地下3階 10部屋(その10)
いつの間にか一年以上放置……。
申し訳ございません。
散発的に現われる《スードウ・ゴブリン》の小集団を追って――言うまでもなくトワの『気配探知(Lv2)』と『熱探知』によって特定しつつ――俺たちは群れが湧き出した元凶である(その後のアップデートで修正されたとはいえ)、『崑崙ダンジョン』が見える位置まで移動していた。
まあ割と近場にあるとはいえ、さすがに普通のニンゲンならいくら健脚でも、乗り物に乗らない限り半日程度ではこれない距離なのだが、そこは仮にも魔族である俺とトワである。結構余裕で赤紫色の木々に覆われた小山……というかなんというか、トワが前に「白アリの巣のように」と表現した通り、二千メートル級の山がそっくりそのままダンジョンと化した山の麓へとたどり着いていた。
「ほ~、これが古参の魔王が支配するダンジョンか」
遠目に見てもウチのダンジョンとは桁が違う。階層だけでも数百層。部屋数になったら、何万あることやら。
「よくこんなダンジョンを維持するだけのダンジョンポイントを稼げるな~」
一日当たりコキリオの町ひとつくらい潰さないとやっていけないんじゃないのか? いわば巨大商業施設である。何もしなくても冷暖房費や水道代、魔物の食費だけでも、一般家庭に毛が生えたレベルのウチとはこれまた桁違いだろうに。
「まあ有名なダンジョンだから、このあたりで一獲千金を狙う冒険者や、安定して収入を得たい山師の類は、大抵ここに集まるからね」
俺の疑問にトワが常識的な答えを返し、併せて人型になって隣に佇むヤミが、
「付け加えますと、『崑崙ダンジョン』内には原住民の言葉で〝山の住人”、ダンジョンマスターの命名によれば〈ドワメーガス〉の集落が複数個存在しており、それらが常にダンジョンポイントを稼ぐもとになっています」
そう内訳を暴露する。
「ドワメーガス?」
「見た目はほぼファンタジーでお馴染みのドワーフよ。髭面でちんちくりんな」
実際に遭遇したことがあるらしいトワの端的な答えに、ヤミも頷いて同意した。
「そうですね。あくまで現地人の亜種――ホモサピエンスに対するネアンデルタールみたいなもので、混血も可能ですが、モンスターではなく分類上原住民です。まあ、一般的なニンゲンからは差別されているようですが」
「ニンゲン同士ばっかみたい」
と、不快そうにつぶやくトワ。
「は~~ん……」
足元を這いずり回るゴキブリがワモンゴキブリだろうが、チャバネゴキブリだろうが、ダンマスとしては大した違いはないが(どっちも叩き潰すだけ)、ゴキブリ同士棲み分けや確執があるってわけか。
別に俺としてはどーでもいいんだが、トワの場合は基本的な価値観が性善説というか、誰しも自分と同じ善性や見識、倫理観を持ってるだろうと――友達の友達は友達だ精神(俺の見解では、友達の友達は友達じゃねえ。他人だ……だが)――無意識に同調しては、毎度の失敗に繋がっているのだが、こればっかりは性分なので直すのは難しいだろう。
「しかし、そうするとダンジョンと原住民とが共生関係になってるってことか?」
「そうです」
「……ただ原住民が出入りしただけではダンジョンポイントにならないんじゃないのか?」
おおもとの疑問に対して、「そこが狡猾なところで」とヤミがしたり顔で解説する。
「〈ドワメーガス〉に紛れる形で、ダンジョン産の〈ドワーフ〉種を『祭祀』とか『山の神の使い』という形で特別待遇に据え置き、捕まえた獲物や冒険者などはそのドワーフがとどめを刺すことでダンジョンポイントへと還元させています。ついでに定期的に年寄りや使えない〈ドワメーガス〉に引導を渡す葬儀屋としての役目も持たせています。文字通り〈ドワメーガス〉を骨の髄まで使い潰す形ですね」
聞きようによっては――というか、明らかにトワは〈ドワメーガス〉の境遇に義憤を覚えているようだが――ひどい扱いのようだが、
「上手いこと考えているな~。名称からして中華系らしいダンジョンとダンジョンマスターだけど、実に発想がらしいな。利益のみを重視する実利主義者っぽい」
俺は逆に感心した。
「あんたとは気が合いそうなダンジョンマスターよね」
皮肉げに唇を尖らせるトワ。
「――いや、絶対に相容れないだろうな」
お互いに発想が似ていて、比較的近い場所にあるダンジョン同士ってことは、同じパイを切り合う関係ってことだからなぁ。
俺ならひとりで独占しようと思うし、そう思うと邪魔者は排除するしかない。
場所的に教皇庁という共通の敵があるので、ダンジョンの正式オープンと同時に潰し合う(まあ、崑崙ダンジョン側からしてみれば、取るに足らない初級ダンジョンだと思っているだろうが)展開にはならないだろうが、敵の敵は味方ではなく、潜在的な敵なので、あちら側から何らかのアクションを起こすのは間違いないところだろう。
「「ああ、なるほど」」
そういったことを手短に説明すると、ヤミもトワもひどく腑に落ちた表情で納得した。
「一つの国に王はふたりいらないというわけですね」
うんうんと誇らしげに頷くヤミ。
「あんた無償の善意なんて信用しない卑怯で屈折した性格だもんね」
俺に蔑みの眼差しを向けながら頷くトワ。
「ははははははっ、照れるなぁ」
「照れるな! 褒めてない!!」
卑怯とか狡猾とかは俺にとっては誉め言葉ですが、それがなにか?
まあ、ともあれ古参のダンジョンってことは、裏を返せば大量の情報が出回っているとのことでもあるので、しばらくは冒険者を続けながら、うちのダンジョンとゆかいな仲間たちで対処できるかどうか見極めるつもりでいる。
「……つーか、ダンジョンの強化。教皇庁の対応。〈飢渇する凶竜〉。崑崙ダンジョンの攻略。他にも細々とした用事があるし」
指折り数える俺の隣で、
「大丈夫です。アカシャ様にはいずれも些事ばかりです」
絶大な信頼を寄せるヤミ。
そう言われればそんな気もしてくる。
「それもそうだな。とりあえず昼飯にでもするか」
「軽っ!」
今現在の急務として、いい加減に腹が減ったので昼食をダンジョンポイントで購入することにして、ヤミのページをめくりながら検索をかけてもらう。
思わず……といった風にツッコミを入れるトワ。
こいつはこーいうところに余裕がないから視野狭窄に陥るんだよなぁ……。




