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別クラスの八神さんは今日も教室で愛を叫ぶ

作者: 朝日エール
掲載日:2026/05/14

 チャイムが鳴り、一番長い休み時間。

 嬉々として教室から飛び出す生徒たちをよそに、俺のクラスは、動かない。

 にやにやとしたみんなの視線が痛い。


 俺は、この時間が一番嫌いだ。なぜなら――



 ばん!!! と扉が大きく開いた。



一色(いっしき)くん!! 好きです!! 付き合ってください!!!」



 別クラスの八神(やがみ)さんが、告白しにやって来るからだ。




「すみません」


 予定調和のようにそう告げると、ああ――……! とクラス中からため息が漏れる。


 一色まじ女子の敵、みたいな鋭い女子からの圧。

 一色どんまい、みたいな男子からの憐みの目。


 そして、しゅん、とわずかに眉の下がる八神さん。


 ……いや、そうなるだろ、こんな公衆の面前で告白とか。公開処刑すぎるだろ。



「今日も、好きアピールしときなよ、八神さん!」

「でも『顔かっこいい』『優しそうなところ』『声も好き』『話し方も好き』辺りは聞いたし、他にネタある?」

「じゃあ、いつ好きになったとかは?」


 八神さんを焚きつけるクラスの女子たち。楽しそうだな、おい。

 すると八神さんは、いつ……、と考え込んだ。

 

「捨てられてた仔猫をよしよししてて、拾ってた時から好きです!」

「一色おまえ、まじ?」

「おまえ仔猫よしよしとかすんの?」

 

 友人たちが引いたような目を向けてくる。

 言うなよそういうことをみんなの前で!


 睨むように見たら、ぽっと頬が染まった。

 違う違う、色目向けたとかじゃないから。


 すると友人の一人、高野(たかの)が俺の肩に身体を預けながら八神さんの顔を覗き込んだ。


「じゃあ俺と付き合おうよ」

「…………」

 

 え……誰これ……? みたいな顔で固まる八神さん。

 どうやら俺しか見えていないらしい。

 女子たちが一斉に吹き出した。


 今日もうちのクラスは大いに盛り上がっている。

 クラス一丸となるのはいいことだ。俺の話じゃなければ。




 俺が八神さんについて知っていることは少ない。

 告白ついでに叫んでいた自己紹介を覚えてる限りで総合すると、


『本名八神(はるか)、O型、帰宅部。趣味は手芸。得意科目は国語、苦手科目は体育。猫好き、虫嫌い、購買で好きなパンはクリームパン、好きな食べ物はいちご』


 くらい。

 見た目は割と普通。小柄、童顔。長めの黒髪は毎日結び方が変わる。

 まあ多少かわいい。でもみんなの前で告白してくる辺り、頭のねじは多少飛んでいる。ほんとやめてほしい。


 高校二年になって少しした頃から、この忌々しい儀式は始まった。

 (そして今日、俺が仔猫を拾った後であることも発覚した)


 ちなみに。

 八神さんは2-A。文系クラス。隣の校舎南端。

 対して俺は2-H。理系クラス。この校舎北端。

 対極の位置。なのにそんな毎日遠征してくる?



 移動教室。

 俺は忘れものに気付き、一人教室へ駆けこむ。

 慌てて机からノートを引っ張り出し、顔を上げた瞬間。


 向こうも移動教室だろうか。

 廊下で、ぽかんと口を開いたまま固まる八神さんと、目が合った。


 隣の友達が、とんっと肩を押す。

 はっと我に返ったらしい八神さんが、窓から身を乗り出した。


「おっ……驚いた顔も好きです!!」

「すみません」

 


 俺は「すみません」と答え続けていた。




「うっらやましいなあー一色……!」


 体育。

 隣でしゃがみ込みながら、高野が悟りを開いたような声を漏らしていた。


「……。おい高野。あと三周」

「くっそ――……。何で八神ちゃんはこんな冷たい男が好きなんだよ……! 猫? 猫なでなでしてたから?」

「言うな、それ」

「どこで拾ったの? いつ?」

「いいだろ俺の話は」

「何でだよ」


 膝に手を当てて息を整えながら、ちらっと高野を見た。


「好きなの? 高野おまえ」

「そういうわけじゃないけど」

「最低か」

「俺も、女の子に熱烈に好かれたい……!」

「先行くぞ」


 めそめそと顔を覆う高野を無視して、俺は走り出した。


 長距離はひたすらトラックをぐるぐる走るだけで、好きじゃない。

 息苦しさが増すのみで変わらない景色。

 肺に大きく息を吸い込みながら顔を上げ、ふと校舎を見た。

 運動場側である東棟南端のクラス。2-A。


(……あ)


 窓際の一番後ろ。

 毎日見すぎて、すっかり遠目からでも認識できるようになった、その顔が、こちらを向いていた。

 俺が見たことに気が付いたのか、ばっ! と立ち上がる。


 そして八神さんは大きめの紙を二枚、高々と掲げた。


『き』『好』

 

「……あ――……書道……?」


 後ろから先生に教科書で頭を小突かれていた。

 いつ書いたんだよ。




 ある日の帰り。


 ガシャンガシャガシャガシャン!!


 と、ああ絶対倒れただろ自転車、という金属のぶつかり合う音が響いた。

 ちらっと覗くと、案の定。


 駐輪場で自転車がドミノ倒しのごとく派手に重なっている。

 そしてその横。

 八神さんが、置物のごとく固まっていた。


 その顔は、途方に暮れているというよりは、何が起こったの? 的な顔。

 八神さんは、感情が顔に出るみたい。


 そして突如、おろおろと慌てだした。

 目の前の自転車を引っ張り上げてみるものの、カゴやらタイヤやらにハンドルが刺さり、動かない。

 小さな手で、力いっぱい引っ張る。


「いや、一台ずつ起こしてかないと無理だから」


 端の自転車を起こしながら、そう言った。

 丸く見開かれる瞳。


 この間、移動教室の時会ったみたいに、八神さんはやっぱり固まっていた。

 

 普段教室で愛を叫ぶくらいなら、そこで助けを叫べよ、と思う。

 ため息をつきながら、二台目を起こした。

 

 しばらくぽかんとしていた八神さんは、慌てて自転車を起こし始めた。

 無言で恥ずかしそうにしながらも、たまにちらちら向けられる視線はとても煩い。

 

 いやその借りてきた猫みたいな態度なんなの? 別人格?



 そして、薄々気づいていたこと。



『捨てられてた仔猫をよしよししてて、拾ってた時から好きです!』

 


 拾ったのは、家の近くの川辺。


 家が実は、ものすごく近いんじゃないかということ。


 

 ――案の定、帰り道は一緒だった。


 

 すっかりオレンジ色になった空を見ながら、あーいい風、と小さな歩幅に合わせて歩く。

 八神さんの、借りてきた猫は継続中だった。


 さっ

 きゃ……

 さっ


 見上げては勝手に赤くなって逸らしつつまた見上げて。

 やっぱり煩い視線。


 さっ


 と見上げた瞬間、目線を合わせる。

 ぴし、と固まると、瞬時にカバンで顔を隠してしまった。


 そのカバンのキーホルダーが揺れた。


 猫だ。


 しかも、見覚えある。


「この猫」


 そう言うと、八神さんの肩が一度弾んだ。

 カバンの上部から、ちらりと顔を覗かせる。


「一色くんが……拾っていた仔猫ちゃんを……作ってみました。羊毛フェルト」


 趣味は手芸。

 そう叫んでいた。確かに。

 いやでも。妙に上手いな。


 一度見ただけで、ここまで鮮明に再現できるのだろうか。

 見すぎだろう。

 仔猫にしても。

 体育の授業中にしても。



「何で俺なの?」

「え」

「何で教室でばっかり言うの?」



 ずっと、聞いてみたかったことだった。



 すると、あわわわわ……! ときょどり出す八神さん。

 カバンを盾にしながら、絞り出すような震える声で告げた。



「恥ずかしすぎて、みんながいる時しか言えないんです……!」



 え?



「わ、わたし、極度の恥ずかしがり屋で…………でも、みんながいると、言えるから……」


 そんなこと、ある?


「ご迷惑かもと……思いつつ、伝えたいことは、いっぱいあって。みんなの前ならと……どうしても言いたくて」

 

 嘘だろ。

 俺は、開いた口が塞がらない。



 そんな……――そんな、真逆なこと、ある?



「でも、私、ほんとに、仔猫に話しかける声が優しい一色くんが、えと、拾ってあげちゃう優しい一色くんが……あの」


 なかなかその先が出ない。



「今言わないの?」



 カバンから、ようやく顔が見えた。

 中身がどうなっているかわからないくらい、握りつぶされるカバン。

 意を決したように息を吸うと、大きく顔を上げる八神さん。


 夕日なのか照れなのか、その顔は真っ赤に染まっていた。



「……一色くん、あ、あの、好き……です。付き合ってください……!」



「いいよ」


 え、と固まる八神さん。



「付き合おっか」



「……???」


 八神さんはぽかんと口を開いたまま、頭上には疑問符が浮かんでいる。


「俺逆に、人前で自分の話とかしたくないっていうか……話題が自分中心になるのが苦手で。人前で話すのも」


 わだいがじぶんになるのがにがて……と呟く。


「みんなの前だと恥ずすぎて。みんなの前で告白されても、答えられなくてごめん」

「……!?」

「俺、結構八神さんかわいいって思ってたし、一生懸命な感じも、すごい見てくれてるところも。何か猫みたいに固まるとこもかわいいし、ずっと一途なのも嬉しいっていうかかわいい――」

「――いっ……いっしきくん!!!」

「え?」

「べ、別人格?」


 そんなこんなで、付き合うことになった。




 ――もちろん、みんながいないと素直になれない八神さんは、それでも毎日教室へ愛を叫びに来るんだけども。


 すみません、かわいいんで、二人だけの時にしてもらえませんか。




最後までお読みくださりありがとうございました!

コミュ障同士のすれ違いラブコメでした。きゅんきゅんしてくださったなら幸いです。


八神さんかわいい!

クラスで一色くんからかいたい!

と感じましたら、星やブクマで評価していただけると嬉しいです。

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