40・幸と酷のbirthday
作者ーいやー長引きまして本当に申し訳ありません。言い訳しません現場のせいです
霞ーホント死んでくれないかな。いつまで生きてるつもりだ
作者ー社会的に忘れられるまで
深娜ーなら後少しじゃない。早く消えれば
お嬢ーご自分の価値を分かってまして?
作者ーメタクソ言うなお前ら。次の話で羞恥のドン底叩き込んでやる
一同ー消えれば良いのに
日は遡る
それは御嬢様がいらした夜。初めて御嬢様に料理を作ることになった私は今までに無い程緊張していたと自覚している。過去これ程緊張した事など思いつかない
いくら隣で霞が助言しても作るのは私。包丁を持つ手が震えてしまう
「深娜、見てて非常に危なっかしい」
「うるさい。好きで震えてるわけないでしょ」
呆れた顔の霞は腰に手を当て居間を盗み見ている
私には見えないが明日の打ち合わせをしているのだろう。御嬢様と幸澤の話し声が聞こえる
御忙しい最中態々いらした御嬢様に失礼な物を御出しする事は出来ない
「みーなー。手が止まってる。料理中に瞑想は危ないぞ」
手に持つ物を投げつけようかと思ったが物が物なので我慢した
「そこまで緊張するな。俺に食わせると思えばいいだろ」
「失敗が許されないでしょ。貴方みたいに器用じゃないのよ」
すると霞は自重気味に笑い棚に寄り掛かる
「昔はボロボロに下手くそだったさ。母さんが無表情で直ぐ様トイレに立つぐらい」
目を細め昔を思い出す霞
「それから毎晩母さんの横で見てたもんだ。誰も居ない時にこっそり作ったりしてな。それでもここ最近になって漸く成果が出てきたくらいだ」
霞は片手で器用に卵を割り、フライパンを取り出しコンロに乗せる
「お前の方が多才なんだ。これぐらい軽くこなしてお嬢をもてなしてやれよ。深娜料理長」
笑う霞にボディーをお見舞して再度包丁を構える
少しだけ霞に感謝した
シンプルにオムライスでいいだろと欠伸混じりに提案した男は数秒後には床に伏して悶絶している
しかし今出来るであろう料理はこれしか無く、苦渋の選択を選ばざる得なかった
御嬢様の前に出されたオムライス。出来立てのオムライスを見下ろす御嬢様は霞に視線を送る
すると霞は徐にケチャップを取り出すと『ドナドナ』と書いた
怪我人であるのも忘れて本気で蹴り倒した
運良くソファーに倒れたが動く気配が無い。追撃をしようとしたが御嬢様と幸澤に止められた
「まったく。私は誰が作ったか聞きたいだけでしたのに」
御嬢様は溜め息混じりに崩し、口に運ぶ
どんな評価を頂くか内心焦りながらも平静を装う
「深娜」
「・・・!」
突然名を呼ばれ緊張の余り強張る
「美味しいわよ。これは私の完敗ね」
美味し
その一言が何より嬉しかった。ほんの少しだけでも御嬢様に喜んで頂けた
「ありがとうございます。そう言って頂き幸いです」
「相変わらず堅いわね。早く霞を起こして皆で頂きましょう」
食事も済み、幸澤から新たな情報を受け取り目を通す霞。時折幸澤と意見を交換している
そのやり取りを見ていると御嬢様が指で軽くテーブル叩く
直ぐ様意識を御嬢様に向けると小さな声で話し掛けてくる
「そろそろ日が近付いて来たわね」
その意味を悟ると御嬢様は一度紅茶を飲み満足そうに頷く
「今までに何度言っても裏方に回ってたのよね」
「それは・・・・」
「今回は既に貴女と霞の名前を招待客のリストに載せておいたわ」
御嬢様は目を細め主人として命令を下した
「今年は客人として祝ってちょうだいね」
「・・・畏まりました」
それから日は進み、いよいよ今夜御嬢様の誕生日に出席する
「はぁぁぁぁぁ。めんどいよぉぉぉぉ」
今すぐこの男を血の海に沈めて殺りたいが時間に余り余裕がない
「だりぃぃぃゴポォ!」
ただ殴る事にした
「霞、余り時間が無いの。スーツは幸澤が手配してるから今すぐ準備しなさい」
「がぁぁ!イエッサァー!だから頭を離して!」
渋々離すと頭を押さえふらつく足取りで立ち上がる霞は何故か加弥さんに電話を掛けた
「もしもーし。ちょっといいかー」
『どーしたの?』
「髪切っていい?」
『ダメ!』
「何故に駄目なんだよ。これからお嬢の所行くんだよ」
『ダメったらダメェ!』
「えぇ!理由言ってよ」
『切ったら毎晩耳噛みに行くからね!』
「やめてくれよ!」
『ブツッ・・・ツーー・・ツーー・・ツーー』
項垂れる霞は力無くケータイをソファーに放り髪に手を当てる
「・・・絶対お前より長いよな」
「・・・・・なんで切らないのよ」
「何故か加弥が切るなと連呼してな。前ほんの少し切ったら公衆の面前で『エッチ!』って叫ばれた。それから三日間地獄だった」
霞は踞り頭を抱え震えだした。時折『蹴らないで』『殺さないで』と漏らすが聞かなかった事にして蹴った
「時間が無いの。今すぐ支度しなさい」
ぐったりする霞は深々と溜め息を漏らすとゆっくり起き上がる
「後何分?」
「20分以内よ」
20分かと呟く霞は素早い足取りで何故か台所に姿を消した
まさか逃げたかと思い直ぐに後を追う
「・・・・?」
そこに霞の姿は無い
探そうかと思ったが余り時間が無い。逃げたなら血祭りにしよう
そう誓い私も身支度に部屋へと向かった
〜〜〜〜10分後〜〜〜〜
居間に来た私は絶句した
未だ戸に手を掛けたまま中央に立つ男を見ている
グレーのスーツを完璧に着こなし伸びた髪は後で束ね悠然とコーヒーを飲む姿。私に気付き振り向く男。霞はダルそうに溜め息を漏らしカップから口を離す
「なんだ、ドレスに着替えないのか?」
「・・・え・・・か、霞よね」
「これが慎に見えるか」
「見えないわ」
そこは即座に否定させてもらう
「つうか久しぶりに袖通したから着心地悪い」
飲み干したカップをテーブルに置き呆れ顔でこちらを見る
「・・・ほんっと洒落っ気無いな。少しは化粧したらどうよ」
「うるさい。御嬢様の誕生日に私が出ること事態おかしいのよ。それにドレスなんて一度も着たこと無いからね」
うわ勿体ねーと無感情に漏らす霞は手早く戸締まりを確認し、ふとこちらに視線を向けると髪に手を伸ばしてきた。無論叩き落とした
「イツッ。なんだよ。折角後で跳ねてるの直してやろうと思ったのに」
「なら先に言いなさい。あんたのそういう行動案外誤解を招くわよ」
「はいはい御忠告痛み入ります。で、直してやるか?」
「時間がないし早くしてよ。そろそろ迎えが来る頃だから」
霞に背を向けるとそっと髪に手が触れる
ゆっくり丁寧に仕上げる霞に男の癖になんでこんなに上手いんだと疑問を抱いていた
程無くチャイムが鳴り、二人で玄関に向かう。戸を開けると20代前半の青年が深々と一礼する
「御迎えにあがりました。本日は菊池御嬢様の誕生日に出席して頂き誠に有り難う御座います」
「山下。相変わらず早口ね。少しは進歩したら」
その一言に青年は苦笑いしながら頭を上げる
「すいません先輩。やっぱ緊張しちゃって」
霞は私と山下を交互に眺め首をかしげる
「ん?深娜が先輩?」
「あ、初めまして。自分は山下明夫って言います。先輩は小さい頃から御嬢様の御側に居たんでうちらの中じゃかなり長いんですよ」
「そんな事はいいのよ。早く行くわよ」
「す、すいません先輩。それではどうぞ御乗り下さい」
山下に促され車に近付く。その前に山下に振り返り
「それから元気そうね。しっかり御嬢様を守るのよ」
「・・・・・へ・・・・へぇぇぇぇ!!」
何を狂ったか突然叫ぶ山下は霞の側に素早く移動し小声で話している。まあ聞こえてるけど
「ほ、本当にあの人先輩ですか?今まで一度も『元気そうね』とか優しい言葉言われたこと無いんですけど」
「失礼な男だな。そりゃまあ昔は怖かったけど」
よし、帰りに二人を殴ろう。そう誓い車に乗り込んだ
車から自家用ジェットで移動。
どんだけ遠いんだよと外の景色を眺めながら時間を持て余す
「あ〜深娜。いったい何処まで行くんだ。まさかトランシルバニア地方とか言わないよな」
「まさか。そんな遠くないわよ」
その答えにほっとする間もなく次のお言葉が降りかかる
「日本国外だけどね」
おいおいまてまて。国外かよ。明日学校出れるかなー
「学校には休むって連絡済みよ」
さいですか。手回しが速いようで
不貞腐れてると向かいに座る山下が怪訝そうに此方を見ている
「・・・失礼ですが野崎さんは一度お会いしましたよね?沖縄で」
はて?沖縄でということは首里城だろう。つまり夕月か
『おうおう思い出した。あの両手で構えてたアホだ』
「夕月が『両手で構えてたアホだ』だそうだ」
「うぐっ、いきなりそれ言うっスか!勘弁してくださいっス」
いきなり語尾が変わったが無視しとこ
「そりゃ実戦的なのはアレが初めてだったっスけど・・・とにかく蒸し返さないでほしいっス!」
「『だが断る!』」
「先輩助けで下さいよ!俺じゃ野崎さんに勝てないっス!」
後輩の悲鳴に近い協力要請に相変わらず冷たい視線の深娜
「職務怠慢に客人に対する態度。それからその軟弱さ。後でトレーニングDを10セットこなしなさい。監視に紗智を付けるから」
その言葉に真っ白になる山下を眺め暇を潰すことにした
それから更に一時間空の旅の後、漸く目的地の島に到着した
ライトアップされた道を進むと一際明るく照らされた大きな建物が・・・・・と思いきや予想より若干控え目な建物だった
「あれ?お嬢にしては謙虚だな。それとも倉庫代わりか?」
「違うわ。お嬢様はいつも親しい方や極一部の客人しか呼ばないのよ」
山下に先導され玄関まで続く赤い絨毯を歩いていくと、そこにはスーツ姿のお嬢親衛隊が整然と並び深々と礼をしていた
『ようこそ御越し下さいました』
頭の中で何人か顔見知りだと夕月が呟いているが別に闘う訳でもあるまいし聞き流す
「よっ!姉さん待ってました!」
突然整列していた一人がおどける
それを期に全員が駆け寄ってきた。つか仕事しろ
「先輩元気でしたか!」
「せんぱ〜い。寂しかったですよ〜。連絡下さいよ〜」
「相変わらず仏頂面ですね。笑って笑って♪」
「お姉さま!会いたかったぁぁ!」
数歩離れた位置でこっそり伺っていると何時の間にやら幸澤が隣に居た
「やあ霞君。態々来てくれてありがとう」
「逆らえんのでな。しかしスゲー人気だな」
「そりゃあね。君の家に行く前は実質彼等のリーダーだったからね。厳しかったけど人一倍御嬢様の事を考えてたから皆からある意味尊敬されてるのさ」
周りに揉みくちゃにされてる深娜を眺めて視線をずらす。さっきから深娜にタッチしてる子がいるが絶対アブナイ子だな
「つかいいのか?客人の迎えは」
「君等が最後だからね。ほら皆も持ち場に戻って。これからが忙しいんですよ」
幸澤の声に名残惜しそうに離れる周りと引き擦られていく少女
深娜は深々と溜め息を吐いて疲れた表情で歩いてくる
「・・・助けなさいよ」
「無理」
手の甲をつねられた
その後深娜は一度着替えると言い残し足早に裏手に歩いていった
俺は幸澤の後に続き会場へと向かう。途中会うボーイからメイドに会釈されながら何年か振りの社交に繰り出した
程無く照明は落ち、スピーチを務める幸澤と中央に立つお嬢
遠目ではあるが相変わらず人形みたいに綺麗な顔立ちだ。鮮やかな色合いのドレスに身を包み優雅に微笑んでいる
『おお。ついにお嬢のご登場か。うわ派手っ!』
ああ。相変わらず格好は豪勢だな
『つか入れすぎだろ』
入れすぎ?何が
『気付かねーならいいだろ。後の楽しみだ』
そんなやり取りを他所に進行はスムーズに進み、何時の間にやら乾杯の音頭にまで進んでいた。つか深娜何処行った
「皆様。今宵は私の為に御集まり頂き誠に有り難う御座います。皆様に祝って頂き心から嬉しく思います。今夜は存分にお楽しみ下さい。乾杯」
グラスを片手にお嬢はそう宣言し、周りは談笑と騒がしく動くボーイとメイドで埋め尽くされた
俺はグラス片手に脇に寄り、周りを眺めている。老若男女様々だが皆お嬢を慕っているんだろう
「うむ。お嬢も中々交友が広いんだな」
「御嬢様を馬鹿にしてるの?もしそうなら・・・・」
「うぉぉぉびっくりしたぁ!脅かすなよみぃ・・・・な?」
そこにはお嬢にも引けをとらない黒いドレスのお嬢さんがいた
若干紅く染まる頬と怒りゲージギリギリのつり目。まあ何と無く予想がつくが
「あいつらったら・・・個室に頼んでおいた服の代わりにこんなのを置いといて・・・・・・」
手に持つグラスを砕かん勢いだが場が場だし大丈夫だろ
「初めて着るけど・・・・変じゃない?」
「いや、スッゲー似合ってる。夕月もさっきから驚喜しっぱなしで雫に連れてかれた」
俺の中で何が起きてるのだろう。知らぬが仏か
「そう・・・それよりお嬢様は?」
「お嬢ならステージ近くで挨拶してまわってる。今はまだ行かなくても大丈夫だろ」
「そう。それとくれぐれも御嬢様に失礼の無いようにしなさい」
「あいよ。軽く挨拶してすぐ撤退する予定だ」
グラスを煽り視界をずらすと目の前が茶色い毛で覆われ腹部に重い衝撃と『きゃうっ!』という悲鳴が聞こえた
倒れはしなかったが若干ワインが零れ茶色い毛のクマの人形を汚してしまった
「すみません。お怪我はありませんか!?」
グラスを深娜に預け直ぐに人形を抱え持ち主に手を差し伸ばす
「I'm very sorry. I wasn't thinking about what i was doing.」
流暢な英語の返答と共に小さな手が差し伸ばす手に掴まる
腰まで伸びる銀髪に蒼く透き通る瞳。ふっくらした顔立ちでとても可愛らしいドレスに身を包んでいる。美鈴ちゃんより小さい背丈で一生懸命人形を抱えていたのだろ
「I'm very sorry for staining tha doll」
俺の返事に少女は目を見開いて驚き、直ぐに首を横に振る
「ごめんなさい。私が悪いからお兄さんは悪くない」
「ん、日本語が話せるのかい?ごめんよ。お嬢さんへのプレゼントだろ」
「はい。お姉様に渡そうと思って急いでたので。ごめんなさい」
「こちらこそごめんね。一緒に行って謝るよ」
人形を抱え女の子の手を取りお嬢の所へ向かおうとすると凄まじい速さと力で深娜に首を掴まれた
「あ、貴方何してるの!早く手を離しなさい!」
「そっくりそのまま返す。く、苦しいぞ」
深娜は素早く女の子の前に回り込み深々と頭を下げる
「ヘレナ様。ようこそ御越し下さいました。御元気そうで何よりです」
頭を下げる深娜にヘレナと呼ばれた女の子は驚きの声をあげる
「お姉ちゃんなの!凄い綺麗だよ!」
勢い良く深娜に抱き付いてはしゃぐヘレナ嬢
「very very beautiful!How lovely!」
「へ、ヘレナ様。御辞め下さい。ドレスが汚れてしまいます」
そんな事も気にせず抱き付きはしゃぐヘレナ嬢と困り果てる深娜
人形を抱え微笑ましく眺めている
うん。癒される
「か、霞!御嬢様の所に行くわよ。急いで!」
ヘレナ嬢に引っ張られ人混みに消える深娜を、俺は笑いながら追った
人の間をすり抜けお嬢の元へと向かう。時折ボーイに扮した親衛隊に深娜についてあれこれ聞かれたがその度に小柄なメイドが人をも捻り殺せそうな眼で睨んでくる
無論親衛隊は忽然と姿を消し、メイドも人混みを笑顔で歩き去って行くのだった
さてさていよいよお嬢との御対面な訳だ
早速目に飛び込むのは派手できらびやかなお嬢。そしてお嬢に満面の笑みで話し掛けるヘレナ嬢。そして畏まる深娜
その隣で微笑む幸澤
そして遠巻きに微笑むお客様一同
恐らくいつもこんな感じなんだろな
「あら、どちらのお嬢さんかと思ったら霞じゃない。良くいらしたわね」
本当なら容赦無く罵声を浴びせただろうが今日の主役はお嬢。我慢だ
「御招き頂き感謝するよお嬢。誕生日おめでとう」
「あら、貴方からそんな言葉が聞けるなんて夢にも思わなかったわ。そのクマさんは手作り?」
「お姉様。私のプレゼントですの!でも私のせいで少し汚れてしまいました」
しゅんとするヘレナ嬢にお嬢は優しく頬にキスする
「貴女のその気持ちだけで本当に嬉しいわ。ありがとうヘレナ」
「・・・・お姉様!」
嬉し泣きのヘレナ嬢はお嬢に抱き付き恥ずかしいのか顔をすっぽり隠している
お嬢も優しく頭を撫で泣き止むまでヘレナ嬢を抱き締めていた
「霞君。私が預かるよ」
横に立つ幸澤にクマを渡しガチガチに緊張している深娜に話し掛ける
「で、此方のお嬢さんはお嬢とどういった関係なんだ?」
「メリル・ウィンデット・ヘレナ様。御嬢様の親戚に当たる方よ。ヘレナ様の御両親は既に亡くなられて今は母方の祖父と一緒に暮らしているわ」
「そうか。小さいながらも頑張ってるのか」
「それにヘレナ様はああ見えて電子工学に大変秀でた方でね。今では大学の卒業論文を御愛読なさっていてね」
幸澤もにこやかに笑いながらとんでもない事をサラッと言ってのけたな
ヘレナ嬢は最近学校であった事や興味深い論文を見付けたとか輝く笑みで聞かせお嬢はとても楽しそうに聞いていた。すると人混みから長身に銀髪、皺の刻まれた優しそうな顔付きと立派な髭。ステッキを片手に現れた老紳士はお嬢の前で軽く会釈する
「御久しぶりですな麗奈嬢。御誕生日おめでとうございます」
「ウィンデットの叔父様!御忙しい所を態々御越しくださって」
ヘレナ嬢の祖父らしき老紳士は眼を細め本当に嬉しそうに笑う
「君の御母様の若い頃に本当に似ていらっしゃる。御美しくなられましたな」
「ふふ、イヤですわ世辞なんておっしゃって。叔父様も御元気そうで何よりですわ」
「可愛い孫の婿が見付かるまでは死ねませぬよ」
当の孫は真っ赤な顔で恥じらっている。うん、本当に可愛いなあもう
「ヘレナ。私は少し麗奈嬢と話をしなくてはならないのでな。幸澤君の傍を離れないでおくれよ」
「分かりましたお爺様。えっと・・・・ゆ、幸澤さん。よよよろしくお願いします」
真っ赤な顔で幸澤の隣に移動したヘレナ嬢に幸澤は優しく手を差し伸べる
「此方こそ宜しく御願い致します。御嬢さんお手をどうぞ」
紳士に振る舞う幸澤に促されお嬢のとは別の意味で笑らうヘレナ嬢は人混みに消えていった
「何時の世も恋する乙女は美しきかな」
「朴念仁が何言ってるのかしら?二人の気持ちに気付かなかった癖に」
そこを即答されると非常に痛い部分もあるのだが事実だから否定しようが無い
「でもな・・・気付かないでいるより気付かないフリの方が苦しいさ」
「ん、何か言った?」
苦笑いしながら首を横に振る俺を、深娜は不思議半分馬鹿にしてんの半分で軽く睨んできた
何処吹く風の如く流した俺は深娜を残しその辺をぶらぶら歩き出した
内装から細かな装飾品までどれを取っても一級品の部屋を後にしてバルコニーに出る
夜風が涼しく空に浮かぶ半月は世界を照らす
「悪いなぁ。態々こんな場所に来てもらって」
「貴方が態々私を見てからバルコニーに来たからよ。そうでなければ来ませんもの」
お嬢は胸の前で浅く腕を組み、相変わらずの上から目線で話し掛けてくる
「それで、どうしてこんな所にお呼びになったのかしら?」
「いやね、あの場では渡せないプレゼントだったものでね」
するとお嬢はクスクスと笑いながら近付いてくる
「あの子にも見せれないプレゼントなんて。さぞや素晴らしいのでしょうね?」
「さあね。取り敢えず夕月からメッセージ預かってる」
夕月の名前に一瞬顔を引き攣らせるが直ぐに元の柔らかな表情に戻る
「そ、そう。貴方が霞なんですから夕月みたいな行為はしませんものね」
彼奴と同系列にするな。力は惨敗しても人としては遥かに上だぞ
そう説教しようかと思ったが今日はお嬢の誕生日、我慢だ我慢
「つたえるぞ『お嬢。誕生日おめでとう。相変わらず派手だね。その癖そんなに仕込んじゃって悲しくないか?どう足掻いても深娜っちやコウちゃんには勝てないんだから諦めなって。大体の男なら許容範囲だしスレンダーなら体重気にしなくていいじゃん?ひゃははそれじゃ牛乳飲めよばいびー』以上だ」
つまり入れすぎってアレの事ね。いや確かに悲しいよな。見栄とか意地って時に残酷だな
「・・・・・・・・・・・・・・グスッ」
泣いちゃった!
「私だって・・・努力したんですもの・・・・・でも・・・でも・・・」
どうやら夕月メッセージはお嬢のトラウマに直撃したらしい。深娜とお嬢親衛隊居なくて本当によかった
「あー・・・・その、なんだ・・・・ドンマイ」
「処刑しますわよ!」
お嬢の眼がマジだったので夕月に変わって深く謝罪しておいた
雫さーん。出番ですよー
(はいは〜い。任してちょうだい♪)
夕月絶叫ボイスをBGMお嬢が落ち着くのを待つ。
ホント俺の中どうなってるんだろ
「お嬢、落ち着いた?」
「・・・・落ち着くとおもいまして?」
「いえ全然。つうわけで修学旅行の時の貸しはこれで無しな」
「・・・・くっ。分かりました。約束は守りましょう」
「感謝する。それでは俺からのプレゼントでも贈らせてもらおうか」
バルコニーやお嬢の後ろ、ホールで深娜や親衛隊が居ない事を確認してから切り出した
「ここに宣言する。お嬢、何が有ろうと、何が起きようと、必ずゼオンを見付けてみせる」
「・・・それが貴方のプレゼント?」
「ああ。前は脅し半分嫌々半分だったがこれからは違う。深娜や幸澤にとってお嬢は総てを賭けてでも護り通す存在。そして深娜は俺の家族だ。なら俺も総てを賭けて探し出してみせる。お嬢が笑えば深娜も笑う。だから探し出してみせる」
お嬢は暫し呆気に取られ、そして小さく笑った
「ふふ。あの子は本当に大切にされてるのね」
「家族を大切にする事は特別でもなんでもないさ。当たり前の事だよ」
お嬢は嬉しそうに眼を細め、ゆっくりと俺の隣に歩み寄る
何を考えているのか、眼を閉じ押し黙るお嬢
夜風は心地好く、ホールとバルコニーとではまるで別世界の様な錯覚をしてしまう
「お父様は・・・・いつも笑っていらした」
お嬢は唐突に話始めた。昔の記憶に浸るように
「いつも大きくて皺だらけで、それでいて力強く優しい温かさのある手で頭を撫でて下さってた」
「・・・・・・」
「孫と取られてもおかしくない程歳は離れていたけれど、お父様はいつまでもお父様でした」
お嬢の眼は今は亡き父親を今でも尊敬する様に、力強く輝いている
「これからは話す事は貴方の胸の中に閉まっていて。あの子にだけは知られてはいけないから」
「・・・・・・ああ」
「お父様は・・・殺されたのよ。今だからこそ分かる。決して治らない病では無かったから」
お嬢は俯き、微かに声は震えている
「何も知らなかったから。あの頃の私は余りにも無知で・・・無力で、周りに任せるしか出来なかった。大人を信じるしかなかったから」
お嬢の握る拳は震え、込める力も増していく
「私がもっと賢ければ、私がもっと信頼できる部下を持っていたら、私にもっと力があれば・・・・お父様は今でも優しく笑って下さったかもしれない」
お嬢はそれでも笑い顔をあげる。何時もの様に美しく優雅に微笑む
「お父様が残した最後の言葉・・・・ゼオンを辿るしかもう道は残されていない。なら私は利用できる総てを使い、惜しむ事無く全力で探し出してみせる。お父様が残した意味を見付けるために」
「・・・・・・」
「だから命令するわ。何が有ろうと何が起きようと、必ず見付けなさい」
「了解したお嬢。家族にとって大切な方の願い。心に刻んでおく」
俺は半月の浮かぶ空を眺める。小さな星の群れの輝きは月光より遥かに劣る。だが確かたる存在を示している
「お嬢、雨に濡れるぞ」
「たまには良いものよ」
俺はそっとお嬢の柔らかい髪に手を乗せる
お嬢な何も言わず、ただ雨に濡れていた
お嬢は化粧直しに行くと言い残し、別室に姿を消す。そこへ間髪を入れずにバルコニーに飛び込んできた深娜は殴り掛かってきた
「ってあぶなっ!落ちたらどうするんだよ!」
「御嬢様に何したのよ!泣いてたわよ!」
恐るべし洞察力。顔を合わせて無いのにそこまで分かるか
「いやまあなんだ、俺のプレゼントに感極まってホロリときたんだろ」
「突き落とされたい?」
「いえ全然」
眼がマジだ。いやしかしお嬢の約束もあるしなーでも深娜相手に下手な事いったらマジで突き落とすだろうなー恐いなー
「・・・・馬鹿にしてるのかしら?」
「理由は聞くな。お嬢との約束なんでな」
深娜は一瞬身を強張らせたが直ぐに軽く頭を振り溜め息を吐く
「・・・・御嬢様の意思なんでしょうね?」
「勿論。ああでも夕月は普通にお嬢泣かせたな」
その後10分程手摺前の攻防が繰り広げられ、幸澤と親衛隊数名の乱入により無効試合になった
ありがとう。来てくれなかったらマジで落ちてた
程無く無事誕生日会を終え、そのまま宿泊する事となり、用意された個室はかなり豪華で思わず飛び乗ってしまったふかふかベット。十分に堪能してから夕月に話し掛ける
「生きてるか?」
(・・・・・・あぁ)
精気を感じない。もう見た目やつれてるんだろな
「雫にこっぴどくやられたらしいな」
(あいつ鬼だろ。二時間ひたすら女装して見てるだけとか。生殺しやめろよな)
「見た目は同じなのになんでそんななんだ?」
(いや、あいつお前の記憶からコウちゃん引っ張り出して真似てさ。しかも深娜っち着てたビキニだぜ)
何やらかしてんだあの子は。肖像権ぐらい知っとるだろ
(しかも近付いてくると妙に生々しくドス黒い鉈出してくるんだぞ。もう恐くて恐くて)
確かに恐い。俺なら土下座が脱兎の如く現実逃避だな。いやいっそ清々しく自害するか?
(で、何か用なのか?)
「おおそうだった。最近気になってたんだが俺の中どうなってんだ?雫が現れた辺りからまるで部屋が在るみたいな感じで話してるだろ」
(ああその事な。まあお前も一回来たろ?真っ暗な空間。アレみたいなもんだ)
「成る程な。で、雫は」
(アイツなら今は居ないぞ。近々目を醒ますとか言ってたが。変な時に入れ替わるなよ)
それは雫に言えよとも思ったがどうせ無理だと思い諦めた
(で、そんな事を聞くって事はまだその時じゃ無いって事だろ)
「そうだな。知ってるけど知らない。何故俺の中に二人が居るのか。何故こんな事が起きたのか。何故ゼオンに関わるのか。理解出来ていない」
(俺だって同じさ。全部知った。世界の理から俺と言う存在意義。課せられた義務。全部知ったのに理解していない。言葉にする事すら出来ない)
「雫は全てを知り、理解しながらも知らない振りでいる」
(まあ制約した本人だしな。何も言わず見てるだけ。傍観者ってか)
「さあな。でもまぁ、傍観って程でも無いだろ」
(まぁ色々教えてくれるしな。かなり偏ってるけど。いい加減青少年の美点熱く語るの止めてくんないかな)
無理だろ
そう言おうとした瞬間、俺の意識は闇に覆われた
軽いスナップを聞かせ細かな細工まで行き届く豪華な扉をノックする
「お嬢さん、すこしよろしいですか?」
「霞?まぁいいわ。入って結構よ」
お嬢さんの承諾を得て中に入る。そこにはヨーロッパ貴族のお部屋みたいに豪華絢爛だった。わーシャンデリアめっちゃ高そー♪
「どうしたのかしらこんな夜更けに」
「ごめんねこんな時間に来て。挨拶がまだったからさ♪」
お嬢さんは顔を引き轢らせ、数歩後ずさる
「か・・霞ですわよね?その・・・・敢えて言いますけどそんな女の子みたいな口調は正直気味悪いですわ」
「んふふ。予想通りの対応だねお嬢さん。それとも麗奈ちゃんの方がいいかな?」
お嬢さんは直ぐに備え付けの電話を取り深娜ちゃんにヘルプコール
「深娜!急いで私の部屋に。霞が等々壊れたわ!深娜、深娜!」
『はいはいこちら深娜ちゃんで〜す♪この部屋の通信関係は全て掌握してますんでむりですよ〜。それに私は霞君ではありません』
お嬢さんはまるで錆びだらけのオモチャの様に振り向く
「初めまして麗奈お嬢さん。私の名前は雫。存在しない神様の地に立つ無垢なる道化にして、霞君の進む道に付き従う小さな従者」
私はにっこり笑いお嬢さんに近づく
「そして可愛い子の味方なのです。もう可愛すぎぃぃぃぃ!」
「きゃぁぁぁぁぁ!」
防音の室内でお嬢さんを堪能しました。もういい匂いだし柔らかいし上品だしサイコー!
「・・・・もういや」
お嬢さんなんか窶れてる
「え〜っとお嬢さん。そろそろ私時間切れだから今から言うこと確り覚えててね」
「・・・・何かしら?」
「プロテクトの二層目の解除にかなり手間取ってるでしょ?」
「!・・・・何故それを知っているの?霞にもそこまでは話してはいませんよ」
「んふふ〜。小さな道化さんは隠し事を暴くのが好きなのですよー」
まあ正確に言えば知ってたんですけどねー
「ハイネさんが書いたドッペルゲンガーって詩知ってます?」
「・・・・御免なさい。あまりそういった本は読まないものでして」
「気にしなくていいですよ〜。割とマイナーな詩ですから。その中のある文がヒントです。上手く当てはめれば大きく前進しますよ」
お嬢さんは素早くメモを取りペンを置く
「雫さん・・・でいらしたわね。貴女は霞ではなく、夕月に近い存在なのかしら?」
「ん〜違うね。夕月君とも霞君とも違う。私と二人は意識下では別だからね。霞君が表で夕月君が裏。そして私は虚空に近い存在。気紛れと暇潰しで助言と助力を惜しまない道化師さんなのです」
私はにっこり笑いお嬢さんの眼を覗き込む。何でだろうね。心の中に恐怖が隠れてる
何に怯えてるの?
「・・・・・私は小さくなって世間を眺めるだけのか細い存在だよ。見てるだけで何も出来ない弱い存在。何処かの誰かさんは『傍観者』なんて言うかもね。んふふ、お嬢さんついてこれてるかな?」
「・・・色々有りすぎで正直混乱していますわ」
「そう。それでいいんじゃない?それじゃそろそろ時間切れだから最後に一言」
もう時間切れだなー。次はいつ目覚めるのかな〜♪楽しみ楽しみ
その前に小さなお節介
「お父さんは毒殺されたんでしょ?あの時の担当医と関係者、それからお父さんの執事と当時辞めていった部下。誰一人捜し出すことは出来ないよ。情報の欠片も存在しない。有るのはあやふやで不確かなな記憶」
「!!知っているの!貴女はお父様の事を、殺した人間を知ってるの!」
「言ったでしょ?私は世間を見てきたって。それじゃあお休みお嬢さん。霞君に聞いても無駄だよ。二人はこの時間の存在すら知らないんだから」
お嬢さんは必死に叫んでいる。でもゴメンね
これは貴女が貴女の力で見付けなきゃいけないの
それがあの人の最後の望みでもあったからだよ?
お休みお嬢さん
これは私のプレゼント
試練の名を借りたお節介
何処まで強くなれる?
何処まで美しくなる?
何処まで信頼される?
貴女は何処まで冷静に冷徹に冷酷になれる?
慎
「慎君のテレフォンショッキング!!今回お二人は霞討伐の為お休みです!久し振りの出番だぁぁぁ!さあ今回のお客さんはこの人!」
八尾木
「八尾木でせ!」
久保
「久保です!」
岡部
「岡部です!」
慎
「三人揃って夢明組のご登場!」
夢明『変なグループ作るなよ!テロップまで変じゃねーか!』
慎
「彼等は何処に出てたか分かるかな!分かった人は番組ホームページか脳内電波にアクセス!」
夢明『慎話聞けよ!つか『』で纏めるな!!』
慎「それでは夢明組ニューアルバム『立場がなんだいっ!』をどうぞ!」
夢明『最悪だな!』
慎「それでは次回もお楽しみにっ!」