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罠師の魔王と取説少女のダンジョン経営(旧題:六畳一間ダンジョン攻防記)  作者: 佐崎 一路
地下2階 オープンに向けいろいろと改造しました
30/50

地下2階 7部屋(その9)

「竜殺しの魔剣〈ノートゥング〉!?」

 リュジュの悲痛な咆哮と同時に、ヤミの絶叫がマスター・ルームに響き渡った。

「なぜあれが一介の冒険者の手に!? 一回5,000万ポイントのレアリティ☆6以上の武器ガチャでも、0.07%の確率でしか出ないレアリティ☆8の超レアかつ強力な武器なのに!」


 どうやらあり得ない筈の武器が、あり得ない場所で振るわれ、あり得ない結果になったらしい。


「魔剣〈ノートゥング〉というと、確か北欧神話――我らの神話体系から派生した亜流じゃが――で名高い、魔剣〈グラム〉を打ち直して強化した魔剣であったのぉ?」

「そうです。先端を水にさらすと上流から流れてきた一筋の羊毛が絡みつかずに、そこで真っ二つに断たれるほどの切れ味を誇ると言われる名剣ですが。この場合、最悪なのは〈ノートゥング〉が〝竜殺しの魔剣”という特徴を持っていることです。リュジュさんとの相性は最悪と言ってもいいでしょう。――アカシャ様、即座にリュジュさんの回収をお願いします! このままだと手遅れになりかねませんが、リュジュさんを復活(リポップ)させるとなると、億を超えるポイントが必要ですから、現在の我々の財力では復活(リポップ)不可能となります!」


 うろ覚えの知識をもとに小首を傾げて問いかけるフィーナに対して、大いに焦りの表情を浮かべながら早口で答えつつ、俺にリュジュの回収を大至急で促すヤミ。


「――わかった。リュジュを回収するので、フィーナは魔法でリュジュの治療をしてくれ」


 いよいよもって全身の姿をさらけ出して、地面に倒れて呻くリュジュに向かって迫ってくる闖入者。

 間髪入れずに一撃で斃そうと、上段の構えから――あれ? 剣道の構えのような???――一気に〈ノートゥング〉とかいう魔剣を振り下ろすのとほぼ同時に、寸前でフィーナを回収して、代わりにその場に後で食べる予定だったスイカが一玉ドロップされた。


 スパンという小気味良い音とともに一刀両断されたスイカ。

 血の代わりに真っ赤な果汁が飛んだ。


「!?!」

 唖然としつつも、周囲を見渡し罠を警戒しながら、彼女はスイカを〈ノートゥング〉の剣先でツンツンして――恐ろしいことにそれだけでスイカが食べ頃サイズにカットされる――安全を確認してから、どこか感慨深そうな雰囲気でスイカの断面を眺めていたが、やにわしゃがみ込んでスイカを大事そうに丸ごとどこかへしまい込んだ。


----------------------------------------------------------------------------


Name:Aletta(アレッタ) Calvino(カルヴィーノ)

Rank:Adventurers(Witcher)

Class:Similia-Hominum

Level:32

HP:173/205

MP:151/266

Status:

・STR 111

・VIT 71

・DEX 85

・AGI 106

・INT 122

・LUK 41

Skill:『剣技(Lv5)』『サバイバル(Lv3)』『氷魔術(Lv6)』


----------------------------------------------------------------------------


「痛いですぅ~……」

 人化してもすっぱり背中が斬られた形になっているリュジュへ、何やら水薬みたいなのをかけては、呪文を唱えて治癒を施しているフィーナ。

 さすがは《水の神霊(ナ―イアス)》謹製の霊薬と自らの治療らしく、たちどころに傷が塞がって血の気の失せていた顔色も平常に近い状態へ戻りだしていた。


 その様子を横目に見ながら、同時に加害者の素性も鑑定してみたのだが、

「このステータスでリュジュを圧倒するものか?」

「……変です。なんだかものすごく変です。もしかするとステータスそののものが偽装されている可能性があります」

 俺が口にした相手――アレッタ・カルヴィーノとかいう、冒険(Adventu)(rers)魔剣士(Witcher)らしい――のステータスを目の当たりにして、ヤミが腑に落ちない面持ちで『変』を繰り返す。


 彼女が本来現地人が持ちえない筈の魔剣〈ノートゥング〉を持っていることといい、どうにも想定外の相手であることが確定的な風だ。


「……このまま帰ってくれないかな」

 この際、ダンジョンの秘匿性は諦めて、これ以上、オープン前のダンジョンを荒らされないよう祈る俺の希望的観測であったが、アレッタの方はまったくこちらの心境を斟酌することなく、逆に弾む足取りでダンジョンの入り口をあっさりと踏み込んできた。


「……ダメか。せめて途中の通路で諦めてくれるか、最後の扉を開けられなくて途方に暮れるのを期待かな」

「いえ、〈ノートゥング〉クラスの魔剣の前には、最後の扉も力業でどうにでもなると思います」


 あっさりとヤミが俺の希望を打ち砕く。


「地下一階のボス部屋の亀裂は? いまのところ番人を置いてないので跳ね橋は……ああ。斬り落とされるか、氷の橋を架けられるか」

「ですねえ」

「とりあえず、無駄な努力をしておこうか……」


 切羽詰まった俺は、まずは地下一階ボス部屋に待機させるレアリティ☆☆☆のゴーレムを召喚してみた。

 顕われたのは――。


【レアリティ☆☆☆:アイアン・ゴーレム(地属性特殊個体)】


「わー、これは大当たりですね。魔法も使えるゴーレムの中級種です」

「わー、嬉しいな(棒)」

 なんでこんな時に大当たりするだろう。どうせやられるのが確定しているのに。

 虚しく思いながら、さらに『迷宮創作』で地下二階の大空洞に幾つもの滝を流す。

 大瀑布とかになると水道代が死ぬほど大変なので、ちょっとしたスプリンクラー程度ではあるが……。


「回廊で足を滑らせるのを狙ろうておるのか? 無駄な気がするのぉ」

「時間があればお前に滝を流してもらいたかったんだけど、そんな暇はないだろう?」

「リュジュの治癒で手一杯じゃ。さすがに片方の翼を丸ごと飛ばされてはのぉ……」


 その割に結構余裕がありそうだけれど、気分屋のフィーナに期待しても仕方がない。

 それと急いで俺は『飛翔(フライ)』の魔法を習得した。


「『飛翔(フライ)』ですか? 習熟しない内は、せいぜいフヨフヨ浮かぶ程度ですが……?」

 怪訝な表情を浮かべるヤミに説明するのももどかしく、俺は最後の悪あがきとばかり、いま持っている二種類のガチャ――レアリティ☆☆☆以上装備ガチャ、レアリティ☆☆☆以上魔物ガチャ――を回すのだった。


 結果――。

【レアリティ☆☆☆:漆黒のローブ】

【レアリティ☆☆☆☆☆:アラクネ】


 漆黒のローブは体全身を覆う真っ黒いローブで、アラクネはエメラルドグリーンの髪をおかっぱ風のボブにして、琥珀色の瞳をした上半身が十代半ばほどの美少女で下半身がでっかい蜘蛛という魔物だった。

「《アラクネ》。名前はございません。召喚により参上いたしました」

 どことなく優等生タイプ――けど腹の底が見えない猫をかぶった笑顔――で、折り目正しく一礼をする彼女。


 そんな彼女を前にして、

「――まあ娘っ子がひとりが増える程度は、予想の範囲内であったのでどうでもいいが。なんじゃ。ギリシア神話(同郷)の方のアラクネではなくて、ダンテの神曲の方のアラクネであるか。通俗的じゃのぉ……」

 つまらなそうにフィーナが鼻を鳴らしたが、俺としては天の配剤とも言えるこの装備と人事に、狂喜乱舞するのだった。


 それから手早く作戦の骨子をその場にいた全員に伝えると、やはり《アラクネ》はこの手のハメ技が得意なのか、興味深そうに「へええー」と蠱惑的な笑みを浮かべ、他の者は一様に「また始まった」とばかり呆れた表情を浮かべた。

8/16 誤字脱字修正しました。

×魔法も使えるのゴーレムの中級種→○魔法も使えるゴーレムの中級種

×ちょっとしたスプリンクラー程度ではるが→○ちょっとしたスプリンクラー程度ではあるが

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