告白
「……その、本当にありがと、鴇杜くん。迷惑しか掛けてないのに、もう一杯コーヒーもらっちゃって」
「ううん、気にしないでお姉ちゃん。折角来てくれたんだし、目一杯喜んでほしいから。……その、良かったらまた帰って来てくれる?」
「……うん、もちろん!」
「……そっか、ありがと」
それから、しばらくして。
空が黄昏に染まる頃、扉の前にてそんなやり取りを私達。もうお客さんは私一人なので、こうしてゆっくり話していても問題はないみたいで……いや、それでも閉店作業もあるはずだし、あんまり長々といては申し訳ないけれど。
……ところで、それはそれとして……そう、どうしても言わなければならないことがあって――
「……あの、鴇杜くん。その、あの可愛いカップなんだけど……その、実は、私が壊しちゃって」
「ううん、ほんとに気にしないで、お姉ちゃん。うっかり落としちゃうことくらい、誰にだって――」
「……ううん、そうじゃないの。うっかり落として壊れちゃった、とかじゃなくて……あっ、それでももちろん駄目なんだけど……その、私が力を入れたせいで壊れたの。そもそも、取っ手だけが壊れるって不自然だと思わない? 他の部分は無事だったのに」
「……まあ、そう言われれば……」
そう伝えると、最後に納得したようなしていないような表情で呟く鴇杜くん。そう、あのカップは木製ということもあってか、床に落ちても本体の部分は欠けることなく無事だっ……いや、取っ手が壊れてる時点で無事とは言わないか。……うん、本当に申し訳ない。
「……でも、お姉ちゃん。その、壊れちゃったのにこう言っても説得力なんてないかもしれないけど、あれはすごく壊れづらくて……少なくとも、ちょっと力を入れたくらいじゃ絶対に壊れなくて……」
すると、困惑の様子でそう口にする鴇杜くん。……まあ、そうなるよね。恐らくは大人の男性の力でも、そう容易く壊れることはないだろうし。……だけど――
「……お姉ちゃん?」
そう、ちょこんと首を傾げる鴇杜くん。……うん、めちゃくちゃ可愛い。まあ、今は癒されてる場合じゃないんだけども。
ともあれ、彼の反応の理由は、ふと私が鞄を開き中を探り始めたから。そして、少しの間があった後――
「…………へっ?」
刹那、ポカンと口を開く鴇杜くん。と言うのも――卒然、私が目の前で鉛筆をポキッと割ってみせたから。
「……あの、お姉ちゃん。今のは……」
すると、ポカンとしたままそう口にする鴇杜くん。まあ、そうなるよね。そこまで頑丈なものでもないかもしれないけど、ちょっと力を入れただけで真っ二つになるほど脆くもないはずだし。……あっ、ちなみに割ったのは今日の授業中に既に割っちゃった鉛筆で、決して使える鉛筆を台無しにしたわけじゃ……いや、それでもどうかとは自分でも思うけども。
……ともあれ、これで彼も分かったはず。私が、いかに恐ろし――
「――すっごいね、お姉ちゃん!」
「…………へっ?」
「すごいよ、お姉ちゃん! 僕、昔からひ弱で、力とか全然なくって……それで、いじめられても抵抗すらできない、すっごく情けない有り様で……だから、お姉ちゃんみたいな強い人、すっごく憧れるんだ!」
すると、不意に届いた言葉に今度はこちらがポカンとする。力が強いことに憧れる……言葉だけ、なら皮肉の可能性も否めないけれど……でも、彼に限ってそれはない。今日会ったばかりで、こんな知ったようなことを言うのもどうかとは思うけど……それでも、彼の性格を考えれば皮肉はありえないと断言できる。
ならば、気を遣ってくれている……これなら、彼の性格からも十分にあり得る範疇かと。……でも、きっと今は違う。だって――その言葉が嘘だとしたら到底説明がつかないほどに、その澄み切った綺麗な瞳がキラキラと輝いているから。……だけど――
「……その、嫌じゃないの? こんな、力の強い女」
そう、おずおずと尋ねてみる。別に、性別がどうこう言いたいわけじゃない。……ただ、それでもこんなにも力の強い女なんて、きっと誰だって――
「……ごめんね、お姉ちゃん。なんでそんなに自分を卑下しちゃうのか、僕には分からなくて。……でも、嫌なわけなんてない。すっごく素敵で魅力的な、お姉ちゃんの個性だよ。だから、もっと自信を持ってほしいし……お願いだから、そんな悲しい表情しないでほしいな」




