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51・僕と貴女と花火の下に

綾萌「おめでとう」

佐山「おう」

綾萌「私は新年にあたり新な目標を持った」

佐山「・・・・」

綾萌「なんだ、私はまだ何も言っていないぞ」

佐山「なら何を言うつもりだった」

綾萌「それはもちろんこづく」

佐山「ふんっ!」

綾萌「むぐぅ(モグモグモグ)」

佐山「今年も宜しく頼む」




続け!

活気に満ちた露店が立ち並び、香ばしい匂いが辺りに溢れている

子供達は景品を求めてクジや射的場に親を引っ張っているし、カップルで屋台を巡る姿も見られる

そんな中にはナンパなんて事をしてる男共もいるわけで、ここにも二人組が前を歩く二人に声を掛けようとしていた

一人は朱色の浴衣で髪はお団子にしている。お洒落な簪が歩みに合わせて揺れ、会話が弾んでいるのか談笑に華を咲かせている

そしてもう一人の方、肩より長い髪を先だけゴムで纏め、蒼い寛平に身を包んで下駄を鳴らしているその人は、隣との談笑に華を咲かせている

声を掛けようとした二人組も、後ろ姿を見たとき最初は男なのかと疑ったが、横顔が見えたとき間違いなく女性であると確信したらしく、今まさに声を掛けようとしていた


「ねぇねぇ君達、よかったら俺達と一緒にまわらばぁっ!あっつぁぁぁ!」

「か、霞君!それさっき出来たてで買ったたこ焼きだよ!」

「5回目だぞ!ここ来てから5回も女と間違われて声かけられたんだぞ!もう我慢ならん。寛平を着てる時点で気付けや!」

「に、逃げてください二人とも!串で刺される前に早く逃げてください!」

「離してくれ洸夜!今ここで絶たねば平和な祭りは訪れない!」


現場を目撃していないやや離れた位置の人達は、喧嘩かなにかと思い気に止める事は無かった



数時間前、夜に祭を控えているので軽めの昼食をとっていた一同

皿に盛られた素麺を皆でつついている時に事件は起きた


「いやぁ祭だなぁ。美味いもん喰うぞぉ!」

隣に座る加弥が、然り気無くお椀に入れた練りわさびに気付く事もなく一気に啜る慎。無論その後は大爆発である

噎せかえる慎を皆でスルーして、何事も無く箸を進める

「お兄ちゃん。お祭り楽しい?」

「うん。きっと楽しくなるよ。美鈴ちゃんの浴衣も届いてるから」

「私達の分もあるの?」

「みんな分あるから後で好きな色選んでおいて」

寸法を合わせてる浴衣がそれぞれ色違いで何着か届いている。まぁ三人の誰かは着方が分かるだろ。俺と慎には寛平と下駄が届いてるし中々気合いの入った集団が今ここに誕生しようとしていた

「たーこ焼きやーき鳥りーんごアメー♪」

上機嫌に歌う加弥とそれに合わせて揺れてる美鈴ちゃん。深娜は相変わらず鉄仮面の様に無表情だが、分かる人には分かる程度に頬が緩んでいる

しかしここで一人、何か壮大な決意を秘めた様な神妙な面持ちの女性が一人、我ら5人組唯一の純粋な良心の持ち主


その名は先塚洸夜である



「か、霞君!」

突然立ち上がった洸夜は何故か俺をご指名の様子。一斉に集まる視線にやや赤面しながらも真っ直ぐに俺を見ている洸夜


「一緒にお祭り回りまひぇんか!」

噛んだ





賑わう屋台道を歩く集団。焼き鳥綿アメを両手に持ち、ピンクの浴衣を揺らしながら歩く加弥。いつもストレートにしている髪はポニーテールにしている

その隣を歩くのは、加弥より少しだけ背が高く、寛平越しにでも分かる肉体が自慢の慎。その肩にはご機嫌な美鈴ちゃんが、猫耳付きの蒼い浴衣に身を包んで慎の耳をリモコン変わりに摘まんで操縦している

その後ろを歩く深娜は半ば無理矢理着せられた美鈴ちゃんとお揃いの浴衣姿。彼女連れの男ですら思わず振り返ってしまう程独特の存在感を漂わせている

無論ナンパ組が放っておく訳が無く、両手の指が足りなくなる位には声を掛けられているのだが、そのつど慎が美鈴ちゃんを降ろしてナンパ組を人気の無い所に連れていき、平和的解決をして戻ってくる。祭りの間中、声を掛けてきた男達と全く会わなかったのは偶然とゆう事になっている

「はあぁぁぁ・・・今ごろコウちゃん霞とラブラブしてるんだろーなー」

「まぁまぁ。加弥だってその内霞と二人っきりでデート出来るんだろ?今日は我慢しなって」

「ううぅ。まさか美鈴ちゃんがコウちゃんの援護するとは思わなかったぁ」

慎の上の美鈴ちゃんは小首を傾げながら右耳を引っ張る。右側にはリンゴ飴の屋台があった

「まこ。アレ買う」

「アイサー。了解です美鈴キャプテン」

飴を買ってる間、加弥を見下ろす美鈴はまたもや小首を傾げる

「でもお兄ちゃんは言ってた。みんな友達で、でも誰とも付き合ってないって」

「ううぅ」

「みんなお兄ちゃんの事好きだけど、お兄ちゃんはまだ誰も決めてない。なら早い者勝ちでしょ?」

「ううぅ。中学生に言い負けたぁ。反論出来なぃい」

項垂れる加弥を他所に、深娜は苦い表情で吐き捨てる

「だから私は霞をどうも思ってないっていってるでしょ。いい加減私を含めて言うのはやめなさい」

「・・・・そーゆーことにしておくねお姉ちゃん」

「・・・・美鈴」

リンゴ飴を受け取った美鈴は慎の耳をおもいっきり引っ張って頭を叩く

「まこ、Bダッシュ」

「目指せ1UP!イャッホーイ!」

「あっ!待ちなさい!」

「うわぁ置いてかないでよぉ!」

何処にでもあるお祭り集団であった





ちょっとしたいざこざを終えた霞を宥める洸夜。結局ナンパ組の逃走とゆう形で幕を閉じた

「ちきしょうあの野郎、逃げやがったな」

「霞君、少し落ち着こうよ。ほ、ほら、もう一回たこ焼き買お?」

「洸夜も止めたらダメだよ。ああゆう人のトラウマとかコンプレックスを刺激する奴は一回ドン底を見た方がいいんだよ」

「私お祭りにこんな黒いトラウマ抱えたくないよぉ」

取り敢えずたこ焼きを買い直して、近くの椅子に並んで腰かける

出来立てのたこ焼きにたっぷりの鰹節とソースを絡めて一口

家で食べる時より美味しく感じるのはやはりお祭りだからだろうか

(私としては、霞君と一緒だからだといいな)

隣に座りたこ焼きを頬張る霞を見て自然と頬を染める洸夜

お祭りを二人っきりで過ごしたくて皆の前であんな風に言うなんて・・・私も変わったよね

昔の自分が今の私を見たらなんて言うのかな

そんな事を考えていると、霞の口の端にほんの少しだけソースが付いているのに気付き、特に考えもせずに指でそっと拭って自分の指を舐めた。舐めた後で自分が何をしたのかゆっくり理解し始め、理解すると爆発するんじゃないのかと思われるほど一気に赤くなった

(なっ、あっ、え?えぇ?えぇぇぇ!わ、私、かか霞君の口元のソースを舐め・・・舐めちゃった!ははは恥ずかしい!はしたないことしちゃった!)

された霞も最初はキョトンとしていたが、徐々に理解して若干恥ずかしそうに頬を掻きながら

「えっとぉ・・・もしかしなくても洸夜、今俺の口元についてたソース・・・舐めちゃ」

「舐めてません!たこ焼きはもうありません!早く次に行きましょう!」

浴衣を着てるのに驚異的なダッシュでゴミを捨ててきて、まだ何か言いたそうな霞の手を取ると引き摺る様な勢いで歩き始めた

洸夜としては、あの場所に居るだけでさっきのシーンが延々と頭の中で流れそうなので、一刻も早く忘れなければならないここ最近で一番の失態であり、ここまで真っ赤になった顔を霞に見せられないと思い引っ張り出したわけである

そんな洸夜の後ろ姿を見て霞は優しく微笑んだ





先程の所からやや離れた位置にあるお寺。その階段の下で肩で息をする洸夜と、心配そうに軽く背中を叩く霞

徐々に息を整え始めた洸夜は苦笑いしながら霞を見上げる

「霞君、疲れないの?私もうお腹痛くて」

「一応ね。ほら、皆でいろいろ無茶して最終的に俺が一番疲れてるから」

「あ、あはは・・・ごめんなさい」

「いいって。洸夜より深娜と加弥の方が酷いから。さ、お参り行こうか」

そういって自然と握られた手に、驚いて固まる洸夜を見て苦笑いする霞

「嫌かな?」

「ち、違うよ!その、霞君から手を・・・握ってくれて・・・・嬉しかった」

頬を染めて握り返した洸夜は、霞と並びゆっくりと歩き始めた


お参りを済ませた二人はお寺を後にし、花火の見える場所を目指し歩き始めた。しかし途中洸夜が首をかしげ霞の手を引く

「あれ?霞君、橋の方に行かないの?去年も橋の上で花火見てたよね?」

「ん?ああそこね。多分加弥達も向かってると思ったからちょっと穴場の方に」

「穴場?加弥ちゃん達と一緒に見ないの?」

霞は少し照れたように洸夜にだけ聞こえる声で話す

「今日1日は洸夜と二人っきりでデートなわけだし、この際家に帰るまで二人でもいいかなって思ってさ」

「ふぇっ!そそそんな!加弥ちゃん達に悪いよ!」

手を繋いでるのも忘れてブンブン腕を振って遠慮する洸夜。一緒にブンブン揺れてる霞はなんとか洸夜を押さえて一息つく

「加弥ともデートするって事になってるんだから不公平じゃ駄目だろ?多分加弥は一日中ベッタリしそうだしね」

「・・・いいのかな?」

「深娜とだって1日出掛けるのに付き合うんだからこれぐらいやっても文句は無いよ」

「・・・うん。それじゃぁ霞君、とっておきの穴場に連れてってね」

「お任せあれお嬢さん」

そう言って再び手を繋いだ二人は川沿いを下り海岸を目指す

行き交う人の中を歩く二人は楽しそうに今までの出来事を思い返しながら話し、時に笑い、たまに恥ずかしそうに頬を染めたりしながらゆっくり歩を進める

やがて行き交う人の数も減り、海岸付近に着くとそこは予想通り多くの人で賑わっていた

「霞君、まさかここじゃないよね?すごい人だよ」

「だいじょぶ。ほら、そこだよ」

指差した方には停留している屋形船が一隻ある。予約されているのか近くには船頭さんと思われる人が煙管をくわえているだけで、他に人は見受けられない

「そこって・・・川と船しかないよ?まさか乗るわけじゃないし?」

「乗るんだよあれに」

「ふぇ?」

首をかしげる洸夜を尻目にまっすぐ進む霞は船頭に声を掛けた

「しーげさん。お待たせしました」

「おぉ。ようやく来たかい坊主。早くしねーと始まっちまうぞ」

そう言ってしげと呼ばれた老人は洸夜の存在に気付きニヤリと笑う

「おうおう坊主。色気づいて見せつけてくれるな。めんこい彼女さんじゃねーか」

「かか彼女っ!ちちちちがいますよ!私はまだ霞君とは友達で!」

「まだ?つまり狙ってるわけだ。モテる男は辛いなぁ坊主」

えぅぅと真っ赤になって俯く洸夜そそくさと霞の背に隠れた

「しげさん、洸夜をからかってないで早く行きますよ」

「おぅよ。ほれさっさと乗り込め」

急かされる様に乗り込んだ船はすぐに出航し、陸を離れて沖を目指す



数分波に揺られながらのんびり走る屋台船。中では料理が並び、日本酒から焼酎まで並んでいたりする

穏やかな波のお陰で二人はのんびりとお刺身をつまんでいる

「それにしても霞君、しげさんとどんな知り合いなの?」

「しげさんは爺さんの同級生なんだよ。この辺はしげさんのシマだから他の船も近づかないから特等席だよ」

「へぇ。私初めて船の上で花火見るから楽しみだな」

「それは良かった。初めて招待した甲斐があったよ」

初めてと言われて頬を染める洸夜は、誤魔化す様に水で割った焼酎を飲んで真っ赤になった

すると障子越しに閃光が射し込み、独特の破裂音が響いた

外に視線を向けると一際大きく広がる閃光。そして大気を震わせる破裂音に、思わず身を竦める洸夜は霞の腕にしがみつき、数秒後に慌て離れた

赤面する洸夜は視線を空に戻し高鳴る鼓動を必死に抑えようとしている

霞はそんな洸夜を見て優しい笑みを浮かべ、釣られるように空を見た

視界を埋め尽くす様に散りばめられた様々な色合いの花火は、途切れる事無く咲き続き、人々を魅力し続けている。洸夜もまた魅せられた様に空を見続け、自然と霞の手に自らの手を重ねていた

「ねぇ霞君」

「ん?」

視線を空に向けたまま呟く洸夜。霞は洸夜の横顔に視線を向けると、重ねていた手を少しだけ強く握られた

「私、今日の事は絶対に忘れない。霞君がくれた今日この日の幸せを絶対に忘れない」


向き直った洸夜の表情は、どこまでも優しさに満ち溢れ、輝いていた

そのまま霞の胸に顔を埋める洸夜は、母を求める子の様に背に手を回す

「少しでいいからこうさせて。帰ったらきっと皆が怒ってさせてくれないから」

胸の中で苦笑いする洸夜は少しだげ強く抱き締めた。霞は洸夜の背をゆっくりと叩き、優しく微笑んだ



暫くそうしていて、異変に気付いた霞は背を叩くのを止めて下を見る

そこには浅く背を上下させ、静かに眠る洸夜がいた。苦笑いしながらゆっくり手をほどき、静かに膝枕をしてあげて一息つく

「しげさん、盗み聞きは悪趣味ですよ」

「ぁんだよ。気付いてたのか」

操舵室に続く襖が開きしげが煙管をくわえて出てきた

「しっかし何とも初々しいっつうかガキっつうか」

「人の思想を他人がどうこう言う資格は無いんだよ」

「わーってらよ。それで、どうすんだこれから。嬢ちゃんは寝ちまってるし、起こすのか?」

静かに眠る洸夜を見下ろした霞はどうしようかなと呟くと、しげが苦笑いして無線を取り出した

「坊主と嬢ちゃんは船に残ってろ。俺は仲間の船で岸に戻るからよ。運転出来るだろ?」

「え?いや急にそんな」

「馬鹿か坊主。起きたら好きな野郎と二人っきりなんざ嬢ちゃんにとっちゃ何より嬉しいってもんだろ。大切にしてやんな、その子は今時珍しいくらい純粋な子だぜ」

いつ連絡したのか、近付いてくる船に手で合図すると日本酒の瓶片手に立ち上がった

「今夜の波は静かだ。朝まで二人っきりで楽しみな坊主」

あばよーと言いながらさっさと出ていった無責任な老人を、呆れた表情で見送った霞は洸夜の髪を優しく撫でた

新年明けましておめでとう御座います。今年もウドの大木は駄目人間です




いやぁ年末までに投稿したかったんですが・・・・年末の仕事とかだいっ嫌い!

それでも新年からは一ヶ月以内に更新するよう心がけますのでこれからもよろしくお願いします




あ、次回はついに慎主役第二弾です!

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