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7、デジャヴ

7、デジャヴ



 モーニングもやっているので、早出の朝がある。4時には起きて化粧をしなければならない。古い公団の一部屋で音をたてないようにごそごそと動きまわる。


 朝一で泣きはらした目に氷水で作ったおしぼりをあてる。左手でしっかり押さえ、右手は歯ブラシを持つ。頻繁に表を裏を入れ替え、腫れぼったくなった目を鏡に映すとどうにかみられるようになっていた。しかし目の下のクマにたるんだしわが寝不足を物語っている。


 なんとか化粧でごまかすと、痛む胃を押さえながら部屋を出た。


 早起きは得意。通常の時間に入るよりは人もすくなのこの時間が好きだ。電車もすいていて、まだ真っ暗な外を見ながらけだるい雰囲気の電車に揺られる。


 1駅で電車を降りると急ぎ足で店へ向かう。


 朝のフロアはひとりでこなす。客も注文も少ないし、まだケーキも売ってないから。

 主な仕事はコーヒーのお代わりを注ぐこと。


「いらっしゃいませ」


 コーヒーのフィルターを変えていると入り口のチャイムが鳴った。


「おはようございます。おひとりさまですか?」

 うなづく男性にソファ席を勧める。


 毎日コーヒーを飲んでいかれる背の低い背広の男性。手には黒いパソコンの入ったバッグを持ち席に着くと何やらキーボードを打つのだ。


 注文を聞くと案の定ホット。


 ステーションに戻ってコーヒーを入れると席に向かうが……何かが違う。違和感を感じて男性を見るとパソコンを出すでなく、手をテーブルの上にくみ親指を凝視していた。


 ??……どうしたんだろう。


「お待たせしました。ホットコーヒーでございます」

「ありがとう」


 ありがとうだって。始めて聞いたわ!


 今まで企業戦士の部品の一つのように感じていたその男性が始めて人間に見えた。思わずこぼれた笑みで男性と目が合う。頭を軽く下げてごゆっくりどうぞと下がろうとすると名前を呼ばれた。


「クワノさん……」

「はい」


 勢いよく振り向く私の頭に一つの疑問が。

「僕高田と言います」

「はあ」


「よかったら今度コーヒーをごちそうさせてください」

「はい?」


「少しお話したいのでどこか他の場所で」

 ああそういうことか。紛らわしい。


「お客様、大変申し訳ありません。そういうことは出来かねます。それにただいま勤務中ですので、他に御用がなければ失礼いたします」

 少し冷たく言い放つとステーションに戻った。


 まるでデジャヴ。

 あの時と一緒じゃないの。


もう騙されないんだから!!



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