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15・夢うつつ、時は冷たくして未知なる風を運ぶ

「かすみなんてほっといて行こうぜ」

「あいつ暗いよなー」

「ともだちいないくせに」

何回、何十回と言われた言葉

小学3年の俺には友達なんてほとんどいない。つうかいないに極限まで近い

欲しいとも思わなかったしいらないとも思わない。

ただ俺の周りには友達がいない。それだけだった


毎日の様に本ばかり読んでいた俺は周りから浮いた存在だったのだろう

それに本を読むことがなにより好きだった。図書室の本も4割は既に読みきってしまった。自分の楽しみを邪魔されるのは嫌だったがそれでいじめられるのも嫌だった。

常に波風立てないよう静かに過す学校生活をおくっていた。

唯一俺にまともに接してくれるのは大甼加弥だった


二年に上がって数日、俺はその頃から本ばかり読む毎日だった。

いつもの様に給食を食べ終え本を読んでいると妙な視線が右から来たのだ。そっちを向いて見るとクラス一元気な加弥がこちらを見ていた

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

共に無言で見つめ合う

「・・・・何?」

「・・・・楽しい?」

「何が?」

「本」

頷く俺

加弥はふーんと言って隣に歩いてくる

「何の本?」

「アンネの日記(日本語版)」

「???、外国人の友達?」

「違う。昔の人の日記」

またふーんと言った後本を覗きこむ。しかし漢字だらけで全く読めないらしく直ぐに目を反らした

「楽しい?」

「楽しい」

初めての会話がこんなんだった。



それ以降友達と呼べる友達は加弥だけだった。慎は中学で加弥から紹介される形で知り合った。今では数少ない親友だ

慎は会った時から中々素晴らしい肉体だった。何故鍛えてるのか聞いたら

「だって歳とって腹出たら嫌じゃん」

それだけの為に日々鍛えてるのか

慎とは以外にも三年間同じクラスだった。おかげで寂しいと感じることは無かったし人付き合いも順調だった。

きっかけは大事だとこの時実感したものだ



2年の春先頃から加弥は結構人気が出てきた

人付き合いの良さと明るく活発、男女共に同じく接する。そのためか、しょっちゅう誘われたり告白されたりの毎日だった。

確か9回告白したメガネデブがいたな

見事玉砕だったが


「またラブレターか・・・・・・」

加弥は溜め息混じりに下駄箱のラブレター5通を何の躊躇もなくゴミ箱へ

「いいのか?」

「いいのいいの、当分興味ないから」

「良かったな霞、とられなくて〜」

俺はオレンジジュースを飲みながら

「そっくりそのまま返してやるチビマッスル」

「なんだとキリン野郎」

この辺りからあだ名がついた


いつも三人で帰るのでたまにクラスの連中に勘違いされるものだ

お陰で先輩に絡まれることもそこそこあった。と言っても精々釘を刺される程度かこ突かれる位だった。

だから俺も少々油断していた



何時の時代にも学校にバカなグループが存在する

しかも悲しい事にそこの頭があのメガネデブだったとは

「二年ボウズ、てめーいい加減にしろよ」

「すいませんすいません」

この頃から謝り癖がついていた。穏便に済ませるのが俺の流儀だからだ

8対1、体格差も象対キリンじゃないか

勝てぬ戦いは避けたいのに

いきなり手下Aのボディー、腹の中が戻るのかと思ってしまった。

堪らずしゃがむ俺に蹴りやら殴りやら輪ゴムやら好き方だいやってる。

その内終るさ

それだけを考えひたすら耐えることに徹した

喧嘩嫌いだしさ、その内なんとかなるよな


既に15分が経過し、手下は交代しながら未だに殴り続ける

頭はさっきから輪ゴム銃でチマチマ狙ってきてる。

振られる原因はこれか

更に10分経過

突然痛みが止んだ、別に麻痺したとか脳内麻薬出たとかじゃないよ。

「あんたたちいい加減にしたらどうなのよ、20分近く殴ってまだ足りないの」

ならもっと早く止めるなり先生呼ぶなりしてよ

「あ、あれって確か兄貴を振っぷれるぅぎゃー」

余計なこと言わなきゃいいのに

「うるせえな、女は引っ込んでろ」

「男女平等の社会でそんなの通じるかー」

加弥のストレートは手下Bを一撃KO、更に裏拳でC、D撃破

強いよ加弥、逆らわないようにしよう


加弥は異常に強かった。しかし俺は加弥を巻き込むのは嫌だった。最初の友達を怪我させるなんて嫌だ

だから流儀を捨てた

出来るだけ加弥を逃がすために注意をこちらに向けた


おかげで袋叩きにされた


「あんたたちいい加減にやめな」

「うるせー」

手下はただ突き飛ばしただけだったのだろう。しかし勢いが違った突き飛ばされた加弥は転ぶ拍子に階段にもろにぶつかった。頭は打ってないにせよあれだけ勢いがつけば痣なんてすぐにできる



ブチッ







10分後




ボロボロだ

あ、俺がだよ


泣いたなー

あ、俺がだよ


土下座したな

勿論俺がだよ




「加弥、大丈夫か、怪我はないか」

見た目は大丈夫そうだが俺は分からんから保険室に運ぶか・・・・・・・・


「重い・・・・」

「誰が重いって」

「ひっ」






「代々木センセー」

「あらあら加弥ちゃんどうしたの」

保険室に引きずられ入ってきたのは物体X

「センセ、これよろしくー」

「あらあら、人じゃないものは引き受けれないわよー」

「ならどうすればいいの」

「んー、今用務の海部(あま)さんが焼却してるからそこに持っていったら」

「ハイハーイ」







「あん時後3分位起きるのが遅かったらやばかったろうな」

「ふーん、起きなきゃよかったのに」


「深娜、酔った勢いでもそれを言っちゃだめだ」

「別にいいじゃない。それからウォッカ一気飲みね」

「へいへい、予想通りでなにより」

グラスに注がれたウォッカを軽く飲みグラスを突きつける

「お前も飲むよな?」

「ふん、これるらいなんてころないわよ」


もうなに言ってるか分かりづらいよ

並々と注がれた酒を飲みほし虚ろな目で

「あんたも中々大変だったのね」

「今でもそうだよ」

皮肉のつもりで言ってやった。しかし予想が外れた

「そうね」

霞は見てしまった

ほんの少しだけだが口元が緩みほんの少し笑顔になっていた

か、可愛い

不覚にも心がグラリと揺れてしまった

「人の・・・・生きる道・・なん・て・・・・・・辛いものばか・・・・・・りよ・・・・・・・・・・ねえ・・・・・・・・・」

最後の方は聞き取れなかった

静かに寝息をたてる深娜

辛い過去でもあるのかよ、あんま深く考えるな。辛かったら吐き出せ

一応俺は家族って思ってんだからよ




先塚のカメラが作動してなかったか調べた後、慎を加弥の足に抱きつかせる

後は皆に毛布を掛けて片付けを済ませる



明日の朝が楽しみだ




《余談》

深娜の笑顔は勿論ケータイに収めた。

いじめられそうになった時の奥の手に使うつもりだ

皆、言っちゃ駄目だよ

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