地下2階 7部屋(その6)
装甲戦術。ドイツ軍が、第二次世界大戦中の東部戦線において編み出した戦車を主体とした戦法である。
先頭を突っ切る重装備車両。そこを中心に楔形陣形を築く形で、機動力に優れた同伴車両が牽制を行い、敵陣が乱れたところで後方にいる砲兵が安全な位置から攻撃するという寸法だ。
つまり、今回はこんな感じになった。
《スードウ・ゴブリン》 ←《ライダー》
《スードウ・ゴブリン》 ←《リーダー》
《スードウ・ゴブリン》 ←《ライダー》 ←《アーチャー》 《スードウ・ゴブリン》 ←《ウォーリア》 ←《アーチャー》←《メイジ》
《スードウ・ゴブリン》 ←《ウォーリア》 ←《アーチャー》
《スードウ・ゴブリン》 ←《ウォーリア》
ま、実際には《スードウ・ゴブリン》の数が倍であったが、組織的に連携しているわけではなく、てんでバラバラに本能に従って幾つかの集団にまとまって掛かってくるので、これを楔型の陣形を維持したまま、お互いに連携して突破するのは、百戦錬磨の元女蛮族の《スケルトン》にとっては容易なことで、はっきりいえば野良犬の群れを追い散らすのも同然だった。
何より戦慣れしている彼女たちは、集団戦で1対1で戦うなどという愚は犯さずに、つねに1対多になる形で各個撃破していったのだ。
手慣れた集団戦闘+楔型陣営の突破力+後衛の援護射撃。
これにより、最初のひと当てで《スードウ・ゴブリン》の群れは半壊して、三分の一が戦闘不能になり、残りの大半も逃げ腰になった。
対して《スケルトン》側には目立った損害はなく、多少当たり所が悪かった奴の肋骨が折れたり、大腿骨にヒビが入っている程度で、けろりとしたものである。
さらには《スケルトン・メイジ》が治癒魔法を使い、折れた骨やヒビにその場で治療を加えるので、損傷もたちどころに癒えるという寸法である。
「――勝ったなガハハハッ!」
この様子を前にして調子に乗ったリュジュが大口を開けて、高らかに勝利の高笑いを放った。
「「…………」」
なんでこうフラグを立てるかなぁ……。
と、その軽薄な哄笑を横目に見ながら、非常に嫌な予感を覚える俺とヤミ。
「……勝てそうな戦いこそ油断がならぬののじゃぞ。劣勢の方は最後の最後まで悪あがきをする。ゆえに勝っている方こそ、最後の一瞬まで気を抜けぬものじゃ」
フィーナが苦言を呈したところで、まさに油断からか、横合いからの攻撃をもろに受けて、《スケルトン・ウォーリア》のひとりがバラバラに吹き飛んだ。
逃げようとした仲間の《スードウ・ゴブリン》ごと、死角からボス個体がまとめて粉砕したのだ。
「マズい! 回収する。ヤミ、何か適当なものを!」
俺は慌てて修復不能なレベルで破壊された《スケルトン・ウォーリア》を、《ダンジョン・ムーブ》で回収すべく座ったまま操作を開始した。
ちなみにこの《ダンジョン・ムーブ》というのは、ダンジョン内の任意の地点にある物品(魔物を含む)を入れ替える仕様となっているため――下手にXYZ軸の空間指定をした場合、手違いで『壁の中にいる』シナリオが発生する可能性があり、それを防ぐための安全装置としてこうなっているとのこと――とにかく、何でもいいから任意の目標を回収する代わりに、ここにある任意のものを転送しなければならないのだ。
つまりは、これがダンジョン内で魔物を斃すと、なぜか金貨や薬草がドロップされる仕様の裏側である。
そのあたり、前もって『剣』とか『薬草』とか、任意のものを転送したり或いはランダムでできるように設定もできるのだが、今回は何を送るのか自動設定をしていなかったので、咄嗟に手動での転送をするしかなかった。
「はい、どうぞ」
「ぎゃああああっ、やめて~、私のDr○gon B○ll S○perがーっ!?!」
部屋の隅に放置されていたコミックの三巻あたりを、すかさず手渡してくれるヤミ。
それを見て、途端に水に浸かった猫みたいな悲鳴をあげるリュジュを無視して、素早く操作を済ませると、バラバラに砕けた《スケルトン・ウォーリア》がマスター・ルームの床に戻ってきて、代わりに漫画のコミックが戦場のただ中に、ドロップ品として放置された。
当然、誰も興味がないのでそのまま地面に落ちて、踏まれて蹴られてズタボロになる。
その様子を眺めて真っ白に燃え尽きるリュジュ。
「で、これポイントを払うと復活できるんだよな?」
バラバラに散乱した《スケルトン・ウォーリア》の成れの果てを指して、念のためヤミに確認する。
「はい、レアリティ☆3ですから8ポイントで復活可能です。ただし、いったん『Soul Crystal』内部に収納し、24時間のクールタイムを置かないとできませんが」
基本的にその場で復活させては戦わせてを繰り返す、文字通りのゾンビアタックは不可能というわけか。
とりあえず俺は《スケルトン・ウォーリア》(そのうち全員に名前つけないとダメだろうな)を復活させるべく、魔力塊へ変換して『Soul Crystal』内部へ収納後、ポイントを支払った。
これで所定の時間が経過すれば、自動的に再生される筈だけど……。
一方、画面の中では調子に乗るボスの《スードウ・ゴブリン》に対して、《スケルトン・リーダー》が一騎打ちを挑んでいた。
「なにやってるんだ? 脅威になるのはアレ一匹なんだから、全員で一斉にタコ殴りにするべきだろうに」
武人としての矜持とかそーいうもんかねぇ……? と、首を捻る俺に対して、フィーナがやれやれという感じで首を振って答える。
「それをやっては、残りの《スードウ・ゴブリン》の不興を買って、犠牲覚悟の混戦になる可能性が高い。対して大将同士の一騎打ちで勝てば、他の者も委縮するであろう。こちらも犠牲が出た以上、数で劣るいまはこれが最善の方法じゃ」
なるほど、ボスの猛攻を前にいつ間にか装甲戦術の突進力が奪われ、グダグダになりかけているいま、いわばお互いの剣と剣が鍔迫り合いの状態で、微妙な均衡を保っていると言える。
それならばと、お互いに全力で押し切ろうと勝負を賭けたというわけか。
「――けどそれって、こっちが負けたら返す刀で一刀両断されるパターンじゃね?」
「そうなるのぉ」
事も無げに首肯するフィーナだけれど、それってかなりヤバいじゃないか。
見れば、力任せのボスに対して、《スケルトン・リーダー》は流麗な剣術で翻弄しているようだが、もともののステータスの差が顕著なためか、掠っただけでもあちこちの骨にガタが来ているのが目につく。
こういう時こそ治癒魔法だとおもうのだが、一騎打ちに水を差すという考えからなのか、《スケルトン・メイジ》は魔法の媒体である杖を握ったまま、《スケルトン・リーダー》の戦いっぷりを見守っているだけであった。
「大丈夫なのかな……?」
「大丈夫じゃ。〝肉を切らせて骨を断つ”というが、この場合は逆じゃな。《スケルトン》にとっては骨の一本二本、くれてやってもどうということはないが、相手は生身の肉体じゃ。喉元や心臓を一突きすればそれで事足りる」
そのフィーナの言葉を証明するかのように、勝負に焦れたボスが思いっきりストーン・ハンマーを大振りして、《スケルトン・リーダー》の円形盾を上腕部ごと粉砕した――刹那、隙だらけになったボスの上半身へ向かって、リーダーの剣先が滑り込んだ。
――やった!
ギリギリ心臓は外したものの、肺を刺し貫かれて緑色の血反吐を吐く《スードウ・ゴブリン》のボス。
すかさず手首を翻して、剣を戻した《スケルトン・リーダー》が、即座にそっ首を刎ね飛ばそうと横薙ぎに剣を振るった――刹那。
不意に、どこからともなく飛んできた氷の矢――いや、氷柱の矢と言うべき太さの氷――が、何十本となく降り注ぎ、《スケルトン》たちと《スードウ・ゴブリン》たちをまとめて一掃したのだった。
「「「「はあああああああああああああっ!?!」」」」
コミックが失われたショックで呆然としていたリュジュも正気に戻ったようで、その場の全員がわけもわからず素っ頓狂な声を上げていた。




