(補完)第四十一章 ベルセルクヒーラー③
「聖女の時もあんな感じだったよ」
先の戦いを見ていたリンセスに意見を聞いていた。
「無駄に自信があって、何でも自分にできると思い込んでいて、周りの人間を信じないくせには他の人間は自分に盲従すると信じているの」
んー。凄い酷評が降ってきた。
「今も全くおんなじ。自分を特別な存在と思い込んでいるんでしょ。元聖女のくせに魔物たちが自分に付き従うと思っているんだから」
正論過ぎて、ぐうの音も出ない。
「ダンナもどうしてあんなのと一緒に居るの? 聖女だよ? あの戦いを忘れたの? 今だってダンナの首を狙ってるに決まっているじゃない!」
おおう。何一つ言い返せない。
まあそれが正解だろう。だが、
「もしアリエスが俺の首を狙うならあの立ち回りはない」
「どういうこと?」
「俺がアリエスならヒーラーとしての信用を築く。そして俺を倒せる敵が来たら裏切りだ。回復をしなければヒーラーを信じた前衛は簡単に殺せる。ヒーラーに能力以前に人格が求められるのはこのせいだ。その点アリエスは自身が前に出ている。それも人格的にも人間的にも信用に足る。流石元聖女と言う所だ」
「じゃあ本当にダンナの信徒になるっていうの?」
「それがわからん。アリエスの狙いがどこにあるのか。俺が聞きたいぐらいだ」
「その答えは信仰では足りませんか? わが父」
アリエスか。ふさぎ込んでいたからしばらくは立ち直れないと思っていたが。
「今回の戦いでもわが父ダンナ様は私を救ってくださいました。この信用に応えようとするのは信徒として当然です」
また嘘か。だがカラ元気もないよりはマシか。
「俺もお前のことは信用している。だが信仰となると話は別だ。俺は神ではないからな」
「わが父。それだけで十分なのです。あなたを信仰する一人の娘として光栄に思います」
これが嘘に聞こえない。俺の何処に信仰する要素があるんだ?
「ズルい」
ん?
「ダンナには私という娘がいるでしょう? どうしてそんな子を受け入れるの」
どういうことだ?
「わが父には私という信徒である娘がいるのです。貴女が本当の娘という事はないはず。わが父の本当の娘は私一人です」
何が起きてるんだってばよ。
「所詮信仰でしか縛れない元聖女が娘だなんて笑わせてくれるじゃない。私はそんなものなくてもダンナの娘なの」
「言いましたね。下賤なエルフが。貴女と違って人間は縛られない存在では居られないのです。全てが繋がっている。その繋がりを受け入れるのにどれほどの勇気がいるか。貴女にはわからないでしょうね」
「私をそんな自分勝手な女だと思ってるあなたが何も見えてないのよ。盲従の聖女」
「この、下賤な、下々が。人の加護に縋った亜人が。義務も果たさずに権利ばかりを押し付けて!」
「誰も頼んでない。あなたが勝手に納得して私たちの話も聞かない。それで負けた責任は私たちのせいにするの? あなたが負けた後私達がどうなったか! あなたは知っているの!?」
この二人は何の話をしているんだ?
「つまり二人が俺の娘では駄目なのか?」
「「駄目!!」」
おおう。
「「どっち!!」」
どういうことだってばよ。
それを助けてくれたのはシノだった。
「それは私のものだ。所有権は私にある。リンセス、お前は私の友だ。娘には出来ん。アリエス、前にも言ったが私は神になる気はない、よって娘には出来ん。王牙、お前は私の認めない娘を養子にするつもりはないだろう」
よくわからないが俺は頷いた。
「自称は構わん。だが私の王牙を所有しようとする存在を私は許さない。どうする二人とも」
「うん。ちょっと熱くなってた。ごめんねダンナ」
「私も少し舞い上がっていたようです。信仰とは見返を求めないもの。未熟でした」
「では解散だ。しばらく王牙を独占させてもらう」
「助かった」
「お前は女には全くモテないのに子供には随分とモテるんだな」
「言われても何かをしているわけではないぞ」
「それはわかっている。お前の精神年齢が幼過ぎるのだろう」
「俺は大人になれないんじゃない。人間になりたくないだけだ」
「なんだそれは。人間を拒否したものはすべて子供か」
「そういう事ではないのか?」
「・・・お前の言うそれは人間か?」
どういうことだ? 目で尋ねるが答えは返ってこなかった。