表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

桜が散るまでの距離

作者: Uki
掲載日:2026/03/31

 春の風は、少しだけ意地が悪い。せっかく整えた前髪を崩して、視界を曖昧にする。


「前見えてる?」


 隣から君の声。


「見えてる」


「嘘」


 そう言って、君が手を伸ばしてくる。指先が、僕の髪に触れる。軽く整えるだけなのに、それだけで心臓がうるさくなる。


「はい、直した」


「……ありがと」


 君は満足そうに笑う。距離が近い。近すぎる。


 校門の前、桜がちょうど満開だった。


「写真撮ろうぜ」


「なんで」


「記念」


 君はスマホを構える。当然みたいに、肩を寄せてくる。


「ちょっと」


「入んねーだろ」


 そう言いながら、さらに近づく。肩が触れる。体温が伝わる。逃げたいのに、逃げたくない。


「撮るぞ」


 カシャ、という音。そのあとも、君は離れない。


「……もういいでしょ」


「まだ」


「なんで」


「もう一枚」


 理由になってない。でも、君は笑っている。その顔を見ると、何も言えなくなる。


「ほら、ちゃんと見ろ」


 そう言って、僕の顎を軽く上げる。近い。近すぎる。


「……君さ」


「ん?」


「距離、近い」


「今さら?」


 当たり前みたいに言う。


 桜の花びらが、ふわりと落ちてくる。君の肩に乗る。思わず手を伸ばして、それを払った。指が、触れる。一瞬だけ止まる。


「……なに」


「いや」


 なんでもない顔をする。でも、少しだけ耳が赤い。


 君も、分かってるんだろうか。この距離のこと。この空気のこと。


「なあ」


「なに」


「また来年も撮ろうな」


 さらっと言う。未来を当然みたいに含める。


「……うん」


 それだけで、十分だった。桜が散るまでの、この距離。近すぎて、でも壊れなくて。言葉にしなくてもいい関係。僕は、少しだけ思う。このままがいい。でも、いつかちゃんと名前がつく日も来るのかもしれない。そのときまで、この距離で、いい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ