(補完)第四十一章 ベルセルクヒーラー④
俺達は次の町に来ていた。特に取り立てて何もない加護持ちが多少いるだけの小さな町だ。
そこではアリエスが一人の人間の戦士を甚振っていた。見た目にはそうだ。アリエスの鈍器をどれだけ食らっても吹き飛ばされても立ち上がり立ち塞がってくる。
ここが街の占拠と指示が出てれば俺も即座に片付けていただろう。それでなくとも魔素ジェネレーターの建設部隊が始末していただろう。ただ今回はただの加護持ちの掃除だ。それも指示なしで独自にやっているだけだ。別に見逃しても構わない。
正直逃げても追わないんだがその気配がないな。ここを死に場所に決めている者の動きだ。他のオーガはアリエスが片付けると思っているが、いや、俺もそう思っていたのだが、あまりにも時間をかけすぎだ。傍目には嬲っているようにも見える。ここまで死力を尽くした戦士だ。横から俺が手を出す気にもなれずアリエスに任せる気でいたが終わる気配がない。
アリエスに人間への恨みがないという俺の見立てが間違っていたのか? それともかつての知り合いで恨みが噴き出したか。この扱いは尋常じゃない。
「アリエス。何をしている」
「わ、わが父。もう少しお待ちください。必ず仕留めて見せます」
? なんだ? なんでこいつが苦戦をしているような塩梅だ?
「アリエス。何かの奇跡か?」
そういえば魔物に痛みを与える奇跡などというのを放ってきた聖女が居たな。目の前に。
「いえ、違います。私に異常はありません。私は正常です。わが父の手を煩わせる事はあり得ません」
また嘘か。こいつは何の嘘をついている。俺の知らない奇跡があるとでもいうのか?
しかしアリエスが俺の与えた石棍棒を手に立ち尽くしている。限界だな。
「アリエス。終わりだ。こいつは放っておけ。次に行くぞ」
「そんな。私は必ず仕留めて見せます」
「なぜそこまで拘る。知り合いか?」
「いいえ違います。それでも私が乗り越えなければならない試練です」
試練? 何の試練だ?
そこでようやく俺は答えに辿り着いた。
アリエスは人を殺せない。それを乗り越え事が試練か。
俺は大地の支配でアリエスの持っている石棍棒を砕く。
「わが父? なぜです?」
「終わりだ。まだ続けたいならその名を捨てるか?」
「いいえ。私はアリエスです。わが父の命に従います」
そのアリエスの顔はなんとも言えないものだった。救われたとも諦めとも違う。絶望に満ちた顔だ。
これは俺がなんとなするしかないか。それでアリエスがその名を捨てることになっても今の状態では誰も救われないだろう。
王牙転生~鬼に転生したゲーマーは流されるままに剣を振るう~
第四十一章 ベルセルクヒーラーへ
https://ncode.syosetu.com/n7971kh/41/