17、失う日
17、失う日
今回のこれはさわり心地とか言ってる場合じゃなかった。
頭頂部に浴びたコーヒーは髪の毛を伝ってじわじわと頭皮にやけどを負わせた。しばし呆然とする被害者と加害者に文字通り冷や水を浴びせたのは平良さんだった。
ポットに入ったお冷を私にぶっかけ凍えるような目にあわせ慌ててタオルを持ってきた。そしてそのままキッチンの流しで頭を流水で洗われ頭が痛くなり始めたころ、頭を拭くと髪の毛がずるりと抜けてきた。
慌てた店長が呼んだタクシーに押し込まれ近くの総合病院に行った。
やけどをして以来ガーゼに包まれた頭部が今日久々に姿を現した。
「カッパ……」
私の頭頂部は湿潤にされた治療でかさぶたも出来ずにつやつやのピンクの皮膚が見えていた。その姿はまさにカッパである。
私が苦笑すると医師はまじめな顔で心療内科の診察を打診してきた。それは厳に断わる。あんなもの役に立ちはしない。
「必要ありませんよ。楽しい気分になるだけの薬のむなら毛はえ薬呑みますよ」
笑って言ってやった。
店長が私が訴えるとでも思ったのかとても優しくしてくれる。今日はかわいらしい帽子を持って来てご丁寧にラッピングまで施してあったが、私の中の何かのボタンが押されていてラッピングはびりびりに破かれた。
私は怒っていた。
この理不尽な人生に。
楽しく生きていこうと決めたのに、楽しく笑うのは私の頭を見た周りの人たちじゃないか。
ほのかな心のうずきも今では消えうせ、たとえ平良さんが来たとしても会いたくない。
私は元夫に怒っていた。その怒りは彼に向けられることはなく、自分を痛めつけて痛い痛いと心が叫んでいたのに無視を続けて体が悲鳴を上げるんだ。
理不尽極まりない。