駄目でしょあんなの。
「……お待たせ、お姉ちゃん。そ、それじゃご注文をお伺いするね?」
「……うーん、それじゃあ……うん、今日は厚焼き玉子のホットサンドとブレンドコーヒーかな」
「あ、ありがと。そ、それじゃ、ちょっと待っててね」
その後、そんないつものやり取りを終えやはりそそくさと去っていく鴇杜くん。まあ、今日はも何もいつもこの組み合わせなんだけども。他のも絶対美味しいのは分かってるけど、それでも最初に口にしたこの二つがどうにも忘れられなくて。
……ただ、それはそれとして――
「――ねえねえ、鴇杜くん。今度、お姉ちゃんと遊びに行こうよ!」
「……あ、その……ごめんね、お姉ちゃん。そういうことは、ほんとに駄目で……」
「ええ~、そんなつれないこと言わずにさぁ! 鴇杜くんももう大人なんだし、お姉ちゃんがすっごく楽しいとこ連れてってあげるからさぁ」
カウンターへと去っていく鴇杜くんを捕まえ、上目遣いの猫なで声で彼へと話し掛ける女の人。それも、彼の華奢な腕にぎゅっとしがみつきながら。……いや、駄目でしょあんなの。相手はお客さんだし……そもそも、たぶん気弱な鴇杜くんは強く言えないのだろう。……まずい、胸の奥から、こう、何ともドス黒い感情が――
……でも、どうにかぐっと抑える。ここで私が出しゃばっても、彼やお店に迷惑を掛けるだけだろうし……それに――
「――悪りぃね、お客さん。そういうの、うちの店じゃ一切禁止してんだわ。あんまりしつこいようなら出禁にするしかねえんだが、それでもいいか?」
すると、ほどなく出てきてそう告げるのはオールバックが似合う黒髪の男性。彼は浦崎愛斗さん。鴇杜くんとは異なるちょっとワイルドなタイプの美男子で、彼を一番の推しにしているお客さんも少なくな……いや、そういうお店じゃないんだけども。
「……な、なによ! 私は客よ! なのに、その態度はどうなのよ! ……そうよ、店長! 店長を呼びなさいよ!」
すると、負けじとそう言い返す女の人。……いや、確かにお客さんに対する態度としては良くないかもしれないけど……でも、客だからといってなんでも許されるわけじゃないよね? ちゃんとルールは守らなきゃ。
すると、ややあってゆったりとした雰囲気で二人の下へとやって来たのは鮮やかな金髪を纏う秀麗な男性。鴇杜くんとも愛斗さんともまた異なる落ち着いたタイプの美男子で、彼を一番の推しにしているお客さんも……いや、この説明はもう良いか。ともあれ、柔らかな微笑でお客さんを見つめる金髪の男性。そして――
「――お客さま、大変申し訳ありません。副店長の三上颯也と申します。この度は、従業員の不躾な口調を深くお詫び致します」
「そ、そうよ! 客に対してほんと失礼ったらありゃしない! 副店長、ってのが気に入らないけど、とにかくちゃんと教育し直しなさ――」
「……ですが」
「……へっ?」
「私がお詫びするのは、あくまで不躾な『口調』に関してです。彼のお伝えした内容に関しては、私の意思と異にするところは皆目ありません。尤も、私どもとしても、折角ご来店くださったお客さまにはなるべく誠実に応対したいと思っています。なので……あとは、お分かりですよね?」
「……わ、分かったわよ」
「ご理解ありがとうございます、お客さま。この後もごゆるりとお楽しみください」
そう、柔和な微笑のまま告げる颯也さん。だけど、それが決して和やかな微笑でないことは傍からでも十分すぎるほどに伝わって。なので、直に見つめられているお客さんからすれば……うん、まあ怖いよね。
ともあれ、萎縮した様子で鴇杜くんの腕から離れるお客さん。そして、それを見届けた後ゆっくりと去っていく愛斗さんと颯也さん。そして、そんな一幕を見届けた後ほっと安堵の息を洩らす私。……ふぅ、良かった。
さて、改めてだけど鴇杜くんは可愛い。その可憐な容姿はもちろん、口調から仕草といった何から何まで、それはもうめちゃくちゃ可愛い。なので、そんな彼は言わずもがな頗る人気で。そして、私の推しももちろん……えっ、聞いてない?
とは言え、大半のお客さんは良識ある方々なので何も心配ないのだけど……まあ、時折ああいう人も出てきてしまうわけで。
そこで、先ほどのお二人の出番というわけ。先に愛斗さんが出てきて、その後に颯也さんというさきほどの流れで。愛斗さんのちょっとキツめな口調で収まればもちろんそれで良いし、実際にそういう場合が大半で。
だけど、さっきのような――お客さんがすんなり聞き入れてくれない場合もやはりあるわけで。そこで、颯也さんが登場――愛斗さんとは打って変わって柔らかな物腰に油断したところに柔らかな笑顔のまま圧を掛けるという、まあ中々に怖い方法で。……まあ、だからと言って悪いとは全く思わないけども。




