地下2階 7部屋(その2)
ダンジョン改築にかかってから三時間後――。
構想は練っていたものの意外とポイントが掛かるため、いろいろと試行錯誤の末およそ2,000万ポイントを使って、ダンジョンを地下二階構造にすることができた。
主な変更点は、
① 地上にある出入り口の床の穴を閉じて泉をなくし、出入り口を左右にレバーのついた観音開き式の重厚な鋼鉄の扉にした。ただし左手側のレバーでなければ開かない。右を動かしても何の反応もない飾りに見える。
② そこから地下に下りる階段及び通路は網の目のように入り組んでいて、上下左右斜めと歩き回る構造になっていて、どこを通っても奥にたどり着くまで5㎞は歩かなければならないよう縦横に巡らせた。
③ 通路は黒と灰色の石を縞模様のように交互に配色している。人間のストレスを誘導するためだが、現地人に作用する配色が不明なため、とりあえずデフォルトはこれにして今後変更も視野に入れる。なお、黒は収縮色なため(実際よりも小さく見える)、錯覚を利用してやや段差をつけることで、いざという時の足回りを制限する。
④ 途中に行き止まりの枝道を何本か作って、撒き餌としてたまに宝箱を配置するようにする。
⑤ 地下二階へ降りる階段のあるボス部屋(50畳相当×2)を造って、そこにフィーナの泉を設置した(水は後からフィーナが注ぐ)。ボス部屋は底の見えない断崖で半分に区切られており、普段は跳ね橋が上がっている状態になっている。この橋を下ろすにはボス部屋の前面の区画にいるゴーレム(☆☆☆)を倒して、鍵を入手しなければならない。
まあ、この巨大迷路とボス部屋にほとんどのポイントを使ったために、地下二階部分はかなりショボく、直径40m深さ200mの円筒型の部屋の壁に沿って、手すりも何もない細い螺旋階段が延々と続いているだけという代物で、そのまま黙々と階段を下りてくれば底に着く。
ただし、途中で飛行型の魔物が絶え間なく襲ってくる鬼畜仕様だけれど。
そこまでくれば後はゴールだ。マスター・ルーム(と俺の私室)へ続く扉があって、部外者は手前のレバーと、ダンジョン出入り口にあった右手側の扉を「いっせーのせー」で同時に動かすことで、中に入れることができる。
ただし一度タイミングがズレると、次は24時間経過しないと開かないので、頑張ってリトライしよう!
なお、扉を開けるとリュジュの部屋(40畳相当)になっていて、乙女でなおかつオタクの私室に無断で入ってきた侵入者に対して、リュジュが証拠隠滅のため必死の(必殺ではなく)殺意を向けること請け合いだ。
「――と、こんなものか。あとは、とりあえず地球産の植物を取り払って、ダンジョン表面層を地下3m以下にしたので、リュジュの手が空いたらその辺の雑木を適当に引っこ抜いて、植え直すように言っておいてくれ」
ダンジョンの一番奥に当たるマスター・ルームで、必要な操作を終えた俺は、傍らで膝を折って待機していたヤミにそう声をかけた。
「わかりました。下草の類はよろしいのでしょうか?」
「そっちは自然に生えてくるのを待つほか、別にスケルトンを何体か召喚するので、そいつらにやらせるといい」
「レアリティ☆☆のスケルトン(4P)ですか? いまさらという気もいたしますが……?」
「いや、今回、結構なポイントを使ってダンジョン内部も増築したから、とりあえずテストケースとして地下一階の入り口付近にスライムを、そのあとに続く通路部分にスケルトンを配置する予定だからね」
意外とオーソドックスな魔物の布陣ですね、と意外そうな顔で頷くヤミ。
「まあ最初から初見殺しのダンジョンでは、所在がバレた場合に危険視されそうだからね。あくまで『不便な場所にあって、さほど見るべきものもないショボいダンジョン』と軽視されるのが狙いなわけ」
「なるほど」
「なのでなるべく奥に進めないように、通路は上下に入り組んでなおかつかなり歩かなければボス部屋にたどり着けないようにする。あと、途中で徐々に湿度を下げてカラカラに乾いた渇水状態にしておきたいので、そういう意味でもスケルトンが有効なんだな」
ちなみにボス部屋にはゴーレムが控えていて、その背後には砂漠のオアシスのような泉がある。
当然、そこにはフィーナがいるわけで、必死こいてゴーレムを倒した後、迂闊に水場に近づけば一巻の終わりというわけだ。
「さすがはアカシャ様ですね!」
平仄がいったとばかり手を叩いて喜ぶヤミとは対照的に、
「なんつーか、邪神や悪魔のほうがマシじゃのぉ……」
一緒にマスター・ルームに付いてきていた当のフィーナがやりきれない表情で呻いた。
「ははははっ、照れるな」
「褒めとらんわ! ――それよりも、もうダンジョン内部の改築が終わったということは、妾の私室に割り当てられた地下一階の奥部屋まで歩いて行かねばならんのか!?」
まさかこの妾にそのような足労をかけるつもりではあるまいな! と、言いたげなフィーナに対して、そこまで留意していなかったために言葉に詰まる俺に代わって、ヤミが「大丈夫です」と矢面に立ってくれた。
「今回の改築でアカシャ様のスキル『迷宮創作』がLv2に上達していますので、新たに《ダンジョン投影》《ダンジョン・ムーブ》が使用可能となっています。《ダンジョン投影》はその名の通り、ダンジョン内の様子をマスターのみならず、第三者にも見えるように映像として投影できるもので、《ダンジョン・ムーブ》はダンジョン内であれば、所属する魔物を瞬時に移動させられるものです」
「「ほほう」」
思わず感嘆する俺とフィーナ。
「便利なものだな。特に《ダンジョン・ムーブ》は」
「そうですね。万が一味方の魔物が斃された場合にも、即座に回収できますから、その後所定のポイントを支払えば復活も可能ですし、現在の我々には関係ありませんが、他のダンジョンの『Soul Crystal』をアカシャ様が制圧した場合、そのダンジョンとも相互に行き来ができるようになります」
「夢が広がるなァ……って、待て待て。俺が外に出る場合には、どうやっても歩かないとダメなのか!?」
「そちらも大丈夫です。《ダンジョン投影》と《ダンジョン・ムーブ》は遠隔操作も可能ですから、ダンジョン内であればどこでも使えます」
それを聞いてほっと安堵した俺は早速、《ダンジョン投影》を使って増築したダンジョンの各階層を周囲へ投影してみた。
空中に50インチくらいの画像がいくつも投影できる。
「――ふむ。さすがに何もないので閑散としておるのぉ」
無機質な通路や床が剥き出しのボス部屋などを確認して、フィーナが鼻白んだ様子で呟いた。
「この後に〈スライム〉と〈スケルトン〉を召喚予定ですし、レイアウトについては追々……あら?」
ヤミが苦笑いをしながらそう取りなしていたところで、通路の一角を動くものに気付いて目を見開く。
同時にそれに気付いた俺も、その部分を大きく拡大して正面に表示してみれば、
『ふええぇぇぇ……なんでこんなになってるの!? みんなどこ~~~っ?!』
半べそをかきながら、事情を知らずに置いてけぼりされていたリュジュが、ウロウロと通路を迷っている光景が映し出された。
「「…………」」
この後、リュジュの存在を忘れていたことについて、
「じゃから、おぬしは片手落ちじゃと言うのじゃ!」
「こっちは三時間ずっと作業してたんだ。暇だったお前が注意を払うべきだろう!」
俺とフィーナは、めちゃくちゃ罪の擦り付け合いをした。
8/8 誤字訂正しました。
×請負→〇請け合い




