4、私のせいです
4、私のせいです
このファミレスのディナータイムはきついことで有名だ。順番待ちは長く続き、家族連れから学生さんのグループからふらっと飲みに立ち寄る仕事帰りのサラリーマンや。それはもう雑多な人たちがわんさとやってくる。
私は、新人ながら経験ありと言うことでしょっぱなからエルに配置された。エルとはL。左側のことでフロアを半分に割った左がエル、右がアール、そして会計や席への案内をするフロントに分かれる。担当する座席を区切ったものよね。
経験ありと言っても、その店独特の言葉の言い回しがあって、慣れるまでは一呼吸置いてしまう。そんなときは平良さんが助けてくれる。
普段はどこを見ているのかわからないような顔をして、ちゃんと周りが見えている。いらっしゃいませを最初に言うのも、オーダーをとりに行くのも、コーヒーが空なのに気付くのも、新人がまごまごしてるのに気づくのも平良さんが一番早い。
これでアルバイトってどういうことだろう?下っ端社員なんかよりよっぽど動けるのに。
平良さんに興味津津ながら個人的なことはあまり聞く機会がなく日が過ぎて、仕事が楽しくなってきたころ、とうとうチャンスがやってきた。
ある日店長に書類を提出するのに早めに呼び出され、事務所に行くと平良さんが座っていた。
「おはようございます」
「あれ、どうしたの?」
「書類を書くので早めに来たんです」
「店長?いま出て行ったよ本社に行くって言ってたからしばらく戻らないと思うけど」
絶句する私に笑いかけると座っててと言い残し事務所をでていってしまった。
「寝む……」
あくびとともにため息を吐きだす。忘れられたということに恥ずかしさを感じながら。そんなことは私が感じることではないとわかっているが、長年の結婚生活の中ですべての恥ずかしいことが私のせいで起こったんだといわれたせいで、関係ないことまで自分のせいにしてしまう。
わかるだろうか?ほんの小さな魚の骨を攻め立てられる哀しさが。家の中に落ちた草の葉が家じゅうにどんな景況を与えるかと脅される恐怖が。
それを自身のせいにしなくていいのは分かってる。わかってるけど。この感情のはけ口が見つからない。
「おまたせ、あれ」
店のお盆にコーヒーカップを二つ載せてそれを片手でもっている平良さんは見本のように立っていた。
空いている机にカップを並べて置くと私に座るように促した。
「呼び出しといていないなんてひどいよね」
なんてことだろう。その言葉を聞いてどっと涙があふれた。
「あれ?どしてだ?止まんない」
拭っても拭っても涙は止まらない。うつむく私の視界に入るティッシュの箱。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
こんなつもりじゃないのに、困らせちゃう。どうしよう。