?」

「可能です。その場合は1.5倍……およそ九畳間相当の部屋にできます。ちなみにポイントのみで同じ大きさの部屋にした場合には、素直に1.5倍の7,500ポイントが必要です」


 なるほどつまり2,500ポイント得しているわけで、1,005ポイント使ってもまだ余裕はあるってわけだ。


「ああそうだ。上水がなくても下水道施設はついたまま?」

「ええ、まあ……ダンジョン内部の清浄化のため、浄化機能はダンジョンの構造材に必須で組み込まれていますので、死体や廃棄物が残ることもありません」


 よし! と、俺はガッツポーズをした。


「あともうひとつ。部屋に設置される照明の数は一個だけなのか?」

「そのサイズの部屋ですと、玄関部分と中央、マスタールームへの出入り口の三箇所のみですね。まあ位置はアカシャ様の『迷宮創作(Lv1)』で配置を変えることは可能ですが」

「じゃあ最後にひとつ。照明をカスタマイズすることは可能?」

「それも『迷宮創作(Lv1)』で可能です。極端に大きくしたり、爆発するような仕掛けは別料金でのポイントが必要になりますけれど」

「いや、形や大きさはそのままで、ただ表面に微弱な電気(・・・・・)を通したいんだ。確か電気代もかからないんだろう?」

「!?」


 そう重ねて確認をすると、ヤミが驚きとも呆れともとれる表情で黙り込んだかと思うと、難しい顔になってじっと考え込み、

「……さすがに想定外の質問でしたので運営にQ&Aで確認をとりました」

 じきに結論が出たのか、そう言ってため息をついた。


「結論としましては、ええ、可能ですし料金も発生しません。ですが通電させられる電気は殺傷能力のない5万ボルトまでの電圧とさせていただきます」

「上等だ」


 用途を考えれば5万ボルトでもオーバーキルってものだ。

 思わず喝采を放つ俺の顔を、心底不思議そうに見据えるヤミ。


「あの、運営も……そして私個人も気になっているのですが、それでどうするつもりなのですか?」


 問われた俺は、別に隠すことでもないので考えた腹案を話して聞かせた。


「虫を殺す」

「――は?」

「虫だよ虫。数さえいれば虫でもポイントになるんだろう? だったら夜間に扉を開けてプレオープン状態にして虫をおびき寄せる。つまり誘蛾灯だな。で、電気でイチコロってわけだ」

「な、なるほど。確かにこの世界では夜間に人が外、まして森の中を出歩くことなどまずありませんから、一晩でかなりの虫を駆除できるでしょうね」


 納得した風のヤミへ、ついでとばかり付け加える。


「あと水場も確保しておく。その方が水を求めに来る虫も獲れるだろうから」

「ですが水道は――」

「なので『ダウジング』で地下水を探して、穴をあける地魔法『ピット』で水が出るまで穴を掘る」

「!!」


 本来は瞬時に落とし穴を掘る魔法らしいけど、井戸掘りに使っちゃ悪いという決まりはないだろう。


「地下水を流す分には上下水道料金はかからないんだろう?」

「た、確かに。一般に自治体でもよほど大きな施設や工場でもなければ、地下水――つまり井戸水――への水道料金と下水道料金の課金は曖昧ですし、少なくとも上水道料金は発生しないのが通例です。それに倣えばダンジョンにおいて、ポイントを加算するのは範囲外……いえ、アカシャ様の発想自体が想定外です」


 驚いていいのか呆れていいのか、どちらともつかない表情で曖昧な笑みを浮かべるヤミを眺めながら、なんとなく俺はこの世界に俺を連れてきた連中に一矢報いた気分で笑い返した。

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