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罠師の魔王と取説少女のダンジョン経営(旧題:六畳一間ダンジョン攻防記)  作者: 佐崎 一路
地下1階 ロクでもない魔物娘たちが増えました
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地下1階 3部屋(その7)

 俺の考えを聞いて、しばし沈思黙考していたようなヤミだったが、どうやらQ&Aで運営と協議していたらしい。

「すみません。やはり運営としては、正式なオープン後に意図的にダンジョンの入り口を隠したり、埋めるなどする行為はペナルティの対象となる……との判断だそうです」

 そう申し訳なさそうに言い添えた。


「あー、やっぱりそうか。隠すんだったら一番手っ取り早いのは埋めることだと思ったんだけど、水の中や空中に浮かせるなどもダメか?」

「原状回復の原則に伴って、少なくともダンジョンの出入り口周囲100m圏内を、意図的に現在の状態以外に手を加えるのはNGとのことです」

「賃貸の〝フラット”みたいですねー……あ、複層だから〝デュプレックス”かな?」

 思わずというった感じでリュジュが感想を口に出した。

 ちなみに『フラット』というのはフランスの平屋である賃貸集合住宅のことで、『デュプレックス』というのは複層階に分かれた賃貸集合住宅のことで、イギリスにおける『アパートメント』とほぼ同じ意味になる。


「その表現は的を射ているだろうな。所詮はダンジョン・マスターなんて言っても、全部借り物の物件に借り物の力なわけだし」

 つまるところ運営の胸先三寸なんだということを肝に銘じておかねば。


(……ま、そのうち出し抜いて見せるけど)

 そう密かに画策しながら、地図のダンジョンの入り口付近を赤丸で囲んでおく。


「じゃあ湖に沈めるものの、ここの入り口付近は半径100m以上の島にして、ついでに幾つか島を残してダミーとする。できればモンスターが湧きやすい場所ならいいんだけれど」

「〝魔力溜まり”ですね。事前にチェックしておく必要がありますね」

 頷いてヤミが同意する。


「ということで、①短期的な目標として、ダンジョンの強化及び魔物の増強。②中期的な目標は、ダンジョン全体を湖に沈めて、外部からの敵対勢力との衝突を可能な限り回避する。③長期的な目標は、教皇庁との折衝もしくは撲滅。――といったところだ」

 そう地図の余白部分に箇条書きすると、フィーナも納得した表情で頷いた。


「いいではないか。最初は何を突拍子もないことをと思うたが、なかなか考えておる。特に行動の肝が最終的に教皇庁とやらとの撲滅を目安にしているのが気に入った。敵と見定めた相手は斃さねばならぬからのぉ」


 いや、別に確実にドンパチすると決まったわけじゃないんだけど? 内部から切り崩すなり、末端を取り込むなり、対等な立場までこちらの力を誇示できるまで育て上げてから話し合いに持ち込むなり、可能な限り無駄な戦いは避けたいんだけどね。

 とは言えいま言って興をそぐこともないので、とりあえずは黙っておく。


「えーと、あのダンジョンの強化についてですけど、ここを湖にするってことは今後は水に関する魔物や精霊を中心に増強を図る……ってことでしょうか?」

 小首を傾げながら疑問を口にするリュジュ。


「いや、いま現在は水系統の魔物しかいないので、そっちを強化した形になったけれど、ひとつの系統に固執すると、特定された場合対応もされやすいので、今後はある程度他の属性の魔物を増やして補完させるつもりだ。――無論、中心になるのはいまいるフィーナとリュジュで、期待しているけれどね」

「ふふん、まあ気が向いたら手伝ってやらんこともない」


 一応、ふたりをないがしろにする気はないと持ち上げておくと、当然という顔でフィーナが破顔した。

 リュジュの方は生来の性格によるものか、

「いや、あの、別に私はそんなに……」

 いまのところうちのダンジョンの最強戦力だというのに、どうにも及び腰である。


「方向性はわかりましたけれど、結構な難問ですね。いままでの例ですと、すべての属性の魔物を取り揃えてオールマイティを自称していたマスターのダンジョンは、ほぼ例外なく防御にも攻撃にも中途半端な器用貧乏に終わってしまい、突破力のある敵に対して脆弱さを露呈してしまい、早い段階で淘汰されるのが常です」

「ふむ。キャラカスタマイズ制のゲームで、パラメーターを均等に上げた結果、どれもいまいちになった感じか」

 ヤミの説明に納得した俺とは対照的に、フィーナはいまいち納得できないという顔で、

「そうであるのかや? 真の強者とは往々にして、強き肉体、類いまれなる膂力、獅子の如き精神を持った者であるぞ」

「まあ、理想はそうなんだけれど、いまあるポイントと条件ですべてに対応しようとすると、どこかに破綻ができるのは目に見えているからね」

「ああ、増設できるだけの武装を全て乗せたパーフェクトストライクが、武装の選択肢が増えたことで、逆に使い勝手が悪くなり過ぎて、さらに自重の増加による機動力の低下、エネルギー消費の増大を招いたことから、バランスの悪い欠陥機扱いされて放置されたのと同じことですね~」


 リュジュが日本のアニメの知識をもとに、なにやら感慨深げにヤミの意見に同意を示す。


「ま、そういうことだ。できればオープン後もトライ&エラーを繰り返して見直しを図りたいところだけれど」

「あ、そのことですが。準備期間中の現在は問題ありませんが、正式にオープン後はダンジョン内部の構造を、逐次変更――侵入者の動きに合わせて構造を変えたり、そのまま壁で囲んで圧し潰したり、どこかへ投げたり――はできませんので、ご注意ください。無論増築や破損の修理は問題ありませんが、基本的に侵入者がいるエリアに対しては干渉できません。普通はそんなことしないんですけど、アカシャ様の場合はやりかねないと、運営も危惧しているようで赤字で警告文が来ました」

 と、先にヤミに釘を刺された。


「――ちっ」

 さすがに運営も俺のやりそうな手口を読むようになってきたか。

 正直、迷路を造って随時入れ替えしようと思っていた俺は、機先を制せられて思わず舌打ちをした。


「……その顔は目論んでおったな」

 最近、多少は俺を認める雰囲気になっていたフィーナが、それはそれは白い目になったのを見て、俺は口笛を吹きながら目を逸らせた。


「ですから、トライ&エラーの暇はないと思います」

「ふーむ、じゃあこの準備期間中に、この世界の人間の生態を可能な限りサンプリングして、それをもとにダンジョンの方向性を決めるしかないな」

 そうヤミに答える。


「生態ですか? この世界の生物ですのでアミノ酸がD型ですが、基本構造はホモサピエンスと類似ですが? 遺伝子構造も96%一致していますし、違いは《魔素》に適応して《魔臓》という人差し指の先ほどの器官が脾臓の上のあたりにあり、これによって肉体を強化したり、魔術を行使したりすることが可能となっているくらいですね。あと、《魔臓》はモンスターの好物なので、好んで食べられます」

「結構違うものだな。つーか、やっぱ実物を捕まえて、実験しないとダンジョンの方向性が決められないな」


 何しろ正式オープンすれば、やり直しは利かないらしいし、「このくらいの高さ・幅があれば十分」「これだけ高温なら無理」とか、先入観から甘く見積もって手痛い反撃を食らっては堪らない。


「え……あの、人間を実験に使うんですか……?」

 思いっきり顔を引き攣らせるリュジュに、

「そりゃそうだろ。一番の敵はこの世界の人間なわけだから、最低限、上下の温度湿度限界推定値、衝撃限界値推定値、圧力限界推定値、耐久限界推定値、行動不能になるまでの水、食料、酸素欠乏時の限界推定値などは把握しておかないと」

「うわぁ……」

 そう答えたらドン引きした。


「??? 変な事言ったかな?」

 と、思わずヤミに確認をする。

 俺としては、自分や仲間の命がかかる仕事がイチかバチかの賭けや博打であってはならないと思うので、可能な限り実態に即したデータを集積しておきたいと思うのだが。


「いや、まあメリジューヌは比較的に人に近い場所に生息していたので、どうしてもモノの見方が人間寄りになって、同情的になるのではないでしょうか?」

 そう推測を口に出すヤミの言葉に、肯定も否定もしないで複雑な笑みを浮かべるリュジュ。


「ふん。妾の縄張りに土足で踏み込む下賤な人間などに情けなど無用である。――おぬしらもそうであろう?」

 フィーナに同意を求められて、ヤミは「わたくしはアカシャ様の従属物ですので、すべてはアカシャ様の思し召しのままに」と軽く返し、俺はと言えば、

(まあ、元人間としては多分、良心の呵責に苦しむとか、煩悶するべきなのかも知れないけれど……)

 客観的にはそう思うものの、もともとの性格がこうなのか、或いは『ダンジョン・マスター』になった際に何らかの処置を施されたのか、まったく悩むことなく、

「いや。そもそもこの世界の人間ってホモサピエンスに比べて、96%……4%も遺伝子構造が違うんだろう? チンパンジーより離れているってことで、俺的にはカテゴリーとして『人間』とは別種の生き物という認識なんだけど?」


 はっきり言えばゲームの敵と同じで、動く経験値としか思えなかった。


「ある意味、無関心よりひどい認識ですね……」

 なぜか冷汗を流しながらヤミがそう相槌を打つ。

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