地下1階 3部屋(その1)
「魔物ガチャを使用するのは良いのですが、こちらから対象を指定できる召喚魔法と違って、ランダムで魔物が召喚されるのですから、まかり間違えると……というか、『レアリティ☆☆☆☆☆以上魔物ガチャ』の場合、かなりの高確率で大型の魔物・精霊などが現れる危険性があります」
難しい顔で六畳間を見回して懸念を示すヤミ。
「このような粗末な物置小屋に招き入れたら、大抵の高位魔族・精霊は侮蔑されたと見做して気分を害するであろうな。――ま、妾は寛容にして寛大、慈悲深いゆえに、我慢を示すことができるが」
残っていた菓子パンを綺麗に平らげて、ティーパックの紅茶を飲み干すフィーナ。
「それもありますが、このマスター・ルームに収まり切れない質量の魔物が召喚された場合、安全装置が働いて自動的にキャンセルとなり、せっかくの召喚が無駄になる可能性がございます。この際ですから、ポイントのあるいまのうちにマスター・ルームを拡張して、アカシャ様の私室を別に設けられてはいかがでしょうか?」
「召喚用の部屋を別に増設するわけにはいかないのか?」
「召喚はコア・クリスタルのある場所でないと仕様上不可能ですし、コア・クリスタルは基本的に移動不能オブジェクトですので……」
マスター・ルームそのものを移動させることは可能ですが、と付け加えるヤミ。
「なるほど。つまりここは召喚専用に無駄を省いた大広間のようにして、同じレイアウトで俺の私室の六畳間を造るってわけか」
「はい、広間というかイメージは謁見の間ですね。現在のポイントはおよそ10,000。でしたらアカシャ様の私室用に5,000ポイント。そして、この部屋の増築分として5,000ポイントを使用してプラス六畳の十二畳相当の部屋にすることができます。ああ、その際にはできるだけ天井も高くしたほうが良いかも知れませんね」
ふむ、つまりこの椅子はこのままに、正面側に増築分六畳を足す形か。あ、謁見の間ってことは、椅子のあるところは一段高くしたほうがいいな。そのうちポイントが貯まったら、足元に絨毯とか引く形にして、照明はシャンデリアとか……。
「――ん? だったら水回りは必要ないだろう。水道を撤去して、余ったポイントでさらに三畳分をつけ足せば」
「いえ、万一の火災などを警戒して、部屋にはスプリンクラーを設置しておいたほうがよろしいかと」
奥義書――本の化身だけに、火災には人一倍敏感なヤミが懸念を示す。
「それもそうか。火を吐いたり、火炎を司る精霊とか多そうなイメージだからなぁ」
もっともだと俺も同意したところで、
「おい、ちょっと待ちぃや!」
なぜかフィーナが不満な顔で待ったをかけてきた。
「ん? ポイントをこの部屋の増設と俺の私室に使うのに不満があるのはわかるけど、一階の増設まではまだ」
「そういうわけではないわい! ――いや、まあ多少の不満はあるが、今回はまあ妾も異存はない」
妾は寛容じゃからな、とフィーナ的には余程重要なポイントなのか、再三にわたって念を押してから付け加える。
「じゃが、おぬしら何か忘れておらぬか?」
と、本人的にはさり気なく。傍目にはあからさまに自己顕示しまくるフィーナ。
「「???」」
ちょっと何を言っているのかわからない状態で首を捻りまくる俺とヤミ。
「なんという血の巡りの悪い連中であることか! おぬしら火事の心配をしておるようじゃが、目の前にいる妾を何と心得る!?」
そう言われて思い出した。
「……水の神霊?」
「なんで疑問形なのじゃ!?!」
いや、なんかここ一週間、食っちゃ寝している怠惰な姿しか見ていないから、何となく『食って寝るだけの存在』としか認識してないんだよね。
「とにかく! 妾が居るところ水の加護は完璧じゃ。火事なんぞあっという間に消して見せるわ。ゆえにスプリンクラーなど必要ないわい」
「「う~む……」」
わはははははははっ! と呵呵大笑するフィーナだけれど、何だろう……どうにも何かのフラグにしか思えない。
とは言えここで逆らえる雰囲気ではなかったので、ヤミと相談の上、あきらめてマスター・ルームの水回りは撤去して、浮いたポイントを増築部分に回してトータルで十五畳ほどのガランとした部屋に造り直すことにした。
で、椅子の真後ろに通路を通して俺の私室として、いままでと同じ六畳間をつけ足して、そこへ家具を全部移した。
これで10,000ポイントを使ったわけで、残りは22ポイント……晩飯代だけ残して、背水の陣でいよいよ『レアリティ☆☆☆☆☆以上魔物ガチャ』に挑むことになったのである。
「――その前に、と」
残っていた『レアリティ☆☆☆以上装備ガチャ[初回monster撃退・駆除特典]』を引いておいた。
これは《小精霊》たちが、例の《ツノウサギ》を退治した次の日に運営から届いていたもので(どうもステータス等は夜中の0時に自動更新されるらしい。ただし、『Point』に関しては随時使った分が反映される仕様のようだが)、初めてモンスターを斃した報酬らしい。
強い防具か武器が出ることを期待してガチャを使用した――結果。
「……『身代わり人形』」
二度目の『身代わり人形』を前にガックリと項垂れる俺の背中を、ヤミが軽く撫でて慰めてくれた。
「よかったではないですか。これで少なくとも二回は死なずに済みますよ」
「…………」
確かに便利だとは思うよ。けど、さっきのフィーナの台詞と合わせて、どんどんと俺の死亡フラグが林立しているように感じるんだけれど!?




