淡雪の少女③
僥倖。
まさに奇跡――いや、これこそが運命の出会いというものだろう。
自分のダンジョンとそこに従属するすべてを失ってから幾星霜。『偽装(Lv4)』を使って、現地人のフリをしてステータスと名前を誤魔化し、冒険者アレッタ・カルヴィーノとして臥薪嘗胆……いや、嘗胆ならまだマシだ。
違和感を持たれないよう、栄養にもならない舌にも合わない現地の食事を口にして、宿に戻って全部吐き戻し、代わりに『死の森』と呼ばれる他のダンジョンマスターの領域である地球産の植物が生い茂る森で採ってきた木の実や草を頬張り、《スードウ・ゴブリン》の干し肉を頬張る毎日……。
来る日も来る日も、気の休まる日はなく、自分の境遇の惨めさに死にたくなったことが何度あることか。
だが、それもこれまでだ!
まさかたまたま見つけた《スードウ・ゴブリン》の群れを追いかけて、まだ準備期間中のダンジョンを見つけるなんて――少なくとも、あたしが覚えている限りこのあたりに旧来のダンジョンはなかった――とことん落ちるところまで落ちたあたしの運だが、どうやらここで逆転に転じたらしい。
見たところ地下型のベーシックなダンジョンのようだが、まだ正式稼働前のダンジョンとなれば、せいぜい地下一階か二階がいいところだろう。
防御機構もたかが知れているだろうし、ダンジョン・マスターのLvもたかが知れている筈だ。
あたしはダンジョン・マスターとしての資格ははく奪されているが、それでも本来のステータスは変わらず平均的な中堅ダンジョン・マスターとしての力量を保持している。
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Name:永遠・久遠
Rank::Dungeon Master(アカウント凍結中)
Class:Снегурочка
Level:283
HP:30025/30115
MP:37551/42066
Status:
・STR 8877
・VIT 6591
・DEX 8130
・AGI 6698
・INT 10420
・LUK 68
Skill:『迷宮創作(Lv5)』『偽装(Lv4)』『鑑定(Lv4)』『剣道(Lv2)』『体術(Lv3)』『中級火魔法(Lv2)』『中級土魔法(Lv1)』『中級風魔法(Lv3)』『中級水魔法(Lv3)』『気配探知(Lv2)』『熱耐性(Lv5)』『衝撃耐性(Lv3)』『毒耐性(Lv4)』『インベントリ(中)』『自動翻訳(Lv3)』『オートマッピング(Lv3)』
Authority:『氷雪の支配者:熱誘導』
Title:『漂泊たる雪の娘』『復讐者』
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ポイントや使い魔はオフィウクスにすべて奪われたために項目自体が表示されなくなっている。それと、ダンジョン・マスターの基本スキルである『魔物召喚』も、『Soul Crystal』と一体のスキルであるため、現在はなくなっていた。
だが、それもこれももう少しの辛抱だ。
新たな『Soul Crystal』の権限を手に入れたら、往年の力はないにせよ、少なくともオフィウクスに対抗できる最低限の力は取り戻せるのだ。
まあ、ここに生まれたばかりの新たなダンジョン・マスターには少々酷な話かも知れないが、そもそも準備期間中にこんな風に不用意に偽装を解くような無能なマスターでは、早晩他のダンジョン・マスターに潰されるか、冒険者の餌食になるか……最悪な選択として、教皇庁=オフィウクスの配下に収まるという可能性がある。
そうなる前にあたしが『Soul Crystal』の権利を譲渡してもらう方が、ダンジョンにとっても有効と言うものだろう。ここの『Dungeon Manual』だって喜んで従う筈だ。だって、あたしの『Dungeon Manual』の化身は、あんなにもあたしを慕ってくれたのだから……。
そんなことを考えている間に、《スードウ・ゴブリン》の群れに対抗してか、ダンジョン側から《スケルトン》が10体ばかり迎撃に出てきた。
ふふん。やっぱり出来立てのダンジョンね。出せるのはレアリティ☆☆☆の《スケルトン》が限界みたいね。それなりに高品質の《スケルトン》みたいだけれど、所詮は《スケルトン》は《スケルトン》。ちょうど《スードウ・ゴブリン》と一箇所にまとまっているし、まとめて一掃できそうね。
凍った《スードウ・ゴブリン》はそのままインベントリに入れて、暇なときにでも干し肉に……ああ、そうか、ダンジョンを攻略しちゃえば、今後は食事にも事欠かないわよね。
なんだかいままでの極貧生活で、貧乏性が癖になってしまったわ――って、ええええっ。ドラゴン!?
こんなチンケなできたばかりのダンジョンになんで、ドラゴン――絶対にレアリティ☆6以上よね!?――がいるわけ?! もしかして、もともと初期ポイントが潤沢で、なおかつほとんどをコイツに振った一点豪華主義者!?
ともかくも、あたしは『熱誘導』スキルを使って、ドラゴンの動きを読みながら森の中を駆け回る。
あたしの『熱誘導』を十全に使えば、生き物であれば体の筋肉の熱の収縮具合でだいたいの動きが読める。この雨のせいであまり機能しているとは言えないが、今回はドラゴンというのが幸いした。
ドラゴン最大の武器である、ファイアー・ブレスの熱分布が明瞭で、次にどこを狙うのか、どのタイミングで撃つのか手に取る様にわかる。
そしてなにより――。
あたしは『インベントリ』の中に隠していた伝家の宝刀を抜き出した。
竜殺しの魔剣〈ノートゥング〉。
北欧神話で有名な魔剣だ。これを持っているのはあたしくらいだろう。たまたま『インベントリ』に入れっぱなしになっていたお陰で、オフィウクスにも取り上げられなかったあたしの切り札だ。
もっとも魔剣というだけあって、レベル250以上でないと装備できない・北欧神話に連なる伝承の住人でなければ装備できない等と、いろいろと装備条件が厳しいので、仮にオフィウクスが手にしても装備できなかった可能性が高いけど。
あたしはこの漆黒の大剣を構えて、目の前を我が物顔で飛び回るドラゴンへ向けて、渾身の斬撃を放った。
祝☆10万文字突破。
書くだけだったら、月に単行本一冊分はコンスタントに行けそうですねえ。




