地下2階 7部屋(その3)
回収したリュジュを交えて全員が立会いの下、マスター・ルームに《スケルトン》を召喚することになった。
全員にいてもらうのは、万が一《スケルトン》が暴れ出したら怖いからに決まっている。
「――いえ、《スケルトン》程度でしたら、ステータス差からいってもアカシャ様が圧倒できると思いますが?」
「世の中何があるかわからんかな~。獅子は兎を狩るにも全力を出すというし……」
「いえ、それは俗説です。獅子が全力で兎を狩った場合、消費するカロリーに比べて得られるカロリーがマイナスになるので、獅子は兎を狩りません」
そんなやり取りをヤミと行った後、マスターの椅子に座って、ヤミが掌の上に開いて見せる魔物のリストを確認する俺。
「アーチャーとかポーンとか、《スケルトン》にも結構な種類があるんだな……」
おまけに名前のところにそういった表示が付いたものは、通常の《スケルトン》のレアリティが☆2なのに対して、一つ上がって☆3になっているし。
「アンデッド系は生前の能力や特性に依存するところがありますから、大抵その手の特殊個体は戦闘職や狩人などの玄人ですよ」
「ふーん。通常種は素人ってわけか。じゃあレアリティ☆3の方を呼び出した方がお得ってことか」
「そうですね。ただ――」
少しだけ懸念を表明するヤミ。
「レアリティ☆3クラスの《スケルトン》になると、ある程度自意識を持っている個体もいますので、条件面の折り合いがつかなかった場合には、契約を拒否される恐れもありますので、その場合は消費したポイントをドブに捨てたも同然になります」
「条件? 例えば?」
「そうですね……一般的な魔物であれば、毎日新鮮な肉を食わせろとかですが、レアリティの高い高等な魔物になれば、自分専用の神殿を造ってお供え物を寄こせとか、月に一度処女の生贄を捧げろとか、決まった金額の金銀財宝を寄こせ……とか、様々ですね。ですから、レアリティの高い魔物と契約することは、それ相応の財力がなければ普通は手痛いしっぺ返しを食らうのが常です」
「えっ、そうなの……!?」
思わずこちらの様子を傍観しながら、三時のお茶とばかり自由ヶ丘のモンブランを食べているフィーナとリュジュとを見た。
「……あのふたりは別です。細かい契約を決める前に、自分から自爆してほとんど無条件で契約を交わしたわけですから」
そのふたりに聞こえないように、耳元でささやくヤミ。
「本来であればフィーナさんには神殿の一つや二つ。あと、リュジュさんには毎日宝石を贈らないと、普通なら契約面で折り合うわけがないところです。――ですが、逆に言えばこちらが強制する規定もないので、気が変わればいつでもダンジョンを出ていきますし、アカシャ様に牙を剥くことも厭わないということを覚えていてください」
わーーー、なんか俺の立場って砂上の楼閣もいいところだったんだなー……。
と、まったりとモンブランを食べながら、
「パリの〝アンジェリーナ”のモンブランこそ本家ですけど、これはこれで美味しいですね~」
「うむ、美味であるな。だが、本家といえばルテティア(※現パリ)ではなく、ローマ帝国時代から続く、セグシウム(※現イタリア北部)の栗を使ったモンテ・ビアンコであろう」
どこにでもあるような女子トークをしている《ヴイーヴル》と《水の神霊》を眺めながら、ヤミの警告を存分に噛み締めるのだった。
「それと、言い忘れていましたが、ダンジョンと契約できる魔物はダンジョン・マスターのLvに応じて、一体ずつ増える仕様となっています。Lv10なら10体ですね」
そう言われて念のために自分のステータスを確認してみた。
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Name:虚空(通称:アカシャ)
Rank::Dungeon Master
Class:Der Erlkönig
Level:27
HP:5110/5110
MP:4630/4630
Status:
・STR 1256
・VIT 1190
・DEX 1288
・AGI 1169
・INT 1227
・LUK 22
Point:7553139/26688500
Skill:『迷宮創作(Lv2)』『召喚魔法(Lv1)』『土魔法・ピット』『ダウジング(Lv3)』『鑑定(Lv2)』
Authority:『真眼:君子危うきに近寄らず』
Title:『異界の魔人』『罠師の魔王』
Privilege:レアリティ☆☆☆以上装備ガチャ(1/1)[Lv10↑記念]
レアリティ☆☆☆以上魔物ガチャ(1/1)[Lv20↑記念]
Familia:《水の神霊》、《ヴイーヴル》、《水の小精霊》×5、《風の小精霊》×10(17/27)
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「Lv27ってことは、いまいるフィーナとリュジュたちを別にして10体まで所属させることが可能ってことか。スキルも使っているのはそれなりに上がっているな。……つーか、なんだこのAuthority:『真眼:君子危うきに近寄らず』ってのは?」
「Authorityというのは権能ですね。スキルとは別にその個人の資質やバックボーンに応じて、開花するその個人のみのスペシャルスキルのようなものです」
これは凄いものですよ。いくらポイントを出しても取得することができないものですから! と、弾む声でヤミが興奮して捲し立てているけれど、それにしちゃもうちょっとカッコイイ名称の必殺技みたいなのが来なかったもんかね。
そう思いながら、『Authority』の詳細を確認しようと意識を凝らす。
【真眼:君子危うきに近寄らず】=あらゆるものの強弱を本能的に把握し、常に自らの生存を優先させ、弱い部分を真っ先に認識できる。
「…………」
つまり敵わない相手と対峙した場合、即座に逃げ道を察して逃げ出せるってことか。
使えるんだか使えないんだか微妙な権能だな、をい。
つーか、これが俺の特性だっていうなら、どれだけチキンなんだ俺は?
「はあ~~……まあいい。とりあえず☆3クラスの《スケルトン》を召喚してみることにする。できれば、いろいろと種類を取り揃えてみたいけど」
とりあえずテストケースなので、いくつものバリュエーションを取り入れた方がいいだろう。
「それならば、10体セットで本来40Pのところ30Pで召喚可能な、《スケルトン・ユニット》がお得ですが?」
「なんだそのファーストフードのセットか、同じようなTシャツのまとめ買い用通販みたいなのは!?」
「さあ? なぜか格安になっているのですよね」
「絶対に訳あり商品だろう! それに10体まとめて召喚したら、いまのところ枠がいっぱいで《スライム》とか召喚できないじゃないか」
「そうですが、正直申し上げてスライム1体でダンジョンの所属枠を塞ぐのは、現時点ではあまり賢明ではないと愚考するのですが……」
むぅ、確かに。魔物1体で所属枠を1つつぶすのだったら、レアリティ☆の《スライム》よりも、いま呼び出せる最高戦力である☆☆☆の魔物で固めた方が効率的だな。
「つーか、スライムって勝手に増えるイメージがあったんだけど、一体だけ召喚して勝手に細胞分裂とかしないものなの?」
「しません。生態系の保護のためにレアリティ☆4以下の知性のない魔物の生殖活動は抑制されています。なんでも初期の段階で見積もりを甘く見たため、失敗した事例があったための制限だそうです」
「勝手に増えるイメージのある《ゴブリン》や《オーク》は?」
「当然、事前に去勢しています」
「わー……おぅ」
にべもなく言い切るヤミの非情な宣言に、思わず股間がキュンとなった。
ともかく、無制限に《スライム》や《ゴブリン》を増やして戦力を増強する……という濡れ手で粟のやり方はできないらしい。
「となると今の段階では少数精鋭で行くしかないか。――よし決めた。そのお買い得の《スケルトン・ユニット》で試してみることにする!」
そうと決断をして、ヤミに所定のページを開いて詳細を見せてもらう。
《スケルトン・ユニット》=《スケルトン・リーダー》×1、《スケルトン・ウォーリア》×3、《スケルトン・アーチャー》×3、《スケルトン・ライダー》×2、《スケルトン・メイジ》×1[雇用条件:バラ売り不可。召喚後要相談]
「バランスはそこそこいいんだけど、なんでこれで特価大安売りになってるんだ?」
「雇用面で折り合いがつかなかったのではないでしょうか? 他の者はともかく《スケルトン・メイジ》であれば単体でも☆4になっていても不思議ではない逸材ですし」
「ふむ? まあ召喚してみないことには話にならないか」
そんな俺たちのやり取りを眺めながら、フィーナが聞こえよがしに、
「安物買いの銭失いにならねばよいのだがのぉ……」
そう当てこすった。
やかましい! と思いながら俺はヤミの差し出すページに手をやって『召喚魔法(Lv1)』を発動させる。
途端、安物の絨毯を敷いたマスター・ルームの床に10個の魔法陣が出現して、そこから虹色の影が立ち上って、速やかに実体化を済ませるのだった。
「――ん?」
だが、その途端、我知らず俺の口から怪訝な声が漏れていた。
現れたのは確かに剣や弓や槍を持った白骨――ボロの革鎧を着た《スケルトン》たちだったが、全員が全員、平均身長をちょっと超える程度の俺よりも小柄で、見るからに骨格が華奢なのだ。
これどう考えても、生前鍛え上げられた屈強なムキムキマッチョだったという風情ではない。
思わず小首を傾げる俺に向かって、「――おい」とフィーナが微妙に冷めた目つきと声をかけてきた。
「どうかしたか?」
「おぬし……わざわざコレを選んで指名したのかや?」
「??? どういう意味だ?」
困惑しまくる俺の表情から何を感じ取ったものか、フィーナは深々と嘆息して一言、
「こいつら全員、女……それもうら若い娘っ子ばかりじゃぞ。おぬし、女なら骨でもいいのか? どれほど好き者なのじゃ。ゼウスも驚きじゃのォ」
呆れ果てた面持ちでそう言い放った。
「はああああああああああああっ!? 女?! ど、どこが?」
思いがけない言いがかりに思わず素っ頓狂な声を張り上げる俺。
フィーナは面白くもなさそうな顔で、当然という口調で断言する。
「見てわからんのか? 骨盤が明らかに女のものじゃ。あと頭蓋骨の形と大きさからいっても、いずれも十代の娘ばかり。おそらくは女蛮族の一団じゃろう」
その言葉に、《スケルトン》たちが一斉に頷いて肯定を示すのだった。
8/11 《小妖精》枠を忘れていたのでステータスを変更しました。




