57・初めての探検(前編)
ホントごめんなさい。遅すぎながら更新します
あれ、忘れられてるんじゃね?
「霞!デートしよ!」
朝起きて一発目の挨拶がこれだった
蝉の鳴き声と子供達の笑い声。部屋に流れるニュースの声が鮮明に聞こえる中、加弥は着替えも済ませ、出掛ける気満々で立っている
「………取り敢えず朝ごはん食べようか?」
サンドイッチを頬張りながらニコニコ笑ってる加弥。まぁ約束してた訳だし一日くらい出掛けても問題ないだろ。羨ましそうな顔をしてる洸夜と美鈴ちゃん。深娜は相変わらずの無表情で新聞片手にコーヒーを飲んでいる
「それで、どこ行くか決めたのか?街中行くとぜってぇ混むぞ?」
「だよな。だからって遠出するにも今からだと限界あるしな」
向かいに座る慎と、サラダをつまみながら色々意見を交換するが中々まとまらない
「加弥、行きたい所とかあるの?」
「霞と行くならどこでもオッケー!」
いやまぁそう言ってもらえるのは嬉しいんだけどさ、結構困りもするわけだ
。んー、と考えてると俺の携帯が鳴り出した
「なんで俺○の曲なんだよ。無意味に泣きそうになるじゃねぇかよ」
「いや、この電話の主からの要望で」
ホント佐藤さん○屍やって毎回泣きそうになってるからな
「もしもし」
『おぅ。起きてたか。今大丈夫か?』
「大丈夫です」
『よし、今から迎え行くから待ってろ』
「は?ちょい待て。なんで急に」
『いいから早く準備しろよ、もう少しで着くから』
「ちょっ!こら佐藤さん!佐藤さん!」
しかし既に通話は切れており、虚しい音が携帯から聞こえている
「どうした霞」
「………佐藤さんが今から来る」
その瞬間新聞を握りつぶした深娜は覇気を隠そうとせずにこっちを睨んでいる
睨まれても非常に困るのだがなんか言ったらこっちがエラい目に合いそうなので黙って視線を反らす
「デート………」
ジト目で見てる加弥をどうするべきか、これは困ったな
「………いっその事連れてくか」
自分で言っててそれなりにいい案じゃね?人混み行くより楽だし加弥も見たことないだろうしなぁ
家の前では爆音が鳴り響いていた
「おぅ。迎えに来たぞ………あんだよそのツラ。喧嘩売ってんのかガキ」
「いきなり噛みついて来るなんてホント低脳な歳上ね」
玄関で火花を散らす二人。その内本気の取っ組み合いが始まりそうなので間に割ってはいる
「はいはいストーっプ、喧嘩はご法度だぞ。約束忘れたか?」
二人は暫し黙って睨み合った後、同時に視線を反らし深娜は居間に歩いていった
「ちっ。悪かったよ」
「俺じゃなくて深娜に謝って下さい」
「んな事知るかよ。それよりさっさと行くぞ」
「その事なんだけど、一人社会見学に連れた行きたいんだけどいいっすよね?」
「見学だぁ?女連れ込んで何処で何ヤル気だよ」
「よーし加弥、それじゃぁ佐藤さんの車は不慮の事故で売却されることになったからバスで移動しようか」
「ちょっ!なんだよ売却って!止めろよ!ホント勘弁してくれよ!」
すがり付いてくる佐藤さんを見下ろしながら少しばかり不安を覚えてしまった
さて、よく警察に捕まらねぇよなって速度とドラテクで爆走して着いたのは見慣れた建物
あちこちと視線が定まらない加弥を引き連れて、いつもの様にエレベーターに乗り込む。スムーズに目的の階に到着し、開いた先にあるのが俺のある意味での職場が広がっていた
複数の大人が世話しなく歩き回り、パソコンで何かを製作する人もいれば上司に相談に行く人も居る
「ようこそ加弥。ここは、作家・野崎霞がお世話になってる仕事場さ」
初めて入る出版社にあちこち視線を巡らせる加弥は、不安もあるのかさっきから袖を掴んだまま隣から離れようとしない
俺はそんな加弥の頭を撫でながら目の前に広げられた書類に目を通す。本気でこの人数辞める気かよ。この会社終わったな
「今はハゲがいないから普通に話しても大丈夫だ。どうせここに居る連中全員辞める気だからよ」
周りを見渡せば笑顔で手を振ったりしてる大人共。あんたら大丈夫か?脳とか
「さて、これから色々面倒な仕事が増えちまうがテメェ等気合い入れて今の仕事終わらせちまえよ」
『うっす姉さん!』
何処の族だよお前等、とか言いたくなるがそこは我慢して抜ける作家の方にも目を通す
「へぇ。小鳩兄妹も抜けるんですか」
「霞、知ってるの?」
「んー。最近アニメになった『銀砂の時計』って知ってる?アレの原作者だよ」
「そのアニメなら知ってる!なんか凄い人気だよね」
主に野郎共がコゾってフィギアとか同人を買ってるって情報は伏せておこう。嬉々としてノエルたんとか言ってる連中みんなもげればいいのに
「他にも期待してる連中引っ張れたし顔合わせする時ちぃと面倒みてくれ。頼めるか」
「分かりました。こっちからも少し連絡とっておきますよ」
「頼むぜ。今日何人か来てるし挨拶しとけよ」
そう言って佐藤さんは色々鞄に詰め込んで数人引き連れて、部屋を出ていった
「それじゃぁちょっと挨拶に行こうか」
加弥の手を引いて俺の作家仲間の元へと案内し始めた
初めて歩く出版社に緊張しながらも、あちこち見ては目を輝かせてる加弥。たまに知ってる作品のポスターを見ては物欲しげな眼で俺を見上げてくる
だけどあくまで会社の備品扱いなので勝手にあげるわけにもいかないから頭を撫でて諭すしかない
いや、そんな瞳潤ませても無理なんだって
通路の先にある休憩室では数人の男女が飲み物片手に一息ついていた。それなりに広い部屋には娯楽用品が揃えてあり、ゲームからマッサージ機、卓球台まで揃っている
そんな休憩室に見知った顔を見かけたので、加弥を引き連れ顔を出す
「よっす。お疲れ」
俺の声に真っ先に反応したのは二人。学校の制服に身を包んだツインテールの少女に、何故かジャージに科学者が羽織ってそうな白衣を着る少年
服装とは違い顔付きがほどんど一緒の二人は、さっき書類にも書いてた小鳩兄妹
「御久し振りです霞先輩」
ちょこんと頭を下げる妹こと小鳩綾。あまり感情を顔に出さないのだがその分行動で示してくる女の子
「ふはははは!久しぶりじゃないか我が永遠のライバルにして頂に立つ覇者、野崎霞先輩よ!」
随分痛い言い回しを使う癖にちゃんと先輩をつける妙な所で礼儀正しい兄こと小鳩拓。兄が文を、妹が絵を担当し、高校1年ながら出版社内でもかなり高い評価をもらっている
「霞先輩の方がすごいじゃないですか。私たちなんてまだ未熟ですよ」
「ふっ、この私の右手が紅く輝く時、灰色の脳に渦巻く心理の扉は開かれ世界は新たな一歩を踏みだぶほぉっ!」
妹のシッっと言う掛け声と共に、脇腹にめり込んだ拳。成す術も無く崩れ落ちる兄を見下ろす妹ちゃん。相変わらずダイレクト過ぎる
「兄さん、厨二病で給金貰ってるから更正しろとは言いません。ただ恥ずかしいので家の外では呼吸以外で口を開けないで下さい」
相変わらず身内に容赦しない妹ちゃんは、俺の隣でポカンとしてる加弥に視線を向けてから成る程とばかりに頷いて手を叩く
「先輩も遂に奥さんを見付けましたか。早速皆さんに報告を…………」
「違う違う友達だってば!加弥もクネクネしない!」
「なんと、つまり私にもまだチャンス…………おぉ、初めて覇気みたいなのを感じました」
床では痙攣しながら気を失う兄。ほら、加弥も真に受けないで落ち着いて落ち着いて
頭を撫でていると直ぐに覇気は消えて休憩室の一同は安堵の息を漏らした
「この二人がさっき話してた小鳩兄妹だよ。ある意味佐藤さんに巻き込まれた被害者かもね」
苦笑いする俺に対して首を横に振る小鳩妹ちゃん。兄を見下ろしてから
「私達は霞先輩に憧れてこの世界に飛び込んだんです。霞先輩と一緒の職場で働けるならそれだけで幸せなのです」
こうも真っ直ぐに言われると恥ずかしいではないか。誤魔化す様に妹ちゃんの頭にポンと手を乗せると床の兄が飛び起きた
「我が永遠のライバル霞先輩よ!我が妹にして彩画操る綾に手を出すとは!今こそ封印されに暗黒の魔獣、咒魂煉極怨龍の力を解き放ぶふぉぉ!」
ゲームキャラがKOされた様に頭から落ちた兄は完全に沈黙し、妹の突き上げられた拳からは陽炎が見える気がする
「兄さん、折りますよ?」
何処をとは恐くて聞けないのは意気地無しなんだろうか………
何処かの誰かさんを連想させる恐怖政治を尻目に、完全に空気と化していた人に視線を向ける
部屋の角で瞑想するが如く微動だにしない青年。詳しくは聞いてないが20代後半らしい絵師の佐田ミツハルさん。細部にまでこだわった絵が特徴で個展なんかもやっているらしい
静かに眼を開き俺を見てから加弥に視線を向ける。一瞬眼を見開いた後、スケッチブックと鉛筆を取り出しいきなり何か書き始めた
佐田さんは…………アレだ、我が道行くタイプの人間だから周りの事など一切気にしない。目の前で兄に拳を振るう妹ちゃんすら眼中に無いらしく、数分で一枚の絵を完成させるとこちらに持ってきた
「なんかこの人木の枝って感じだよね?」
まぁ背が高くて細過ぎる姿を見るとあながち間違った表現ではないのだが、本人目の前で言わなくても…………
「…………」
無言で渡された絵は相変わらず見事の一言だ
ドレスに身を包んだ加弥そっくりの令嬢が、瞳を閉じきらびやかな椅子に腰掛ける姿
ただその背景には骸の山に淡く揺らめく蝋燭。幾多の首を跳ねたであろう斧が無造作に突き立てられており、短時間の作業のはずが随分と禍々しい作品に仕上がったものだ
なんとも言えない表情で見上げてくる加弥だがこればっかはどうしようもない。これが佐田さんの作風なのだから
ひとしきり制裁タイムが終わった小鳩妹は、どこか清々しい表情で兄を踏みつけている
「加弥、軽く引いた目してるけどいつも君たちあんな感じなんだからね?」
「………以後気をつけます」
果たして守られる日は来るのだろうか。そんな不安を抱えながら二人と気絶者と別れて次の場所へと向かった
なるべく早く後編出せるようにします