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罠師の魔王と取説少女のダンジョン経営(旧題:六畳一間ダンジョン攻防記)  作者: 佐崎 一路
地下2階 オープンに向けいろいろと改造しました
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地下2階 7部屋(その10)

 ダンジョン内に入ったためか、アレッタ・カルヴィーノと表示されている彼女は紫色の雨合羽を脱いで、全身をさらけ出した。


 年齢は17歳ほどだろうか。栗色の髪を動きやすいツインテールにして、いかにも軽戦士という感じの丈の短い革鎧をまとっている。腰には質素な拵えの中剣が一本下がっているが、こちらはあくまで見せかけなのだろう。いま現在は、自分の身長ほどもある真っ黒い剣を手にしていた。

 これが話に聞く竜殺しの魔剣〈ノートゥング〉ってヤツか。


 顔立ちは……まあ、とび色の大きな瞳をしていてキュートな容姿だが、俺の周りにいる魔物たちが、全員人外の容姿をしているせいか、感銘を受けるほどの美人というわけではない。

 逆に平凡過ぎて実家のような安心感……というか、鼻ぺちゃでどこか日本人的な風貌を感じられる顔立ちであった。


「……現地人ってみんなこんな感じなのか?」

 鑑定で窺い知れる種族名称『Similia(人間の)-Hominum(近縁種)』という表示を再度確認して、ヤミに念を押す。

 見た感じホモサピエンスとの違いは、やや耳の形が平べったいくらいで、思ったよりもヒトに近い。

 ……まあ、実のところ今現在の俺の姿の方がよっぽど人間離れしていて、髪の毛は青紫色になっているわ。瞳は金色と赤の色違いだわ。耳はエルフのように尖っているわで、客観的に見れば確実に魔物の親分そのものであろう。


「う~~~ん。これも偽装臭いですねえ。現地人はもうちょっとコーカソイドに近い感じなのですが……異民族との混血とか言われたら微妙な線ですね」

 ヤミの方はやはり偽装を疑っているようだ。


「とりあえず、相手の手の内を晒していけば正体も見えるか……?」

 ならば時間稼ぎが一番だな。

 そう考えて、まずは《アイアン・ゴーレム》に地下一階のボス部屋の護りと、斃された際に跳ね橋を下ろす鍵をドロップするように設定して、それから《風の小精霊(シルフィード)》たちに頼んで、適当にその辺にあったポテチの袋を渡して、ボス部屋へ置いてくるように頼んだ。


 しばらくして、ボス部屋の所定の位置へポテチの袋が置かれたのを確認して、《ダンジョン・ムーブ》で《アイアン・ゴーレム》と位置を入れ替える。


「ふむ。玉砕覚悟で《アイアン・ゴーレム》をぶつけるのかや?」

 床に戻ってきたポテチの袋を勝手に取って、開けて食べながらフィーナが確認をしてきた。


「ああ。下手に小細工をして後の仕掛けがバレるのが怖いからな」

 そう言いつつ、ズンドコ地下一階の通路を進んでくるアレッタの足元へ、タイミングを見計らって落とし穴を作ったり、上から天井を落としたりと、プレオープン中でダンジョン内部に侵入者がいても内部構造をいじれる設定なのをいいことに、嫌がらせの数々を行っているのだが、ことごとく無効にされていた。


 ある時は超反応で躱され、ある時は氷の柱で動きを止められ、ならばと通路を塞げば〈ノートゥング〉で力任せに、ダンジョンの壁を破壊されるという散々たるありさまである。


「……ダンジョン素材って破壊不能なんじゃなかったのか?」

「本来は別次元に存在する準仮想物質ですので物理的には破壊不能です。ですが、〈ノートゥング〉クラスの『斬る』という概念を存在に組み込まれた神話級(レジェンドリィ)武器(ウエポン)が相手となれば、一時的に破壊することも可能となっています」

 まあ、すぐに修復はしますが……と、付け加えるヤミ。


「堂々巡りになるけれど、なんでそんな御大層な武器が、一介の冒険者の手にあるんだ?」

「不明です。可能性としては、どこかのダンジョン・マスターの持ち物だったものを、あの者が斃して手に入れたのか」

「もとの持ち主はわからないのか? レア装備ならだいたいわかるだろう?」

「個人情報保護の観点から、その手の情報は開示されておりません」

「変なところでお役所仕事だよなぁ、運営」

「あとは……どこぞのダンジョンの先兵という可能性がございます」

「先兵?」

「はい。本来、オープン前で準備期間中のダンジョンに対して、他のダンジョン・マスターが干渉を加えたり、攻撃したりすることは規定で禁止されているのですが、あくまでそれはダンジョン・マスターとそのダンジョンに所属する魔物に関しての罰則規定です」

「ああ、つまりそのへんの抜け道を使って、現地人に武器を渡して、あくまで原住民が勝手にやったことだ――と、言い張ればいいことだな」

「まるでおぬしのような発想じゃのぉ」


 絶対に褒めてはいないだろうという口調で、フィーナがしみじみ相槌を打つ。


「そうなると可能性が高いのは教皇庁か?」

「もしくはこの近辺のダンジョン・マスターでしょうね」


 さてどっちだ? と思案しながら地下一階の回廊を操作していたが、どうやらアレッタは自分が同じところをグルグル回らされているのに気付いたらしい――密かに回廊の出口を入り口につないだのだ――その場に立って思案していたが、やにわダンジョンの壁に穴を開けて、そこへ右手を突っ込んだ。


 なんだ!? このまま壁を修復してしまえば、引っこ抜けなくなるぞ――と思って操作しようとしたのだが……。

「そんな!? 『Soul Crystal』に直接干渉を受けています! すぐにファイアーウォールとデバッグを開始――っ!? 一部優先度の高い安全装置が働いて、いまアカシャ様が手を加えた部分が解除されてしまいました!!」


 ヤミの説明を聞くまでもなく、入れ替えた出入り口が元の形状に戻って、こちらの操作を受け付けない状態になってしまっている。


「バカな! こんな裏技を知っているのは、『Soul Crystal』の操作権があるダンジョン・マスターだけのはず!? 重大な規約違反です!」


 顔色を変えたヤミが、腹に据えかねた形相でおそらくは運営にQ&Aで抗議し始めたのだろう。

 待つことしばし――その表情が唖然としたものに変わった。


「ええええええええええええっ!? 『Soul Crystal』を失った元ダンジョン・マスター?! この行為も規約違反かどうか即座に判断できない。審査中……って、いままさにうちのダンジョンが攻略されているのですよ!」


 うわ~、どうやら運営はいまキムチ・パーティー中らしい。

 こりゃ、当てにはならないな。

 そう覚悟を決めた俺は、全員に予定の配置につくように言って、ガチャで出た『漆黒のローブ』をまとって、廉価で買った大量生産品の鋼の剣を手に椅子から立ち上がった。

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