地下3階 10部屋(その12)
《デミ・オーク》は《スードウ・ゴブリン》同様に古い……ダンジョン内の魔物が迂闊に外に出て繁殖しないよう、『運営』によってバグを修正され制限がかけられる以前のダンジョンから逃げるか放逐された、オーク(本来は地中海に生息する魔物で、『巨体で、鱗があり、牙と豚のような鼻を持っていて、剛毛が生えている』を起源とする)が野生化したモンスターである。
ただしヤミの解説によれば、《スードウ・ゴブリン》が短いスパンで世代交代をして、自己進化の過程で現在の形態に至ったのとは違い、《デミ・オーク》の場合はこの世界のニンゲンと交配することによって、ほぼ遺伝子レベルからニンゲンの亜種へと至ったそうで、もはや原初のオークの痕跡は見た目程度で、遺伝子的にはこの世界のニンゲンと変わらないため、俺たち魔族がその血肉を摂取することは不可能らしい。
そのためトワは進んで狩ることはしなかったとのこと。
もっとも俺たちが食えないということは、逆説的に言えば現地人にとっては食用に足るということで、トワ曰く倒した《デミ・オーク》は野生の猪のような扱いで、定期的に狩られては魔物肉として、人口に膾炙されているそうである。
俺的に二足歩行である程度の知能があり、人と変わらない肉質の生き物を殺して食うという行為は、犬やイルカを食う以上に心理的な抵抗がありそうだが、まあこの世界のニンゲンにとっては『魔物』という大雑把なくくりで問題ないのだろう。
そんな《デミ・オーク》三匹を相手に、粗末な――あくまで現代人の感覚で――皮鎧と武器を持った四人組の男たちが、盛んに声を張り上げてお互いに鼓舞しながら立ち向かっていた。
四人とも現地人らしく身長は百七十㎝後半から百八十㎝半ばといったところで、それなりに鍛えられた体つきであった。
「あれは多分、コキリオの街を拠点にしている正式な冒険者だと思うわ」
紫色の草むらに身を隠しながら、いままさに死闘を繰り広げている現場の二十mほど離れた場所まで忍び寄り、遠目に見やりながらトワが面白くもなさそうな口調でニンゲンたちの集団を指して言う。
なお、この世界にも度量衡はあるらしいが、役人や聖職者でもなければ普段使いするものではないため、一般的には大雑把に「腕を広げて何個分」「拳何個分」「歩いて何日の距離」と、感覚と主観で表すのが普通であった(為政者にとっては庶民に余計な知恵を付けさせないという、中世ヨーロッパな思惑があるのだろう)。
「『正式な冒険者』って、トワや俺とは違うのか?」
俺は紐で首から下げている、棄民街の冒険者ギルドで発行してもらった木製の『ギルド証』を取り出して、トワに再度確認をする。
奥義書になっているヤミは、全体の概要などは把握しているものの、そういった細かな決まりや原住民の風習などには疎いので、沈黙を保っている。
「棄民街の冒険者ギルドってのは、まあ……地域と棄民街同士の横のつながりから生まれた、一種の互助会みたいなものね。対して都市部で活動している冒険者ってのは、数人から数十人規模の『クラン』を結成していて、貴族や富裕層のパトロンを得て活動している民兵みたいなものよ」
「ほ~、つまり自警団と自治体警察の違いってところか」
「ま、大枠ではその理解で間違いないわ。だからほら、装備もそれなりのものだし、武器も鉄製の剣や槍でしょう?」
「……まあ、確かに棄民街の冒険者に比べると、原始人とローマ帝国の山賊くらい差があるようにも見えるが」
つーか、棄民街の冒険者が貧相過ぎるんだよな。
装備に関しては、下手したらいま目の前で街の冒険者と対峙している《デミ・オーク》と変わらないんじゃないのか?
その《デミ・オーク》といえば、見た目は不細工な顔をした相撲取り体型の巨漢(目視で身長180~190㎝、体重120~130㎏)で、腰蓑一丁で、石器らしい棍棒や石斧、石槍を構えて、鼻息荒く「ゴフゴフッ!」と威嚇の声を放っている。
「人数的には冒険者のほうが多いが、体格は《デミ・オーク》のほうが一回り大きい上に、ウエイトは倍近い差がありそうだけど、勝負になるのか?」
ぶっちゃけ競技やスポーツに体重制があるのは、でかくて重いほうが圧倒的に有利だからである。
多少の小技など、パワー=重量の前では意味がない。
「大丈夫じゃない。『鑑定』で確認したけど、ステータスやスキルの上では互角か、冒険者たちのほうがやや有利みたいだし」
そんな俺の疑問に対して、視線を巡らせて一同を鑑定していたトワが軽く肩をすくめて答えた。
----------------------------------------------------------------------------
Name:ボリス
Rank:商業都市コキリオ・冒険者四級
Class:剣士
Level:27
HP:125/129
MP:06/06
Status:
・STR 77
・VIT 56
・DEX 34
・AGI 32
・INT 18
・LUK 17
Skill:一閃
Name:ダーヴィト
Rank:商業都市コキリオ・冒険者四級
Class:重戦士
Level:28
HP:140/145
MP:32/40
Status:
・STR 89
・VIT 107
・DEX 46
・AGI 36
・INT 26
・LUK 11
Skill:城壁
Name:リボル
Rank:商業都市コキリオ・冒険者四級
Class:盗賊
Level:24
HP:61/66
MP:19/19
Status:
・STR 59
・VIT 48
・DEX 80
・AGI 72
・INT 34
・LUK 06
Skill:投擲、罠感知
Name:サムエル
Rank:商業都市コキリオ・冒険者三級
Class:魔術師
Level:33
HP:98/98
MP:86/101
Status:
・STR 61
・VIT 47
・DEX 83
・AGI 50
・INT 96
・LUK 32
Skill:火魔術(中級)、水魔術(初級)、付与魔術(初級)
----------------------------------------------------------------------------
トワの鑑定による四人組のステータスは以上のようで、剣士に盾役、遊撃役の盗賊に魔術師となかなかにバランスのとれたパーティのようである。
とはいえ、個人的な感想としては「Lv20~30台でこんなものか」というところだった。
----------------------------------------------------------------------------
Name:虚空(通称:アカシャ)
Rank::Dungeon Master
Class:Der Erlkönig
Level:31
HP:27,310/27.310
MP:24,1660/24,1660
Status:
・STR 1846
・VIT 1523
・DEX 1855
・AGI 1509
・INT 1915
・LUK 41
Point:179,670/179,670
Skill:『迷宮創作(Lv3)』『召喚魔法(Lv3)』『飛翔(Lv2)』『土魔法・鉱物変化(Lv1)』『偽装(Lv1)』『自動翻訳(Lv1)』『創作料理(Lv3)』『演奏(Lv2)』『手芸(Lv1)』
Authority:『真眼:君子危うきに近寄らず』
Title:『異界の魔人』『罠師の魔王』
Privilege:レアリティ☆☆☆☆以上魔物ガチャ(1/1)[Lv30↑記念]
レアリティ☆☆☆☆以上装備ガチャ(1/1)[Lv30↑史上最短記録更新記念]
Familia:《水の神霊》、《ヴイーヴル》、《水の小精霊》×5、《風の小精霊》×10、《アラクネ》、《アイアン・ゴーレム》、《下級吸血鬼》、《雪姫》、《ストーン・ゴーレム》×7
----------------------------------------------------------------------------
その気になれば俺とトワだけで街を落とすことも可能に思えるが、ステータスはあくまで指標。だいたい能力を完全に数値化するとか、誰が決めているのか知らんがいまいち信用ならない。
スポーツでも練習や過去の数値をもとにして、確実に結果が確定するなどということがないのと同様に、その時のコンデションとか組み合わせで変動するはずなのが、確認したところ短いスパンでは(長期に渡った場合には、Lvの上昇や下降という形で変動することはあるらしい)ステータスが一切変動しないのは検証済みである。
ゲームのキャラクターならともかく、生きたニンゲン相手にそんな大雑把な指針が当てになるのか? という疑念が捨てられず、そんなわけで俺は『鑑定』をあえて外したわけなのだが、まあ誤差があるとしてもここまで格差があるなら、原住民との直接戦闘になったとしてもそうそう問題はないだろう。
「つーか、三級とか四級とか、冒険者のランクがよくわからんな~」
トワにそう水を向ける。
「特級(英雄クラス)>一級(超一流)>二級(一流)>三級(上級)>三級(一般)>四級(二流)>五級(三流)>六級(雑魚)ってところね」
「ありがちなS級とか、A級とかじゃないのか?」
「異世界にアルファベットがあるわけないでしょう」
「……そりゃそうか」
けんもほろろなトワの言い分に、大いになっとくする俺だった。
ちなみに棄民街の冒険者の場合は――
木級<石級<鉄級<銅級<銀級<金級
と等級の目安として、冒険者証が変わるらしい。
なお、冒険者たちと相対する《デミ・オーク》のステータスは、
----------------------------------------------------------------------------
Name:なし
Rank:魔物ランクD級
Class:ノーマル
Level:16
HP:263/263
MP:0/0
Status:
・STR 106
・VIT 147
・DEX 13
・AGI 15
・INT 11
・LUK 18
Skill:猪突猛進、悪食、貪欲
----------------------------------------------------------------------------
といったところであった。
個体によって若干の差があるものの、大同小異といったところだろう。
ダンジョンの魔物に比べると、だいぶステータスが下がるが、
「環境に適応して劣化した結果ですね」
というのがヤミの解説であった。
4/5 ステータスを手直ししました。




