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罠師の魔王と取説少女のダンジョン経営(旧題:六畳一間ダンジョン攻防記)  作者: 佐崎 一路
地下2階 オープンに向けいろいろと改造しました
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地下2階 7部屋(その8)

「つーか、『魔物融合(フュージョン)』したら、レアリティが2ランクくらい上がるんじゃなかったのか? ☆一個しか上がってないけど?」

 もしかして失敗じゃね? という含みを持たせてヤミに確認を取る。


「通常ならそうですが、今回は特殊進化の事例ですので、定石には当てはまらなかったものと考えられます」

「と言うと?」

「《吸血鬼(ヴァンパイア)》という種族そのものがメジャーなために、非常に進化しやすく、進化することで劇的に能力を向上させることが可能な、可能性の塊のようなものですから」


 ヤミの言葉に一筋の光明を見出したような顔を上げる、元女蛮族(アマゾネス)――いや、単数になったからこの場合は『アマゾン』か。強くてハダカで速い奴! を彷彿とさせるな――の《下級(レッサー)吸血鬼(ヴァンパイア)》。


「……まあ可能性の話ではあるわな。いま現在は役立たずも同然じゃ」

 身も蓋もなく言い放つフィーナを前に、再び《下級(レッサー)吸血鬼(ヴァンパイア)》の彼女はへこんだ。


「なんで味方の士気を挫くのかなぁ、この《水の神霊(ナ―イアス)》様は……」

「まあフィーナさんは生粋のギリシア・ローマ系神話の住人ですからね。あそこの神話の住人は基本的に好き嫌いで理由なく略奪をしたり、天罰を加えたりしますから。そのあたり後期キリスト教的価値観である、『善悪』とか『正義』や、そもそも『理由があって人は行動する』という論法が成立しませんので」


 呻く俺に向かってヤミが補足してくれた。

 面倒臭くなると全部まとめて薙ぎ払う『機械仕(デウス・)掛けの神(エクス・マキナ)』みたいなものか。


 納得したところで、ふと思い出して《ダンジョン投影》の画面に注目をする。

 画面の中では《ヴイーヴル》が、地上から放たれる氷柱の矢を、炎のブレスを横薙ぎに振るうことで、地上もろとも吹き消していた。


「いまさらだけで、なんで水属性のドラゴンが火を噴くわけ?」

「《ヴイーヴル》はその成り立ちが比較的新しいため、古来の水竜としての属性に豊穣を約束する地母神の属性が加味され、さらにはキリスト教やアーサー王伝説と絡むことで、鋼の属性である炎と鍛冶の能力も併せ持っているからです」

「つまりは節操のないちゃらんぽらんなドラゴンというわけじゃ」


 俺の質問にヤミがいつものように即答して、フィーナが嘆かわしいとばかり付け加える。

 フィーナのような純血に近い神性と違って、いろいろとハイブリッド化している近年の魔物は、軽薄であばずれと言いたげな口調であった。


「んで、相手は誰なんだ? 確認できないのか?」

 つーか、リュジュがいまだに瞬殺できていないのが信じられん。


「どうやら認識を阻害する系統の魔具を使用しているようですね。おまけにこの雨で視界も悪くて――ん? いまちょっと動きましたね。アカシャ様、ここの画像をズームアップしてくださいませんか?」


 ヤミが指さす先の画面を拡大すると、森の下草に隠れて素早く動き回っている雨合羽を着たニンゲンらしい影を捉えることができた。

 結構距離がある上に、遮蔽物が多いので判然とはしないけれど、体の大きさや動きから言って、

「――女か?」

 そう目星を付けたところ、フィーナが「またか」と辟易した表情で一言言い放った。


「いや、別に俺が引き寄せたわけじゃないぞ!? 勝手に原住民がやってきただけであって」

 まさか、この土砂降りの雨の中、原住民が単独で森の中に入ってくるとは想定もしていなかったのは確かだけれど。それも女性が。

「どこにでも変わり者はいるんだなぁ……」

 それともこれがデフォルトなのか? だとすれば、いろいろとダンジョン設計の根底が覆されるわ。


「まあなんでもいいんじゃが、リュジュのヤツめ手古摺っておるようにみえるのぉ」

「そうですね。まるでリュジュさんの挙動が見えているかのように、事前に動いているような反応の速さです」


 確かに。傍目に見た限り、結構本気を出しているように見えるリュジュに対して、闖入者はちょこまか走り回ってかく乱しているように見える。


「――おい。これがこの世界のニンゲンの平均なのか? なんか無茶苦茶体力ある上に、魔法も凄いんだけど?」

 不安になってヤミに確認を取る。


「いえ、いくら何でも強すぎます。これにこの魔術の発動も早すぎます。我々が使うのが文字通り異なる世界の法則を再現する『魔法』であるのに対して、この世界のニンゲンが使うのは、限定された技術である『魔術』であるはずなのですが、どう考えてもその限界を超越しています」

 ヤミも難しい顔で懸念を示す。


「言っておくが、リュジュが斃されるようなら、妾には対抗手段はないぞ。そもそも氷使いが妾の天敵じゃといったのは、おぬしであるからのぉ」

 フィーナが水瓶に背中を預けて、これまた身も蓋もない見通しを口に出すのだった。


「いや、まさか。リュジュさんも攻めあぐねているだけで、相手も決定打を浴びせかけることはできませんから、勝つのは当然として逃げられないように……」

 そうヤミが否定しかけたところで、地上から空中に向かって斬撃が飛び、一撃で翼の片方を斬り落とされたリュジュが、絶叫を放ちながら地上へともんどりうって墜落した。

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