地下3階 10部屋(その7)
とりあえず現在の状況を確認した俺たち。
「そういうわけだから、コキリオの商業組合長から棄民街の管理者に通達が出ていて、入ってくるのは問題ないけど、出て行く方はかなりの制限がかかっているのが現状よ。アレッタ、あと――」
「クロウっす。クロウ・ハーグって言います、よろしくーっ!」
適当に考えた偽名を名乗ってお調子者らしく、ヘラヘラ笑いながらエマ嬢の手を取ろうとしたが、その寸前にトワの手刀で妨げられた。
「ははははははっ、妬くなよマイ・スイートハート。愛しているのは君らだけさ♪」
「複数形で言っている時点で信用できないのよ、バカ」
割と本気で魔力が籠っていた一撃を躱して、俺はトワの肩を抱いた途端、純粋な打撃による肘の一撃を鳩尾に食らって悶絶する。
「……仲がいいわねアナタたち。アレッタがここまで無防備にじゃれ合える相手がいるなんて、正直思わなかったわ。貴女って庭先までは入れるけど、玄関から先へは誰も入れないタイプだと思ってたのに」
軽く目を見張って驚くエマ嬢。
「こいつがバカ過ぎてほっとけないからよ。ああ、そうそう、コイツの分の冒険者登録をしたいんだけど、いまいいかしら?」
「いいけど、こういう状況だからいつ何時〈飢渇する凶竜〉対策で動員されるかわからないわよ?」
「仕方ないわ。いまさらジタバタしても始まらないんだし」
肩をすくめるトワから視線を俺の方へ寄こして、「よろしいのですか?」と再度確認をするエマ嬢。
「まあ身分証は必要でしょうからね~」
「わかりました……では、名前は『クロウ・ハーグ』ですね? 年齢は?」
「十八ってところかな」
「生まれは――?」
「えーと……」
「あたしと同じサフィラス北限都市よ」
素早くトワが口裏を合わせてくれた。
「得意な武器や特技などは?」
「一応剣かな……特技と言えば逃げ足の速さには自信があります!」
途端、ギルド内で俺たちの会話を盗み聞きしていた冒険者たちが一斉に失笑した。
「ああそう。生き延びるのは大事なことよね。この商売は命大事だから」
案外真剣な表情で同意をしたエマ嬢は、パピルスのような原始的な紙に墨でさらさらと必要事項を明記して、「ちょっと待っててね」そう一言残してカウンターを離れて、バーカウンターの奥へ行った。
「えらく簡単に登録できるものなんだな?」
異世界物のテンプレで、マジックアイテムの能力測定とかがあって、ステータスを確認されるもんだと思っていたのだけれど、若干肩透かしを食らった感でそう暗にほのめかせてトワに尋ねると、
「こんなものよ。あたしが身分保証人になってこの町へ入ったんだから、それで審査はお終い。冒険者なんて使い捨てなんだから、必要事項を明記して冒険者証を渡せば終わりね。あと、ステータスを測る装置なんてよほど大きな国か魔術都市にでも行かないと置いてないわ。あくまで自己申告。できもしないことを口八丁で言っても、実績がなければ死ぬだけだからどうでもいいってところね」
「なるほどねえ。デカいこと吹かしても、できなきゃ実戦でモンスターや魔物に殺されるか、顰蹙買った他の冒険者に闇討ちされるか……ってところか」
「そーいうこと」頷いたトワはそれから少し声を潜めて、「ねえ、いまさらだけど何でアンタ『鑑定』を消して、『料理』とか『演奏』『手芸』なんてスキル取ったの?」
ちなみに俺の現在のスキル構成は以下の通り。
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Name:虚空(通称:アカシャ)
Rank::Dungeon Master
Class:Der Erlkönig
Level:31
HP:27,310/27.310
MP:24,1660/24,1660
Status:
・STR 1846
・VIT 1523
・DEX 1855
・AGI 1509
・INT 1915
・LUK 41
Point:179,670/179,670
Skill:『迷宮創作(Lv3)』『召喚魔法(Lv3)』『飛翔(Lv2)』『土魔法・鉱物変化(Lv1)』『偽装(Lv1)』『自動翻訳(Lv1)』『創作料理(Lv3)』『演奏(Lv2)』『手芸(Lv1)』
Authority:『真眼:君子危うきに近寄らず』
Title:『異界の魔人』『罠師の魔王』
Privilege:レアリティ☆☆☆☆以上魔物ガチャ(1/1)[Lv30↑記念]
レアリティ☆☆☆☆以上装備ガチャ(1/1)[Lv30↑史上最短記録更新記念]
Familia:《水の神霊》、《ヴイーヴル》、《水の小精霊》×5、《風の小精霊》×10、《アラクネ》、《アイアン・ゴーレム》、《下級吸血鬼》、《雪姫》、《ストーン・ゴーレム》×7
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魔物ガチャを引かないのは、周りの状況が不明なためであり、スキルに関しては――。
「しょうがないだろう。スキル枠が一杯だったんだから」
なお、スキルにも所持できる枠があり、もともとダンジョン・マスターが基本として持っている『迷宮創作』と『召喚魔法』を別にすれば、Lv1で1個。Lv5で1個、Lv10で1個追加となり、ここまでがサービス期間で、これ以後はLvが10上がるごとに1個覚えられる。
もっとも要らないスキルを捨てたり、他のスキルと統合したりもできるそうで、俺がいま現在持っている『土魔法・鉱物変化』は『土魔法・ピッド』+『ダウジング』との統合で生まれたもので、また『創作料理』も『鑑定』+『料理』で新たにできた魔法であった。
ヤミによれば『土魔法・鉱物変化』はまだしも、『創作料理』はこれまで誰も試したことのないまったく未知のスキルだそうで、これのお陰でウチの食卓の彩りが劇的にアップしたため、トワ以外の女性陣には手放しで称賛され、普段は憎まれ口しか叩かないフィーナでさえも、
「やるではないか! 見直したぞっ!」
と絶賛しているほどで、これによって俺はダンジョンの女性陣の胃袋を完全に掴んだと言っても過言ではない(なんか逆な気がするが)。
「お前だってなんだかんだで喜んで毎日飯食ってたじゃないか? つーか、代わりに料理してくれてもいいんだぞ」
「――ぐっ。だからって言っても……」
「それに『鑑定』に頼り過ぎるのも怖いしな」
「どういうこと? 便利じゃない」
「う~~ん。なんて言うか、鑑定って要するにバーコードを読み取って表示するようなもんだろう? 情報量が制限されていると言うか、偽装されたらそれまでだし、なにより勘が鈍る」
「……よくわからないわね~」
「まあその分、知らないことはトワやヤミに聞きながら覚えるさ」
そう話をしている間に、裏からエマ嬢が戻ってきた。
手には紐が通された木片のようなものに、現地語でなにやら焼き印が捺されてたものがぶら下がっている。
まあ、流れからいってあれが『ギルド証』なんだろう。てっきりトワ同様に金属プレートと思っていた俺は、その貧相な見た目に落胆しながら、同時にまあ最初はこんなものかと納得していた。
「はい、じゃあまずは木級からのスタートになるわ。身分証代わりになるので、ここでは常に身に着けるようにして、あと実績に応じてギルドで判断をして、逐次等級は上がるから、頑張ってお仕事をしてね」
「ほほう」
なるほどあくまで実績重視で、試験とか面倒なことはしないというわけか。わかりやすい。
「ちなみにアレッタって何級なんだ?」
「あたし銀級だから、金属製の正規のギルド証になるわ」
そう言って胸元から金属製のプレートを取り出すトワ。
「アレッタは他の冒険者が嫌がる《スードウ・ゴブリン》狩りを進んでやってくれるから……」そう言いかけて、エマ嬢はポンと手を叩いた。「そうそう、最近町の近くに《スードウ・ゴブリン》が移動してきたみたいなの。ハグレだと思うけど、被害が出ないうちに退治してもらえないかしら、アレッタ?」
そうにこやかに依頼をされたトワは、もういまさら《スードウ・ゴブリン》の肉などいらないとも言えず、微妙に強張った笑みを返すのだった。
9/24 スキル『裁縫』を『手芸』にしました。