笛の音が響く場所で ※無理な人はブラウザバック
死にかけのエアコンが吐き出す吐息は、けれど全く持って夏という季節が持つ熱をあまりにも下げてはくれなかった。
学校では、羞恥心や悲壮感を訴えるアイドルに、同級生たちはキャーキャーと黄色い悲鳴を上げているが、どうやら僕には良さを解する機能があいにくなことに取り付けられていなかったらしい。
そんな僕を、世の人達は変わり者と呼ぶ。
好きに呼べばいいと思う。
カタカタとキーボードを叩くと、世界に広がる唯一の窓が反応を示してくれる。僕だって別に変わり者でありたいわけではなく、同級生たちと同じように流行を追う程度のことはしているのだ。ただ、どうやらこの流行というものが、僕と世間では著しくズレているらしい。
こんないいものを知らないなんて、だから彼らは子どもっぽいのだ。話も合わないし。
そんなことはどうでもよく、僕は僕だけが知っているサイトに──どうやら二次創作投稿サイト、というらしい──アクセスする。
お気に入りの、黒の剣士が活躍する作品が更新されていないことにがっかりしつつ、更新順で検索して最も新しい作品をクリックした。
さあどうか、退屈な世界に生きる僕を楽しませてくれ──
「なんで、高確率でHACHIM〇NとAK〇HISAがVRMMOをしているんだろう」
◆
死にかけのセミがベランダで跳ねていた。一体何が楽しいのだろうか。生まれてからずっと土の中にいて、ようやく地上に出たのに、少しの間だけ鳴き続けて死んでいく。つまらなくなかったのだろうか。ああ、それともこれは大人たちの人生ににているのかもしれない。
こんなつまらない大人になりたくない。サラリーマンなってもってのほかだ。僕はグシャリとセミを踏みつぶした。
お母さんにしばかれたので、ベランダの掃除をするという雑事を終え、僕は今日も退屈を紛らわせてくれるいっときの逃げ場所にと避難する。近頃の若者は本を読まないらしい。ならばそれは僕にも該当するのだろう。身近にこうやってWeb小説を読む同級生なんていないのだから。
最近の僕は、二次創作投稿サイトの中でも、よりニッチなジャンルを読み始めていた。
オリジナル小説。
自分だけの設定で、自分だけの物語を書く。そんな奇特な人たちが、こんなにもいるなんてことを僕は最初は信じられなかったのだ。
手当たり次第にクリックして、取り敢えず読んでみる。これが僕のやり方だった。
「1話目にキャラ設定を載せている小説って、2話目が中々更新されないんだな」
いつ更新されるんだろうか。CVまで設定されているキャラ達の活躍が気になる。僕は楽しみにしながら、お気に入りに登録をした。
◆
地デジカというらしい。テレビに映る珍妙なマスコットの名前だ。アナログテレビが廃止されて、地上波デジタル放送が始まるそうだ。
同級生たちはあいも変わらず、テレビに流れる愛と恋を謳うドラマに夢中だ。なにがそんなにも楽しいのだろうか。
こう考えると、やっぱり僕は人として必要な機能が欠けているのかもしれない。
まあ、別に。そんな機能が。必要とは思っていないけど。
近頃、パソコンが遅くて溜まったもんじゃない。一度、あまりにも遅すぎて、電話回線を引っこ抜いてみた。けれど、そんなことで速くなる道理はなかった。ただただ、電話回線と一緒に舞い上がった綿埃が、僕の鼻を刺激してくしゃみを連発させただけだった。
ようやく動き出したパソコンを操作して、ようやくにサイトに辿り着いた。僕はいつも通りスクロールをしていく。
「このオリジナル作品。なんか読んだことあるな……」
本屋さんで立ち読みしたことがある。せめて、主人公の名前を変えるくらいしたほうがいいと思うなあ……。
◆
思うに物語というものは、日々己の身に溜まっていくものなのだろう。そして、それが自分の殻を破って外に出る時に、小説になるのだ。僕のような人種は、小説として形にするしか、方法を知らないのかもしれない。
「よし、書けた」
あとは、あとがきだけである。
あとがき
いやー、つかれました。ここまで読んでくださってありがとうございます。え、まだ本編の中だろうって?そ、そんな、決して、文字数を稼ごうなんて(震え声)
アキラ「しょうもないこと言わなくていいよ、つまらないやつだな君は」
薫「しっ!作者君は、ここでしか出番がないからさみしいんだよ」
こらこら、聞こえてるぞ。僕は作者だぞ。
では、また次話!
以下
文字数稼ぎ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ