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罠師の魔王と取説少女のダンジョン経営(旧題:六畳一間ダンジョン攻防記)  作者: 佐崎 一路
地下1階 ロクでもない魔物娘たちが増えました
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地下1階 3部屋(その4)

 見事なDO☆GE☆ZAであった。

 一見したところ15歳ほどの年齢だろうか。白いドレスに長い銀髪の楚々とした美貌の、まさに絵に描いた深窓の令嬢という表現が相応しい少女が、目の前でそれは見事な土下座を披露していた。


「……どこで覚えたんだ、土下座なんて」

 呻く俺の疑問に、

「……まあフランスって日本のアニメや漫画が人気ですから」

 ヤミが自信なげに答える。


 いや、別に答えを期待して口に出したわけじゃなくて、「親が見たら泣くぞ」と、続く言葉を飲み込んだだけなんだけどさ……。


「コメツキバッタのように、いつまでも辛気臭いわ! さっさと顔を上げぃ! 妾は寛容ゆえ必要な誠意を示せば、まあ場合によっては水に流すことにやぶさかでないわい」

 自分が主役だとばかり、ダンジョン・マスターの椅子に座ったままの俺の前に堂々と仁王立ちして、一段低くなった床の上で、小さくなって謝罪を繰り返す《ヴイーヴル》を睥睨したまま一喝するフィーナ。


「誠意ってのは何だ? 金の事?」

 ほとんどヤの付く職業の言いがかりだな……と思いながら、目の前で揺れている豊かな臀部に尋ねる。


「金銭の問題ではないわ! 妾が重視しているのは、こ奴の性根(しょうこん)についてじゃ」

 上体を捻って横顔をこちらと《ヴイーヴル》双方に向けた姿勢で、断罪者のように宣告するフィーナ。


「「「???」」」

 俺とヤミ、あとついでに平伏していた《ヴイーヴル》も、怪訝な表情で顔を上げた。


「よいか。詫びというのは無礼を働いた相手が納得せねば詫びとはならぬ。妾に対して礼を逸したことについて、確かにこ奴は非礼を詫びた」

「いえ、今回の謝罪は召喚者であるアカシャ様をないがしろにして、なおかつマスター・ルームで無目的に暴れたことに対するものです」


 そこは譲れないとばかりヤミが異議を唱える。


「……まあそれも多少はある」珍しく小指の先ほど譲歩するフィーナ。「いずれにしても非礼は非礼。それを払拭するのにただ形だけ頭を下げても、いかほども妾の留飲は下がらぬ」

「お前、寛容とか自称する割りに(しゅうとめ)並みに細かいな。謝っているんだからいいじゃないか」

「――と、アカシャ様がおっしゃっているのですから、それでいいのではないですか?」


 俺としてはあんまし責めてまた逆切れされたら面倒なので、なるべく平和裏に解決したいんだけどなあ。

 だが、そんな俺の心中など忖度することなく、援護射撃をしてくれるヤミと俺とをまとめて見据えて、フィーナは「やれやれ」とばかり嘆息をした。


「おぬしはこのダンジョンのあるじ……いわば小なりとも一国の王にあたる存在じゃ。王たる者は時には寛容を示すことも必要ではあるが、それ以前に王威が伴わねばならぬ。そうして、王の価値は絶対じゃ。『無礼に対してそれ相応の謝意を示した。ゆえに公平である』などという、魔術師の言うような『等価交換』にも等しい世迷言、もしくは法に従う裁判官のようなことを口してどうなる。王が法であり、富も名声も一方的に享受する側なのじゃぞ」

 いや、それはちょっと傲慢過ぎるような気がするんだけど。神代の時代の神霊の価値観は揺るぎがないらしい。

「つまりは妾たちを満足させてこそ、こ奴の罪は償えたと言えるのじゃ」


 妾たち(、、、)って言うけど、比率的には俺とヤミが1に対してフィーナが9くらいなんだろうな。


「……あのォ……それでは、私はどうすれば……?」

 ビクビクしながらフィーナに伺いを立てる《ヴイーヴル》の化身たる少女。

 こうしてみるとあの馬鹿でかいドラゴンが化けた姿とはとても思えない。唯一、ドラゴンの時の面影を留めているのは、インドのビンディのように額に付けたガーネット(大きさは親指ほどになっているけど)の額飾りくらいなものだ。


「決まっておろう。骨惜しみせずに妾とこのダンジョンのために働くことじゃ。その成果を持って謝罪と認めようぞ!」

「わ、わかりました。この私――〝メリュジーヌ”の名において、このダンジョンのために誠心誠意努めさせていただきますっ」


 傲然と言い放つフィーナの勢いに飲まれた形で、彼女――メリュジーヌというらしい――がそう口に出した刹那、いつかと同じダンジョンとつながりが生まれた感覚がした。


「……俺の了承がなくてもOKなのね」

 思わずぼやく俺。

 一方、その名を聞いたヤミは「うわぁ……!」と微妙な表情で頭を抱える。


「もしかして有名人?」

 お互いに小声で内緒話をする。

「伝説的な《ヴイーヴル》です。神話の世界の住人とまでは行きませんが、誰でも知っているネームバリューを持っていて、この世界では有名な錬金術師パラケルススとも親交があったとか、アーサー王伝説にも関係するとか、フランスという国を作ったとか……」

「あ、それは祖先の話ですね。フランス革命後は、一族は割と好き勝手に生きています。一応私が当代のメリュジーヌの名を継いでいますが、普段はアヴァロンに引きこもってアニメや漫画に傾倒しています」


 小声で話していたのだが、そこは仮にもドラゴン。

 地獄耳で聞こえたらしく、聞いてもいない普段の生態を教えてくれた。


「ふーん……なんでその引きこもりが、いきなり攻撃的に炎とか吐いたわけ?」

「いや、いきなり召喚されてテンパったというか……」


 見た目は箱入りお嬢様なのだけれど、喋る内容と口調は思いっきり俗っぽい。


「人を挟んで勝手に和むでないわ!」

「――す、すみません!」

 蚊帳の外にされたフィーナが怒鳴り付け、慌てて平伏すメリュジーヌ。


 とりあえずこの一連のやり取りでわかったのは、この娘、見た目の割に小心者でなおかつ調子に乗りやすい……ということだった。


「またハズレかなぁ……」

 そこはかとない既視感を覚えながら、小さくため息をつく俺。


 なお、メリュジーヌのステータスは案の定、俺程度の鑑定では全容が掴めなかった。

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Name:Melusine

Rank::-NO NAME-ダンジョン地下一階守護者

Class:Vouivre

Level:???

HP:???????/???????

MP:???????/???????

Status:

・STR ??????

・VIT ?????

・DEX ?????

・AGI ??????

・INT ?????

・LUK 31

Skill:『水魔法(Lv70)』『火魔法(Lv69)』『妖精魔術(Lv57)』『変身(Lv9)』『領地守護(Lv88)』

Title:『リュジニャンの守護者』『財宝の収集者』『趣味の創作者』

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 なんかもう文字通りの桁外れなんですけど……。

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