32・沖縄いい気分(迷子と子猫と彼女の告白)
謝辞
ウドの大木「新年あけましておめでとうございます。年明けまで引っ張ってしまいまして本当に申し訳ありません。もしまだ忘れていなかったら読んでください」
野崎霞「新年あけましておめでとうございます。早々駄作者の奇文誠に申し訳ありません。しっかり粛清しますのでこれからもよろしくお願い致します。それではどうぞ」
水平線の彼方から昇る太陽。眩い光は大地に一日の始まりを告げるように輝きを注いでいく
綺麗だ
言葉として口から放つのが無粋とすら思うこの光景に心中で呟く俺
野崎霞17歳
地上85mのベランダより宙吊りされながら迎えた沖縄最初の朝日だった
無事慎により救出された俺はバイキング形式の朝食を食べ、部屋で着替を済ませて三人に拉致されかけた
実際既に拉致されてるんだろうが慎も一緒だから多分防いだ筈だ
どうせお買いものにでも付き合わされるのかと思っていだが、意外な事に着いたのは街から離れた民家の並ぶ風情ある町
観光に適してるとは言いがたいのだがその独特の雰囲気は沖縄本来の物なのだろう
「霞、気に入った?」
こちらを覗き込む加弥。なんと言うか無意識に頭を撫でていた
「ああ、ナイスだ加弥」
嬉しさの余り抱きついて来たのはまあ見なかった事にしよう
「よし、早速ブラブラしようぜ」
慎は早速と言わんばかりに歩いていく。その進行方向にあるのは・・・・・・女子校・・・・
「セイヤァッ!!」
殴っておいた
ブラブラ歩いて早二時間
何故か知らんが加弥と洸夜の手には大量のお菓子が収まっている
「何この山?」
「おばちゃん達がくれたよ」
加弥はゴーヤチップを口に放り込み額に皺を寄せている
「霞君も食べる?」
そう言って差し出してくれたかりんとうを素直に貰い食べた。手作りって素晴らしい!そんな和やかな雰囲気を見つめる鋭い眼光
にゃ〜
『!!!!』
こんな声を出す生物はこの世に一匹!
にゃ〜
「ひっ!」
「ひぃ!」
加弥と洸夜は一瞬にして俺の後ろに隠れカタカタ震え出した
「あああああ悪魔だ〜!全身けむくじゃらの悪魔だ!」
「いやだ〜。猫怖い〜」
皆の周りに一人くらいはいなかっただろうか。何故か知らないのに猫とか犬とかに近付くと物凄い威嚇攻撃をされる人が
何もしてないのに近付いたらフゥゥーーって毛を逆立てて構えられたりする人が
加弥と洸夜は典型的なそんな可哀想な人なのです。これでもかって言うぐらい嫌われてます
しかしその逆のタイプの人間がいるのは事実である。何故なら俺がそうだからだ
「・・・・・」
(じ〜〜〜〜〜)
にゃ〜
「・・・・・・・・・」
(じ〜〜〜〜〜〜)
にゃ〜
「・・・・・・・・・・・・」
(じ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜)
にゃ〜
「にゃ〜〜」
ふらふらと猫の魔力の虜になり近付く俺を必死で押さえる加弥と洸夜。まるで恋人を引き留めようと必死になる乙女のように
しかし勝てなかった
俺は猫の頭を撫でたり喉をゴロゴロしたりお腹をわしゃわしゃしたり・・・・・
「可愛い〜〜〜」
もうめちゃめちゃ可愛いいよ。何ていうか猫一匹で一週間楽に過ごせる位可愛いいよ
そんなやりとりを遠くで悔しそうに眺める加弥と洸夜。行きたい、しかし近付くとキャッツアイがキラーンと輝いて見えるのです
「悪魔め〜〜!しこたま呪ってやる〜〜」
呪術の波動を手から放出し続ける加弥とそれに習って真似する洸夜。はたから見ればただ可愛い仕草なだけである
すると今までの気持ち良さそうにゴロゴロしていた猫は何を思ったのか霞の膝に飛び乗りそこから肩へ、そして肩車のようになって霞の頭の上に顔と前足を乗せている
「・・・・可愛いい」
深娜の小さな呟きに過剰に反応する呪術者二名。
「深娜ちゃん、まさかとは思うけど・・・・猫LOVE?」
「割と好きよ。あの気ままな性格が」
「・・・・・深娜さん、まさかとは思うけど・・・・・触りたいの?」
「そうね。撫でたいわ」
そのまま猫の元に向かう深娜。それを瞬時に阻止しようと回り込もうとする二人ぐ―――――
にゃ〜〜
『イヤ〜〜〜!』
無理だった
「おぉ〜。はたから見れば仲の良すぎるカップルじゃないか」
あ、慎が捕まった。民家の裏に連れてかれて・・・・・・・
「ほょほょほょ。久しぶりの若者じゃょトメさん」
「そうじゃなクミさん。ありがとなお嬢ちゃん。こんな若い性を連れてきてくれて」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァ・・・・・・・」
「あれは天罰だなチビ」
にゃ〜
すっかりフレンドリーでした
お昼に豚の角煮を食べ店内で大きな声で『このラフティーウマーイ!』と叫んだ馬鹿をしこたま殴って店員の方に何回も謝った
そして現在
「か〜す〜み〜〜何処へ〜」
「霞く〜ん。ドコ〜」
「霞〜、暫く帰ってくるなぎゃらばはっ!」
三名迷子確定
事の発端は店を出てすぐ、頭の上のチビが高らかに可愛らしく鳴いたのが始まりだった。
にゃ〜〜〜ん
ニャ〜にゃにゃ〜にゃンにゃ〜にゃ〜にゃ〜にゃ〜にゃ〜にゃ〜にゃ〜にゃ〜にゅ〜にニャ〜にゃンにゃ〜にゃにゃ〜にゃにゃ〜にゃ〜にゃ〜にゃ〜ゃにゃ〜んにゃ〜にゃにゃ〜にゃ〜にゃ〜にゃ〜にゃンにゃ〜にゃンにゃンにゃ〜にゃ〜にゃ〜にゃにゃ〜にゃン
小さな隙間から屋根の上まであらやる場所から猫が現れた。その数約40匹。例え猫好きでも軽く引くし猫嫌いなら確実にトラウマである
ギラーン!
猫の眼光は加弥と洸夜に向けられた
『にゃ〜〜〜〜〜〜〜!』×約40
『イヤ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!』
「ちょっ、ちょっと加弥!洸夜!何処行くんだよ!」
「心配するな霞!俺が追い掛ける!トュウ!」
「余計心配だ!」
しかし既に姿は消えていた
「・・・・・どうするの?」
深娜は足元の子猫を抱きかかえながら訪ねる
「あのアホに任せるしかあるまい。携帯だってあるんだ」
開いた携帯の隅には圏外
『・・・・・・・』
どうしよ
迷子の迷子の三人はさっき駄菓子屋で買ったアイス片手にバス停に座っている
「ちょっと待って、なんで二人のはキンキンに冷えたイチゴシャーベットで俺だけ若干沸騰気味なの?しかも渡されたのが箸!」
そんな問掛けに応えてくれる人はこの中にはいない。二人ともテンションガタ落ちだから仕方ないのです
「ふぃ〜〜霞〜〜」
「はぁ〜〜霞く〜ん」
「アツァッ!ホットイチゴがアツァッ!」
誰も寄り付きませんでした
一人を除いて
にゃ〜
「ん?どしたチビ」
にゃにゃ〜
「いや・・・お空を飛びたいって言われてもさ〜」
にゃンにゃ〜にゃ〜ニュム
「なんだよニュムって、って一人ツッコミするなよ」
「・・・あんた馬鹿?」
「酷いぞ深娜、冷たい視線で馬鹿って言うなんて」
にゃ〜にゃ〜!
駄菓子屋のベンチに腰掛けアイスを食べる二人。周りにはいまだに8匹の猫とチビが(頭の上から肩に移動)いる
「あいつら何処まで逃げたのやら」
「そうね。でも案外近くにいるかもね」
のんびりアイスを食べる二人だった
「で?何が分かりました?」
加弥の目の前の小さな水晶に手をかざす男、見た目は40手前、無精髭に小さなお洒落眼鏡をした男は神妙に頷き
「なんとまあ・・・・女難の相有りときたか」
男は笑いながら煙草に火を付ける
「なんと言うか、さっき占った子と同じ結果だね。相当モテモテなんだなその子は」
「笑い事じゃないですよ!なんとかならないんですか!」
加弥は近くにあったスタンドを掴み振りかかるが間一髪で慎が犠牲になった
「まあなんだろね。チャンスは五分五分かな。いかにして霞君にアピールするか。その場のシチュエーションがだいじかもね」
「・・・・・・?なんで霞の事知ってるの?」
「そりゃ〜可愛い愛娘からテレフォンがきたからね。京都の団子屋で働く裕米ちゃん裕々ちゃん。知ってるだろ?」
『えぇぇ〜〜〜〜〜!!!!』
「何そのあから様に年齢的にどうよみたいな視線!まだ39だよ俺!嫁は36だけど」
えぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!』
占い屋『流命』(りゅうめい)は久し振りに声だけで停電になった
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「可愛いわね〜」
にゃ〜ん
俺は非常に困っていた。ビックリするほど困っていた
何故襠雫さんがここに?
襠雫蓮翠。裕米さんと裕々さんの母親にして襠雫流居合術の生みの親でもある
「襠雫さん。どうしてこちらに?」
「ようちゃんと旅行中なの」
「ようちゃん?」
「ああ、深娜は知らないか。ようちゃんってのは襠雫さんの旦那さんで影月さん。占い師で結構当たるんだよ」
「そうだよ〜、ようちゃんに任せれば落としたコンタクトレンズからお菓子のシークレットおまけシールまで分かるんだから!」
えっへんと旦那を自慢する襠雫さん。相変わらずの旦那LOVEだ
「それはそうと霞ちゃん。ちょっとお願いがあるな〜」
既に期待に満ちたその眼の輝きは純粋です。断れない
「お昼まだだからお好み焼き作って。この店の台所使っていいみたいだから。材料も揃ってるしようござんすか?」
「ようござんすよ。断って前みたいにイモリの燻製とか送られたら困るし」
渋々お好み焼き作りが始まった
「・・・・・・」
にゃ〜ん
「か〜わい〜♪」
私に何をさせたいのよ
深娜は非常に困った。いくら霞の知り合いとはいえ面識のない人間と会話するなど私には到底出来ない
にゃ〜ん
「にゃ〜ん♪」
眼の前に飛び出してきたチビ。そしてチビを抱える襠雫さん
「・・・・なんでしょうか?」
「ん〜〜。悩み有りと睨んだ!お姉さんが相談のるよ。女の秘密は絶対もらさないもん。男の秘密は公開するけどね」
「なら霞の秘密は?」
「え〜っとね〜。去年旅館に来たときの寝言が『ネコ〜・・・何故あなたはマッシュル〜ム〜』だったかな」
意味不明ね
「そんでその前が『その肉球で世界を落とせる。いけ〜70mm猫パンチ!』だったかな」
布団の中でそんな寝言を呟く霞を想像し
「・・・・・・」
肩を震わせ笑いを必死に堪えた
「どお?なんなら更に前の年の寝言聞く?『猫一匹の命は慎7万人より遥かに上だ〜』だったね」
「ぷっ!」
不覚にも声が出てしまった。そんな私を下から覗き込みにっこり笑う襠雫さん
「どう?相談言う気になった?多分今深娜ちゃんは自分の心境の変化に戸惑ってるんじゃない?今まで知らなかったモヤモヤに困ってるんじゃない?」
何故だろうか。何故私は襠雫さんが霞と同じく感じてしまうのだろうか。霞の前なら笑える。そして襠雫さんの前でも笑えた。分からない。分からないけどこの人は信用出来る気がする
何故聞かれても明確な答えは思い付かないけど・・・・・・・私はこの人になら相談出来る気がする
「・・・・・・・!」
私は意を決して全てを話した
「さ〜てどうしたモノか。災い遮る物、時過ぎて遅しとでたが」
影月は眼の前で今にも泣きそうな顔の少女を眺める。霞君も鈍感過ぎだが彼女達も奥手過ぎたか
「霞盗られる〜、深娜ちゃんに盗られる〜」
頭を抱えイヤイヤと頭を振る加弥となんか凄い落ち込んで部屋の隅に行っちゃった洸夜
さてさてどうしたものか
「・・・・・・仕方ない」
影月は立ち上がり奥の部屋の棚から小さな気箱を二つ持ってきた
「お二人さん。ちょいこっち来なさい」
手招きして二人を椅子に座らせる
「この中には小さな貝殻が入ってる。いいか、今夜浜辺でもし霞君に会えたら渡すといい。君達の願いを聞いてくれるはずだ。但し霞君が同じ物を持っていたら願いは聞いてくれないからね。つまり自力でガンバみたいな?」
「貰っていいんですかこの貝殻!」
「いいとも。俺はレディーにはスウィ〜ト並に優しいから」
「よく分からないけどありがとうございます!」
二人は慎を蹴って踏みながら走り去った
「もっと!もっと踏んで!もっと蹴って!」
影月は一応病院に電話した
「ふむふむ〜、なるほろね〜」
駄菓子屋にある酢ダコをモチュモチュ食べながら神妙に頷く襠雫さんは更に10円チョコに手を伸ばす
「あれだね。多分恋じゃない?」
深娜はその一言に驚き否定した
「それは違いますよ!ただ霞が理解出来ないだけで恋とかそんなのじゃ―――」
突然口にチョコを押し込まれた
「深娜ちゃん、否定の言葉を吐くのは簡単だけどその後も吐き続けなきゃいけないんだよ?それくらいなら何も言わないでいるのも一つの方法だよ?」
更にチョコを押し込み口を塞ぐ
「それに分からないもんなんだよ。恋なんて自覚ない事が多いんだよ。私もそうだったし♪あははははっ」
笑いながら隣に伸びてる紐を引っ張る
ガチャ〜ン
「ノォォォ!!皿がぁぁぁぁぁ!」
にゃぁぁぁぁムニィ
「さ、時間が延びたから話そうか♪」
深娜は少しこの人を疑うことにした
結局散々駄菓子を食べさせられ霞のお好み焼きを食べ店を後にした
そして襠雫さんに勧められた店の裏の占い屋に足を運んだ
「って影月さん!何店放っらかしで沖縄きてるんすか!」
「おお霞君!超久しぶり!相変わらず女に不自由ないみたいだがぷらあが!」
近くにあったスタンドで殴っておいた
「痛いぞ霞君、武器は反則だぞ」
「黙れ。蓮翠さんとの結婚に反則技使った癖に」
「なんでそーゆー昔のネタ暴露するかなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
泣きながら掴みかかる影月だがすぐに止めた
「まあいいや。来たんだし占ってやるよ」
あっさりと泣きやみ席に座る影月
「霞君、秘密厳守ついでにお茶を頼むよ」
「へいへい分かった。わざわざ薄ーくしてやる」
そう言って奥に行った
「さてさて深娜さんだったね。占いという名目の相談事やってるけど何かあるかい?恋とか分からない感情とかモヤモヤとか」
笑いながら影月は小さな気箱を脇に置く
「・・・・・・何か知ってるんですか?」
「占師は意外に物知りなんだよ。例えばさっき嫁とお話してるとかも」
そう言って脇に置いておいた木箱を押し出す
「まあ無駄に色々言っても深く考えたり勘違いしたりするから簡単に言うよ。この箱の中身を持って夜に近くの海岸に行くと良い。但し時間は9時。そうすれば霞君に会えるから」
「なっ、なんでそんな事を!なんで霞に会わなきゃ―――」
しかし次の言葉は突き出された指で呑み込んだ
「誤魔化しや否定は本心を濁らせる。何も語らないのも一つの方法だよ」
笑った影月は無理矢理箱を渡し席を立つ
「それじゃ俺は退散するよ。多分霞君の入れたお茶には毒物が入ってると思うから」
そう言ってさっさと店を出ていった
残された深娜は渡された木箱を開けてみた。中には小さな貝殻を繋げて作られたブレスレットが二つ
「・・・・・・なによこれ」
非常に困った深娜は取り合えずしまっておいた
流石に8時の海岸は静かだ。裸足で歩く砂の上は昼間のような暖かさはなくヒンヤリと心地良い
月明かりに照らされて輝く波と潮の香り。空には星が輝いていた
誰もいない海岸に腰を降ろし海を眺める。何もかも忘れる程に美しかった
「一人で眺めるのも悪くないな」
「あら、なら私は邪魔だったかしら?」
そんな独り言に答えが帰って来るとは思ってなかった
振り向く先には深娜が立っていた。白のワンピース姿は月明かりでいつも以上にとても綺麗に見える
「何でここに?」
「貴方も同じじゃない。外出時間は等に過ぎてるわよ」
「俺は心配ない。先生落としてるから」
「私はお嬢様に会うって伝えてるから問題ないわ」
そう言って深娜は隣に腰掛ける。いつもある緊張という悩みがふっ切れたのか、心にゆとりが出来たのか
深娜の表情はいつもより柔らかい気がした
「あの夫婦に何か言われたのか?」
「別に。ただのお節介じみた助言よ」
「あの二人は京都髄一の占師だからな。もう嫌ってほど情報筒抜けなんだよ」
「だから寝言も知ってるのね」
・・・・・・なに?
「・・・・深娜さん・・・・・」
深娜は刻々と語りだした
三分経過
「出来るだけの事はしますので何卒内密にして頂けないでしょいか」
その場で頭を下げ小さな希望に賭けてみた
「いいわよ」
案外あっさり承諾してくれたのがたまらなく嬉しかった
「本心を聞かせてもらうわ」
深娜の眼に強い光が宿っている
「私はお嬢様の為に今彼方の家に住んでるわ。ゼオンを見付けるまでの期間だけでも彼方は私を家族と言ってくれた」
俺は深娜の強い視線を見据える
「それは来週かもしれない。半年先かもしれない。来年かもしれない。いつあの家を出ていくか分からない様な状態の私を今まで通り家族と言ってくれる?」
深娜はやはり俺の目を見続ける。強い意思の中に不安を隠すように問掛けてくる
「彼方は最後まで私を家族と言ってくれる?」
「バカか」
俺は素早く深娜にデコピンをかましてやった
「いたっ」
「わざわざ聞かなくてもいいだろ。むしろ何も言わないで出てくような真似したらひっぱたいてでも連れ戻してやる。でもってこってり説教してやるよ。礼儀の知らない家族を叱る為にな」
忍笑いの後視線を海に向ける
「いつまで居ようがいつ出ていこうが関係ない。お前は俺の家族の一員だ。変な心配はするなよ」
深娜の表情は分からない
「霞・・・・・」
長い沈黙の後、深娜は口を開いた。それは自分の心に偽り無く、そして自分の心の中を精一杯に表現した
「いつまでか分からないけど・・・・彼方の隣にいてもいいの?」
「いいさ。咎める理由も無いし。それに家族がいなきゃなんか寂しいだろ。少しは信頼しろよ」
「・・・・・うん」
目を閉じ深娜は思う
私はまだ霞を信じきれていなかった。こんなに私を信じている人を信じきれていなかった。あの人の様にいつまでも優しく、いつも厳しくあったあの人の様に
私はまだ霞を信じきれていなかった
「霞・・・・これ」
それは影月さんがくれた二つのブレスレットの一つ
「・・・・・今日なんかあったっけ?」
「いいの。ただのプレゼントだから」
深娜は半場強制的に渡しそっぽ向いた
そんな今までで一番深娜の可愛らしい奇行に思わず笑みが溢れる
腕に付けたブレスレットは月夜に反射し輝く
「ありがと。大切にするぞ。どうせ影月さんの事だから同じのあるんだろ?」
深娜の腕には同じものが輝いている
「ははっ、やっぱりな」
深娜は恥ずかしそうに手でブレスレットを隠し頬を朱に染める
「なら俺からもちょっと早めの旅行プレゼント」
それは影月さんに言われてお茶を入れに行った時テーブルの上に手紙と一緒に置いてあった物
珊瑚を削り羽を型どったシンプルなネックレス
手紙には『夜の浜辺で最初に会った女性にあげるといい』とだけ書いていた
「ほれ、付けてやるからちょっと後ろ向け」
素直に従う深娜の首にそっとネックレスを着ける
深娜は恥ずかしながらもその姿を見せてくれた
「ホントに似合うな。浴衣姿も良かったけどやっぱ綺麗だなお前は」
笑いながら素直な感想を言った俺だが深娜は少しムスッとした感じで睨んでくる
え?俺地雷踏んだ?
すると深娜は少し強めに体を預けてきた。左腕にショルダータックルは効いた
「・・・・深娜さん?」
「少しこのままでいて。疲れたから少し休ませて」
「・・・・・あいよ」
月明かりと波の音だけが。相変わらず変わりなかった
「そう言えばお揃いのブレスレットなんて恋人みたいだな」
笑いながら軽ーく放った言葉に物凄く敏感に反応した深娜は恐ろしい速さで掴み掛りガックンガックン振り回し
「違うからね!そんなんじゃないんだからね!」
「わわわ分かってる!そんなムキになるな!」
月夜の浜辺で小さな取っ組み合い(一方的)が始まった
そんな光景を眺めているのは勿論加弥と洸夜である
「はあああああぁぁぁぁぁぁぁ!何あのラブラブ感!何であんなにロマンチックなのよ〜〜」
「深娜さん酷いよ!やっぱり霞君好きなんだよ〜」
双眼鏡を使う加弥
「って言うか霞の腕のやつ私達が貰ったのと同じじゃない?」
双眼鏡を借りて洸夜も拝見
「本当だ!影月さんがくれたのと同じだ!」
二人は心の中で叫んだ
『影月さんのバカァァァァァァァァァァァァァァァァァァ』
ゾクッ
「どうしたのようちゃん?」
「いや、分かってて聞くって酷くない?」
占い屋命流の居間にて一組の夫婦は寄り添うように座っている
「深娜ちゃんホント純情だね」
「そうだね。昔の蓮翠さんと同じくらい」
「そんな純情な私に夜這いかけた挙げ句出来ちゃったで駆け落ちなんてしたのは誰だったかな〜」
「酷いぞ蓮翠さん!何事も無いようにサラッと言わないでよ!あの頃僕は若かったの!」
「まあいいじゃない。それより強引に話変えていい?」
「いいよ」
「あれって良かったと思う?」
「それは分からないよ。分かるのは深娜ちゃん本人だけだ。最もそう感じるのはまだ先の話だけどね」
「彼女は余りにも運が無さすぎたわ。彼女の未来には大きな虚空しか見えない」
「それでも彼女は必死に生きなきゃいけないんだよ。あらゆる負を背負わなきゃいけないんだよ」
「それでも彼女は決して認めはしないだろうね。己の心のままに意地になって逆らうしか選ばないでしょうね」
「たがら彼女は強いんだろう。誰にも譲れないモノを心に秘めているんだから」
「それが誰も望まないモノであってもね。可哀想だよ。なんで深娜ちゃんがこんな未来を背負わなきゃいけないんだろ」
「それが彼女の未来だからさ。それに彼女の隣には霞君が立っているよ。同じくらいの負を背負っている霞君がね。最も霞君は既に背負って歩き出してるんだけどね。耐えれるかな?」
「そりゃー愛娘が認めるカスミンだよ。うまーく乗り越えるよ」
「うわっ、夫として軽く嫉妬心全開!呪ってやろうかな霞君」
「そうなったらこの書類に判子ね」
「さあ愛しい妻、今夜もイチャイチャしようじゃないか。愛娘にカワイイ弟妹が出来てもご愛敬で許してもらおう」
「きゃっ♪軽くセクハラ言ってる狼ようちゃん。捌いちゃうよ」
にゃ〜ん
「おうチカちゃん(本名、近松文座えもん。雄猫)ナイスタイミング!ご苦労様。猫の誘導ありがとね」
にゃ〜にゃ〜
「うんうん。偉い偉いしてあげるよ(なでなで)」
にゃ〜
「チカちゃんもやっぱ心配か?」
にゃにゃにゃ〜
「はいはい。そんな事より晩御飯だもんね。ミルク持ってくるから待っててね〜」
「なあチカちゃん、あの二人は乗り越えられるかな?」
にゃ〜
「そうだね。今見える未来は所詮台本の一部だもんね。アクシデントはいつ起こるか分からないもんね」
にゃにゃ
「はいはい蓮翠さんにもしっかり言っておくよ」
「それにしても・・・・・・深娜君は9時の予定をやっぱり8時に行くとはね。やっぱり好きなのかな霞君の事が」
シャーー!!
「ノォォォォォォォチカちゃ〜ん!まさかのシャイニングウィザード!!蓮翠さ〜ん早くミルク下さ〜い」
「チカちゃ〜んミルクだよ〜」
にゃ〜♪
「霞〜その腕のやつどこで買った?」
「ん?これか?多分特注だぞ」
「ん〜〜沖縄で新しい愛人とは貴様もなかなか強くなったな」
月夜に照らされとある一室にて、今まさに惨殺ショーの開幕の鐘が鳴った
ぐぼっ!ヅガッ!ギュッフ!ブゴッ!霞!止めちゃってくれへんか!
だ〜め♪
ギャ〜〜!マサかの人格変化!
霞―いかがでしたか?楽しんで頂けたら幸いです
作―それでは今年も皆様が良い年でありますことをキャラ一同願っております
霞―それでは今年も
一同
『よろしくお願いします!っぴ』
典時―こらぁぁノイン!なんだ最後の『っぴ』ってのはぁぁぁぁ!
ノイン―ヒイィィィ!典時が怒った〜〜