そんなの関係ないよ。
「……さて、今日は何にしようかな」
それから、翌日にて。
お昼休みにて、そんな呟きを零しつつ連絡通路を一人歩いていく。目下、構内の隅に在する食堂へと向かう最中で。クラスでは浮いてても、私のことなんてほぼ知らない人だらけの食堂なら浮くも何もないので非常に楽なわけでして。……まあ、うっかり何か壊してしまわないようには気をつけなきゃだけど。一回だけお茶碗を割っちゃったことがあるんだけど、あの時はすっごい気まずかったし……何より、色々と申し訳なかったし。
……ところで、それはそれとして――
「……ほんと、びっくりだよね」
そう、再びポツリと呟く。さっきから独り言ばかりで気持ち悪いかもしれないけど……まあ、お話しする相手が学校にはいないもので。
さて、そんな自虐はさておき……いや、ほんとびっくりだよ。よもや、店長さんだったとは。いや、この言い方は失礼だろうけど……でも、偏見とは承知しつつも店長っぽい感じには見えな――
「…………ん?」
すると、ふと思考が止まる。と言うのも――何とも覚束ない足取りでこちら側に歩いている、一人の男子生徒に目が留まったから。
そっと、左胸に手を添える。そして、深く呼吸を整える。……よし、大丈夫。自身にそう言い聞かせ、ゆっくりと彼の下へと近づいて――
「……その、良かったら手伝おうか?」
「…………へっ?」
「……あの、改めてですが、本当にありがとうございます……えっと……」
「……ああ、夕谷だよ。一年A組、夕谷水音」
「……あっ、はい。僕は澤山優斗と言います。一年C組です。……その、ありがとうございます、夕谷さん」
「ううん、気にしないで澤山くん。私、力には自信あるから」
それから、ほどなくして。
来た廊下を歩きながら、覚束ない口調で謝意を告げる男子生徒、澤山くん。見るからに重そうな荷物を運んでいたので、差し出がましくもこうしてお手伝いを申し出たわけで。……それにしても、なんだかちょっと似てるかも。こう、雰囲気とか。
「……でも、ほんと駄目だよね。僕、男なのに全然力がなくて……」
「……澤山くん」
すると、少し顔を伏せそう口にする澤山くん。そんな彼は力が強そうには見えない華奢な外見で、そして実際にそのようで。女性が力が強いことをひどく気にしていたように、男性は力が弱いことをひどく気にしているのだろう。……だけど――
「……男とか女とか、そんなの関係ないよ。私みたいに力の強い女の子もいれば、澤山くんのように力の弱い男の子もいる。ただ、それだけ。私みたいに力の……それこそ、男の子より強い女の子なんてそうそういないと思うけど……君は、私みたい子を駄目だって思う?」
「いえ、そんなことないです! ……その、すごく素敵だと思います……」
「……うん、ありがと。でも、それなら君も気にしなくていいんじゃない? 力なんかなくたって、君には君の魅力がある……なんて、何も知らないくせにだけど、私はそう思ってる」
「……夕谷さん……その、ありがとうございます」
「ふふっ、どういたしまして」
そう、差し出がましくも伝える。すると、仄かに微笑み謝意を告げてくれる澤山くん。……まあ、大したことは言ってないんだけどね。でも……それでも、彼が少しでも自分を肯定してくれるきっかけにでもなれば嬉しいな。




