大ピンチ?
「…………うわぁ、美味しい」
それから、数分経て。
思わず、感嘆の声が。まず、このブレンドコーヒーだけど……まず、香りが素晴らしく芳醇で。そして、さながら通のような所作で少しずつ口に含むと、ふわっとまろやかな苦味が口の中全体へと広がって……いや、通のような所作ってなに?
さて、お次にホットサンドを。……うん、美味しい。濃厚な卵の甘さと、仄かに焼けたパンのサクサク感がほどよくマッチし絶妙な……うん、やめよ。食レポ下手なのバレるし。
ともあれ、両方とも本当に美味しい。お店の雰囲気もすごく好きだし、何より店員さんが可愛いすぎる。これは、是非ともまた――
――ポキン。
「……………あっ!」
そんな感慨が、ピタリと止まる。と言うのも……いつの間にやら力の入っていたらしい右手で掴んでいた取っ手が、スナック菓子のごとくポキンと割れてカップが床に……そして、無残にもまだ半分以上あった中身が全て零れてしまい――
「…………はっ!」
その後、ややあって我に返る。……いや、ぼおっとしてる場合じゃない。ともかく、床を拭かな……いや、その前に――
「――その、申し訳ありません! こちらのカップは必ず弁償しますので!」
音を聞きつけたのだろう、駆け足でやって来たあの可愛い店員さんに深く頭を下げ謝意を告げる。……いや、問題は弁償だけじゃないけども。コーヒーを台無しにしちゃったのだってすごく申し訳ないし……でも、まずはお店の損害を補償することを考えなきゃ。……でも、バイト何ヶ月分くらいだろ――
「――弁償? そんなのいらないよ! そんなことよりお姉ちゃんは大丈夫!? 火傷とか怪我とかない!?」
「…………へっ? ……あっ、うん全然大丈夫! ほら見て! どこも何ともないから!」
「…………そっか。うん、それなら良かった……」
すると、さっきまでとは打って変わってはっきりとした口調で言い放つ店員さん。だけど、ややあって安堵したようで柔らかな笑顔に……ふぅ、良かった。
……ただ、それにしても……迷惑を掛けたのはこっちなのに、こんなにも心配してれるなんて――
「……ところで、お姉ちゃん。その……できれば下げてくれると助かるんだけど……それ」
「……へっ? ……っ!! その、ごめんなさい!」
そんな感慨の最中、顔を背けつつそう口にする店員さん。その綺麗な頬を真っ赤に染めつつ彼が口にした『それ』とは、間違いなく未だ捲れ上がったままの……いや違うの! その、火傷とか怪我とかないのを証明するために咄嗟に! だからいやらしい意図なんて本当に全然なんにも――
(……ねえ、なんなのあいつ。鴇杜くんに色目使うとか許せないんだけど)
(いや色目ってレベルじゃないでしょ。今すぐ出禁にすべきでしょ、あんな痴女)
すると、ほどなく近くから届く声。いや、声だけでなく四方八方から突き刺すような視線が私に……いや痴女じゃないから! ほら見て、この顔! たぶんめっちゃ真っ赤になってるよね!
……ただ、それはともあれ……そっか、鴇杜くんって言うんだ、この子。




